第58話.情けないな
夜になり……俺はリックと一緒に例のレストランの店主に会った。レストランの買取りのためだ。
トムから聞いた通り、店主はお店を売って故郷に戻るつもりだった。おかげで取引は簡単に行われた。俺はお金を支払い、店主は俺にお店の権利書を渡してくれた。これで俺も立派な経営者ってわけだ。
ところで取引を終えて本拠地に帰る途中……誰かが俺に駆けつけてきた。
「レ、レッドさん!」
「トム?」
それは『ロベルトの組織』の下っ端、トムだった。小柄のトムは荒い息をしながら声を上げる。
「うちのボスからの伝言です!」
「ロベルトから?」
「はい! 至急港の東区域までいらしてください、とのことです!」
これは……何か異変が起きたに違いない。俺はリックを振り向いた。
「リック、俺はこれから港に向かう。お前は組織員たちにこのことを知らせて、港の東側に集合させろ」
「はい!」
指示を出してから、俺は走り始めた。トムも俺の後ろを必死に走った。
そして数分後……俺は港の東側についた。すると夜中の暗い海を背景に、ロベルトとその部下たちが並んでいるのが見えた。
「レッドさん!」
ロベルトが俺の姿を確認して声を上げた。
「何が起きったんだ?」
近づいて質問すると、ロベルトは手を伸ばして前方を指さした。そこには……白髪のルアンが立っていた。彼もまた数十の組織員たちを率いている。
「どうやら例の手紙が効きすぎたようです」
ロベルトが苦笑した。
今日の午後……俺とロベルトは、ルアンが密告者か否か確認するために『お前のやったことは全部分かっている。レッドより』という手紙を送った。そしてそれを読んだルアンは今……港に来ている。
「まさかあいつ……その手紙を読んで、港からこっそり逃げようとしたのか?」
「はい、そのようです」
「どうしようもないな……」
俺も笑うしかなかった。まさかその手紙がここまで効くとは思っていなかった。
「おい、ルアンさん」
俺は前に出てルアンを見つめた。
「どこへ逃げるつもりだ?」
「化け物め……」
ルアンが慌てる顔で俺を睨んでくる。
「わ、私は別に逃げようとしているんじゃないぞ!」
「じゃ、そこの船は何だ?」
俺はルアンの近くに停泊している、中型船を指さした。
「誰がどう見ても……密告がバレて逃げようとしているだけじゃないか」
「うるさい!」
ルアンの顔はもう俺より真っ赤になっていた。
「そもそもお前のようなクズ以下の化け物が『総会』のメンバーだなんて、絶対認めない!」
「へっ……で、どうする気だ?」
「ここで始末してやる!」
ルアンが自分の後ろに並んでいる部下たちを振り向く。
「皆の者、あの赤いやろうをぶっ殺せ!」
その命令に、数十の男たちが俺に向かって突撃してきた。数は結構多いけど……結局数だけだ。
俺は最初の男の腹に拳を一発入れ、そいつの胸倉を掴んで投げ飛ばした。そして左から接近してきたやつの膝を蹴って、後ろの回り込もうとするやつを裏拳で殴った。
「はあっ!」
こういう一対多数の戦闘にももう慣れている。要はずっと移動しながら、攻撃範囲に入ってくるやつを一撃で倒すことだ。完全に囲まれて身動きが取れなくなる状況さえ避ければ……こんな数だけのやつらは怖くない。
「レッドさんに加勢しろ!」
後ろからロベルトの声が聞こえてきた。数はルアンの組織より少ないが、ロベルトの部下たちは勇敢に戦い始めた。
「ぐおおおお!」
俺は突進して2人の敵に体当たりを食らわせた。2人はぶっ飛ばされて、後ろのやつらと激突する。その隙に3人の敵が俺を攻撃しようとしたが……俺の拳が先にやつらの頭やみぞおちを強打する。
「どけえぇぇ!」
真正面の男の顔を右手で掴み、そのまま振り回して数人の敵を倒した。武器になってくれた不幸な男が抵抗しようとしたので、別の敵に向かって投げ出してやった。
「う、うわあああああ!」
敵陣の中の誰かが恐怖で悲鳴を上げた。それをきっかけに、敵たちは敗走し始める。
「に、逃げろ!」
「化け物……化け物だ!」
恐怖はすぐ広がる。そして恐怖に支配されたら、たとえ屈強な男だとしても赤ん坊同然になる。もう勝負はついたのだ。
「は、早く! 早く船を出せ!」
もう部下たちすら捨てて、ルアンは1人で逃げようとしていた。しかし船乗りたちは動かない。
「何故船を出さないんだ!?」
ルアンは慌てて一喝したが、彼もすぐその答えに気付いた。暗い海の向こうから……多数の光が見え始めたのだ。いつの間にかこの周りは……多数の船によって完全に包囲されていた。
そして小さなボートが俺たちの近くまで来て、その中から1人の男が飛び降りた。
「少し遅かったな」
それはクレイ船長だった。彼が部下たちを連れて、この周りを封鎖したわけだ。
「話は聞いた。ルアンが密告者だって?」
「ああ、来てくれてありがとう」
俺がクレイ船長と握手を交わしていると、ロベルトが近づいてきた。
「お二方の活躍、本当に感銘を受けました。それじゃ……」
「ああ、ルアンのやろうを取っ捕まえて……何もかも白状させよう」
俺たち3人はルアンの船に乗船した。そこにはもうルアンしかいなかった。船乗りたちもどこかに逃げてしまったのだ。
「く、来るな!」
ルアンは真っ青な顔になって後ずさる。
「ざまねぇな」
俺は笑いながら手を伸ばし、ルアンの胸倉を掴んで持ち上げた。
「いろいろやってくれたな。覚悟してもらおう」
「ひいいいいいっ!」
ルアンが情けない悲鳴を上げた。犯罪組織のボスのくせに……見ているこっちが恥ずかしくなる。
「あんたも組織のボスなら、少しは威厳ってやつを……」
「わ、私は悪くない! 全部……全部ゼロムの計画だったんだ!」
ルアンは必死になって『全部ゼロムが悪い』と叫び続けた。俺とロベルトとクレイ船長は視線を交わした。




