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第62話.暗い通路

 俺からの知らせを聞いて、ロベルトとドロシーはすぐ『地下礼拝堂』まで駆けつけてきた。


「地下礼拝堂……本当に存在していたんですね」


 ロベルトが用心深く周囲を見回しながら呟いた。


「しかしこれを作った信者たちはどこに行ってしまったんでしょうか?」

「さあな」


 俺は肩をすくめた。


「何らかの理由でみんな死んでしまったのかもしれないし、そこの『隠し通路』を使って逃げたかもしれない」


 地下礼拝堂の奥には大きな扉があり、その向こうには……暗い通路がどこまでも続いていた。


「王室直属の騎士様なら何か知っているんじゃないか?」


 ドロシーを振り向いてそう言うと、彼女は首を横に振った。


「残念だけど、私も何も知らない。こういうことに関する情報は機密扱いだ。関連者以外は知る由もない」

「まあ、そうだろうな」

「それより……これから隠し通路に突入するつもりなんだろう?」


 ドロシーが話題を変えた。


「誰が先に入るんだ?」

「もちろん俺と俺の組織員たちだ」


 俺は組織員をちらっと見て答えた。


「罠や待ち伏せが待っている可能性が高い。俺たちが先に入って、道の安全を確保する」

「その判断に不満はないが……私も一緒に行く」


 ドロシーの発言に俺は少し驚いた。


「あんたも?」

「もちろんだ。この件に関して、私とお前は対等な関係だということを忘れたか?」

「それは分かっているけど……あんたの命は保証できないぞ」

「騎士を舐めるな、レッド」


 ドロシーは凍りつくような冷たい目をしていた。


「まあ、分かった。一緒に行こう」

「ああ」


 ロベルトに後方の安全を頼んで、俺たちは通路に突入する準備に入った。ランタンとつるはし、スコップなどはもちろん、万が一のために非常食も必要だ。

 準備が終わると、俺は俺の組織員たちを眺めた。みんな覚悟を決めて勇敢な顔をしている。本当に頼れるやつらだ。

 しかし、たった一人だけ……気になるやつがいる。


「……デリック」

「はい」


 デリックは揺るぎない眼差しで俺を見つめてきた。

 ここ数日間、デリックは誰よりも誠実に働いた。彼に残された命はあとわずかなのに……もう誰にも負けないという気迫だ。他の組織員たちもそんなデリックのことを認めている。

 だが、いくら気迫が強くても……デリックは明らかに衰弱している。


「たぶん何時間も歩かなければならないし、敵が待っている可能性も……」

「私も一緒に行きます」


 俺の意図を読んで、デリックがそう答えた。


「……分かった」


 もう何も言うまい。俺は7人の組織員たち、そしてドロシーと一緒に暗い通路へ踏み入った。


---


 通路はひたすら暗く……長かった。

 俺はドロシーと2人で先頭を歩いた。なるべく慎重に、そしてなるべく迅速に進んだ。

 通路自体は意外と広くて頑丈だった。壁はしっかり煉瓦で作られていて、長い年月にも耐えられるようになっていた。しかもどういう構造なのか、換気も悪くない。


「……よくも作ったな」


 ふとドロシーが呟いた。俺もその感想に同感だ。こんな通路を作るために……一体何年かかったんだろう? 5年? 10年? いや、それ以上かもしれない。


「ドロシー、あれを見ろ」

「あれは……」


 俺とドロシーは同時に立ち止まった。遠くから……白い光が見えてきたのだ。

 慎重に近づくと、それは地上からの光だった。通路の天井に穴が空いている。たぶん……換気口なんだろう。


「これはただ脱走のための通路ではないな」


 ドロシーの言う通りだ。ただ脱走するための通路なら、ここまで作り込む必要はない。つまり100年以上昔の人々も……何度もこの通路を使って都市を出入りしたに違いない。

 それからも所々に換気口があった。いくつかは瓦礫に塞がれて使えなくなっていたけど、別に換気には問題がなかった。


「レッド……そろそろ都市の外なのではないか?」

「ああ、俺もそう思う」


 この通路が一直線だと仮定すると……俺たちの進行速度からしてそろそろ都市の外だ。しかしまだ通路は終わらない。一体どこまで続いているんだろう?


「少し休憩するか」


 俺たちは通路に座って休憩に入った。万が一に備えて、皆の体力をある程度は温存させなければならない。


「ドロシー」

「何だ」

「トイレに行きたいなら、気にせず適当に済ませてもいい」

「……ふざけるな」


 俺としては配慮のつもりだったのに、ドロシーは殺気のこもった目で俺を睨みつけた。

 ほんの少しの休憩を終えて、俺たちはまた進み始めた。そしてしばらく後……異変が起きる。


「レッド、道が……」

「ああ、上り坂になっている」


 いつの間にか通路は上り坂になっていた。しかし不思議にも地上は見えない。ということは……。


「俺たちはたぶん北の山脈に向かっている」

「じゃ、この通路は山の洞窟に繋がっている可能性があるね」

「そうかもな」


 この通路は完全なる人工物ではなく、自然の洞窟を利用したのかもしれない。


「やっぱり……」


 その予想は当たった。突然『煉瓦の壁』が『岩壁』に変わってしまい、『通路』は『洞窟』に変わってしまった。しかもそれだけではない。微かだが……風を感じられる。

 俺たちは身を引き締めた。出口が近いと、みんな直感的に気付いた。


「あ……!」


 誰かが驚きの声を上げた。しかしその声は俺たちの方からではなかった。暗闇の向こうから……誰かが俺たちの存在に気付いたのだ。

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