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第71話.また会おう

 週末の昼間、ロベルトの屋敷で再びパーティーが開かれた。俺の『会長就任記念パーティー』だ。


「レッドさんの会長就任をお祝いしましょう!」


 ロベルトの乾杯の挨拶とともに、人々がワインを飲んだ。パーティーの主役である俺はジュースだけど。

 前回のパーティーに比べて、客の中に強面の男が多かった。ビットリオとクレイ船長の部下たちだ。


「それにしても……17歳で総会の会長か。史上最年少だな」


 ビットリオがワインを飲みながら笑う。


「気分はどうだ、化け物? お前は17歳でこの都市の裏社会のトップになったんだぞ」

「別に普通だ」


 俺はコップをテーブルの上に置いて答えた。


「トップと言っても、ほぼ名誉職みたいなもんだろう? 実質的な権限はそんなに強くない」

「それはそうだけど……」


 ビットリオもコップをテーブルの上に置いた。


「ルアンとゼロムが逮捕されて、やつらの縄張りにはもう主導者がいない。お前がその主導者になってみるのはどうだ?」

「興味ない」


 俺は首を横に振った。


「そもそも俺の組織は『犯罪組織』ではないし、本格的に裏社会のビジネスに手を出すつもりもない。レストランくらいなら経営してもいいけど」

「それは残念だな」


 ビットリオが顔を歪めて笑う。


「お前がその気になりゃ、この都市の富を独り占めすることもできるはずなのによ」

「俺には他にやらなければならないことがある」

「じゃ、餌は私とクレイ船長とロベルトが3等分するか」


 俺はビットリオを見つめた。


「それは別にいい。ただし……紛争を起こすな」

「おっと……怖い、怖い。流石総会の会長だ」


 その時だった。ロベルトの部下の1人が応接間に入ってきて、客たちの相手をしていたロベルトに近寄って耳打ちした。

 何か起きたのか? と思っているとロベルトが俺に近づいてきた。


「レッドさん」

「何か起きたのか?」

「屋敷の外に……ドロシー卿が来ているそうです」


 俺は少し驚いた。


「ドロシーが?」

「はい、レッドさんに会いたいらしいです」

「分かった。俺が出てみる」


 俺は足を運び、庭園を横切って屋敷を出た。


「レッド」


 誰かが俺を呼んだ。革の鎧を着ている金髪の女騎士……ドロシーだ。彼女は十数人の兵士たちを連れて、ロベルトの屋敷の外に立っていた。


「すまない、パーティーの邪魔をしてしまったようだな」


 ドロシーは俺の礼服姿を見てそう言った。


「いや、いいんだ。むしろパーティーから抜け出せて気持ちいい」

「ふっ……お前らしいな」


 ドロシーが笑顔になる。


「で、わざわざここまで来た理由は何だ?」

「私はこれから王都に帰還する。その前に……『アンセル』に関する調査結果を伝えておきたくてな」

「アンセルか……」

「ああ、お前にはそれを知る権利がある」


 『アンセル』は『天使の涙』を使って人々を操り、死に至らせた『黒幕』だ。激戦の末……やつは俺の手によって死んだ。


「調査結果、アンセルはある貴族の私生児だったらしい」


 私生児……つまり半分貴族だったのか。


「彼は王都アカデミーの優秀な生徒として、学者を目指していた。だが危険な薬物実験を行ったことが発覚し、王都から事実上追放された」

「その後、犯罪者に成り下がったのか」

「ああ」


 ドロシーが頷く。


「アンセルの残した記録から推測すると、同じく王国から追放された集団に出会ったみたいだ。その集団から様々な知識を手に入れ、やがて犯罪組織を作るまでに至ったのだ」

「ふむ」

「アンセルは自分自身が優秀な人間で、社会を変えなければならないと思っていたらしい。そのために『天使の涙』を研究して新しい薬物を開発し、最終的には『疲れを知らない軍隊』を創造しようとしたわけだ」

「そんな都合のいい薬物があるもんか」

「ああ、実際アンセルは失敗を繰り返したけど……諦めずに勢力を拡大し、実験を続けた」


 なるほど。


「本当に危険な人物だった。レッド、お前がいなかったら……やつはこの王国の大きな脅威となったはずだ」

「へっ」


 俺はつい笑ってしまった。結果的には俺がこの王国の危機を取り除いたのか。


「本来なら王国から感謝されてもおかしくないが……」

「いいんだ、あんたらに感謝されるためにやったわけではない」

「ふっ、そうだな」


 ドロシーが笑った。


「だからこれは……王国からじゃなく、私からの謝礼だ」

「謝礼?」

「ああ」


 ドロシーは後ろを振り向いて、兵士たちに「あれを持って来い」と命令した。すると2人の兵士が何か重たいものを持ってきた。


「それは……」


 それは……巨大な『戦鎚( ウォーハンマー)』だった。俺は目を大きく開いて、その戦鎚を眺めた。

 その戦鎚は全体的に赤色と黒色に塗られている。そして戦鎚の頭は、ドラゴンの頭を模倣している。大きく開かれたドラゴンの口の中から円筒型の鋼鉄がはみ出ていて、敵を打ち砕けるようになっているのだ。それにその反対側にはドラゴンの角が付いていて、敵を刺せるようになっている。しかも頭から取っ手まで……全部鋼鉄で作られている。


「お前ほどの戦士が、いつまでも素手で戦うのもあれだと思ってな」

「そうか」


 俺は右手で戦鎚を持ち上げ、軽く振るってみた。戦鎚は……まるで昔から俺のものだったように手に馴染んだ。


「それを片手で……流石だな」


 ドロシーの顔に感嘆の表情が浮かんだ。


「これを俺にくれるのか?」

「もちろんだ。しかもそいつの名は……『レッドドラゴン』だ」

「レッドドラゴンって……」


 俺は笑ってしまった。まあ、俺にぴったりかもしれない。


「ありがとう。大事に扱う」

「こちらこそ……世話になった」


 ドロシーと俺は互いを見つめた。


「縁があったら、また会おう……レッド」

「ああ」


 ドロシーは兵士たちを率いてその場を去った。俺は彼女の後ろ姿を見つめた。

 何しろ……俺はこの王国を滅ぼすつもりだし、ドロシーは王室直属の騎士だ。今度会う時は……敵同士かもしれない。できればそんな事態は避けたいが……未来は誰にも分からないのだ。

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