第67話.次の目標はもちろん……
眩しい太陽の下で、俺は墓に花を供えた。
それはデリックの墓だった。俺と俺の組織員たちは、デリックに黙祷を捧げた。
そしてデリックの墓から少し離れたところに……フクロウの墓がある。俺はフクロウの墓にも花を供えた。
仲間や強敵との別れ……俺が道を進めば進むほど、こういう別れは続くだろう。しかし失ってばかりではない。戦いを通じて、俺は多くのものを手に入れた。
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翌日の朝から、俺たちは普段通りの生活に戻った。体を鍛えて、知識を勉強して、結束を強める……俺たちはまだまだ強くなっていくのだ。
「ボス」
ふとレイモンが話しかけてきた。
「以前、ボスが仰いましたよね。僕たちの組織がこの都市最強になれば……次の目標を教えてやる、と」
「ああ、確かに言ったな」
俺が頷くと、レイモンが笑顔を見せる。
「これは僕の勘違いかもしれませんが……僕たちの組織はもうこの都市で最強だと思いますが」
それを聞いて俺は少し考えてみた。『レッドの組織』の一員は、みんな1人で10人以上を相手できる強者だ。ボスの俺まで加われば、真っ向勝負で俺たちにかなう組織は……ない。
「反論できないな。俺たちはもう……この都市最強だ」
「でしょう?」
俺とレイモンは一緒に笑った。
「じゃ、教えてください。ボスの次の目標は何でしょうか」
「それは決まっているだろう?」
俺は鍛錬している組織員たちを眺めた。
「この都市の中で最強になったから……次はこの王国の中で最強になるのさ」
「王国の中で……?」
レイモンが目を丸くする。
「いつも思うんですが、ボスの考える事は予測不可能というか……僕の想像を超えています」
「安心しろ。これからもずっと想像を超えてやるから」
「はい、期待します」
大きな戦いが終わっても……止まるつもりはない。俺はまだまだこの道を進む。
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その日に夜、ロベルトの屋敷で大きなパーティーが開かれた。俺たちの勝利を祝うパーティーだ。
「さあ、皆さん! 思う存分に楽しんでください!」
広い応接間でロベルトが乾杯の挨拶をし、ワインを一口飲んだ。流石美中年というか、こういう場面がよく似合う。人々もロベルトに次いでワインを飲んだ。
それにしても本当に華麗なパーティーだ。食べ物も飲み物の最高だし、楽団が美しい曲を演奏している。こういう貴族のようなパーティーは初めてだ。
問題は……礼服があまりにも動きにくいということだ。俺も俺の組織員たちも礼服なんか持っていないので、ロベルトが用意してくれたのはありがたいけど……。
「レッドさん」
ロベルトが近づいてきた。彼は俺の姿をじっと眺めてから頷く。
「素敵ですね。レッドさんに合うサイズの礼服が用意できて幸いでした」
「それはありがたいけど……こんな動きづらい服装は、生まれて初めてだ」
「ふふ……それは仕方ありませんよ。これからもパーティーに参加なさることはたくさんあるはずですから、早く慣れないと」
「嫌だな……」
俺には豪華なパーティーより、強敵との戦いの方が楽しい。化け物扱いされるのもある意味自業自得だな。
「ところでロベルトさん」
「はい」
「あの女性たちは誰なんだ?」
俺は明るい顔で話し合っている女性たちを眺めた。彼女たちはみんな若くて、美しいドレスを着ている。
「この都市の有力者たちのご令嬢たちです」
「偉いところの娘たちが何故このパーティーに……」
「それが……」
ロベルトが苦笑する。
「実はですね……もうレッドさんのご活躍は、裏社会を超えてこの都市全体の話題になっています」
「……はあ?」
「もちろん詳細な情報までは知れ渡っていませんが……レッドさんがこの都市の組織全体を率いて恐ろしい陰謀を打ち砕いた、という噂が流れているんです」
まあ、確かに俺は数百に至る人々を率いてこの都市を隅々まで調べたし……噂されるのは当然のことか。
「それでみんな、英雄の姿を拝見したくてきたんですよ」
「英雄って……」
俺はつい笑ってしまった。そういえば、若い女性たちは時々俺の方を見つめた。『怖いけど好奇心が湧く』という態度だ。
「好奇の目で見られるのは、もう慣れているから構わないけど……おかげで俺の組織員たちが苦しんでいる」
俺の組織員たちも、着慣れない礼服を着てパーティーに参加していた。しかし彼らは若い女性たちの集団に遭遇して慌てていた。ゲッリトやリックくらいを除けば、みんな純粋すぎる反応だ。何が『この都市最強の組織』だ、こいつら。
やがて若い女性たちが俺の組織員たちに話しかけ始めた。俺は応接間の隅で食べ物を食べながら、組織員たちの慌てる姿を見物した。
「おい、化け物」
太った体型の中年男性が近づいてきた。この都市の裏を牛耳っているボスの1人、ビットリオだった。
「釈放されたのか?」
「もちろんだ。監獄など、別荘みたいなもんだ」
ビットリオはワインを飲みながら話を続ける。
「話は聞いた。お前が直接……薬物の黒幕を倒したと」
「ああ」
俺が頷くと、ビットリオは少し間を置いてから口を開く。
「……昨日の夜、夢に息子が出てきた」
「そうか」
「息子は平穏に見えた。お前のおかげだ」
ビットリオはいつもとは違う、まるで普通の中年男性みたいな顔になっていた。
「息子が生きていれば、お前の組織に入らせるのによ」
「それも悪くないな」
「……ありがとう」
ビットリオは応接間を出て、どこかに行ってしまった。俺はしばらく一人でジュースを飲んだ。
「レッド!」
いきなり後ろから少女の声が聞こえてきた。振り向いたらそこには……。
「どう? 私たちのドレス姿!」
そこにはシェラ、そしてアイリンが可愛いドレス姿で立っていた。




