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第65話.この瞬間を待っていた

 俺は壁にかけられていたランタンを手に持って、地下への階段を降りた。

 地下には長くて暗い通路があった。俺はそれを見て『地下礼拝堂の通路』を思い出した。しかしあの通路とは違ってかなり粗末な作りだ。たぶん『黒幕』がここに砦を建てた時、万が一に備えて作った通路なんだろう。

 俺は通路の中を全力で走った。ここまできて……『黒幕』を逃すわけにはいかない。かならず仕留める……!


「うっ……!?」


 俺は反射的に後ろへ跳んだ。暗闇の中から何の音もなく短剣が現れ……俺の首を斬ろうとしたのだ。


「くっ……!」


 背筋が冷たくなり、首筋から血が流れてきた。回避がほんの少しでも遅かったら……俺はもうやられていた。


「……やっとお出ましか」


 俺を奇襲した敵の気配は感じられなかった。でも気配が感じられないこそ……逆に敵の正体が分かる。

 やつは伝説の暗殺集団『夜の狩人』……その中でも奇襲と直接戦闘を専門にしている暗殺者。俺の目の前で2人の人間を殺し、俺に傷を負わせた敵。その名は……。


「『フクロウ』」


 俺は暗闇に向かって敵の名前を呼んだ。だが何の返事も返ってこない。

 地面にランタンを置き、懐から小さな瓶を持ち出して緑色の液体を飲んだ。爺からもらった『解毒剤』だ。これでフクロウの麻痺毒に少し耐えられる。

 そして俺が一歩前に進んだ時、また短剣が音もなく現れて俺の首を狙った。だが今回は俺の方もしっかり備えていた。


「はっ!」


 短剣を避けると同時に蹴りを入れた。その反撃は防がれたが、俺は暗闇の中で動いているフクロウの姿を捉えた。

 暗い通路の中では視界が制限される。しかもフクロウの動きはほとんど音がしないから耳ばかりに頼るのも難しい。つまり視覚と聴覚はもちろん、触覚や嗅覚まで使ってやつの姿を追い続けなければならない!

 俺はフクロウの横腹を狙って拳を振るった。フクロウはその攻撃をかわさず、俺の肩を狙って短剣を振るった。あの夜の再現……に見えるが、それは俺の罠だ。


「はあっ!」


 体をねじって短剣をかわし、同時にフクロウの手に蹴りを入れた。それでフクロウは短剣を落としてしまう。


「うおおお!」


 この機会を逃すわけにはいかない。そう思った俺は大きく踏み込んで一撃を放った。だがフクロウはその一撃をギリギリのところで回避して、俺の足に下段蹴りを入れた。それで俺のバランスが一瞬崩れると、上段回し蹴りを放って俺の頭を強打する。


「くっ……!」


 俺は衝撃で後ずさった。美しいほどの蹴りだった。こいつは……本当に強い。


「へっ」


 危険な状況なのに、不思議にも楽しい。強敵と命をかけて戦うこの瞬間が……俺には楽しすぎる!


「行くぞ」


 俺はもう血まみれになったシャツを脱いだ。そして全身の力を集中し、体の潜在能力を引き出した。爺から盗んだ『全身全霊の動き』……これで決めてやる。


「……何?」


 だがその時、俺は驚いて目を見開いた。フクロウが俺とまったく同じ構えで……全身の力を溜め始めた。


「お前が……爺の技を……?」


 俺の質問にフクロウは拳で答えた。やつは……爺の『全身全霊の動き』を完璧に使っている。


「くっ!」


 瞬く間に何度も殴られた。このままでは危ない。俺は気合を入れ直してフクロウに対抗した。


「ぐおおおお!」


 俺とフクロウは人間の限界を超える力と速さを手に入れ、激突し続けた。わずか数秒で数えきれないほどの攻防が交差した。しかも一発一発が全部必殺の攻撃だ。


「ぬおおお!」


 俺の渾身の一撃を、フクロウがとんでもない速さで回避する。それで俺の拳は後ろの石壁に大きな穴を開けてしまう。その隙を逃さずにフクロウは俺の腹に蹴りを入れるが、俺の反撃がフクロウの顔面を強打する。


「うっ……!」


 結局1分後には……2人ともボロボロになってしまった。俺もフクロウも全身に傷を負って、もうまっすぐ立っていることすらできないほど気力を失っていた。


「うおおおお!」


 力を絞り出して攻撃すると、フクロウも必死の反撃を放ってくる。満身創痍の2人は一歩も引かずに戦い続ける。どちらかの命が終わるまでは……この戦いも終わらない。

 俺は拳を握りしめた。この一撃で……勝負を決める。


「へっ……」


 フクロウも俺と同じ事を考えていた。やつは相変わらず無口だが、不思議にもやつの意志がはっきり伝わってくる。


「はああっ!」


 気合と共に、俺は最後の拳を放った。フクロウも同時に拳を放った。両者の攻撃は交差して……互いの心臓を強打した。


「くっ……」


 俺はふらついて壁にぶつかった。そしてフクロウは……倒れた。

 地面に倒れたフクロウは震える手で自分の覆面を外し、口を開く。


「……見事だ」


 その一言を残して……フクロウは目を閉じた。

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