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第57話.一応協力できそうだ

 ドロシーは多数の兵士たちを率いて、俺に冷たい視線を送っていた。俺が見つめ返すと……ドロシーは足を運んで俺に近づいてきた。


「…… 訓練された6人の兵士たちを一瞬で倒すとは」


 彼女は倒れている男たちを見下ろす。


「騎士の中でもこんなことができるのは少数だけだ。しかも武力だけではなく、状況把握力と判断力もなかなかだな」


 俺はドロシーを無表情で見つめた。


「俺の力を試してどうするつもりだ?」

「利用価値がある者は、利用せねばな」


 ドロシーの綺麗な顔に笑みが浮かぶ。


「どうだ、私の下で働いてみないか?」

「断る」


 俺は即答した。


「対等な関係を築きたいのなら、協力してやる。しかしあんたの下で働くつもりはない」

「対等な関係? 私と?」


 ドロシーが冷笑する。


「私が命令を出したら、お前はここから生きて帰れない」


 ドロシーの後ろには多数の兵士たちが並んで、彼女の命令だけを待っていた。


「俺を脅迫するつもりか?」

「これは警告だ」

「じゃ……俺も警告してやる」


 俺は彼女に一歩近づき、見下ろした。


「あんたが命令を出すと、10分以内に半数以上の兵士が倒される。そして15分後にはあんたの命も危ない」

「自信満々だな」


 俺とドロシーは立ち止まったまま、しばらく互いを冷たい視線で見つめ合った。


「……ふっ」


 ふとドロシーが笑い出す。


「無益な対立は止めよう。そもそも私たちが争い合うと、あいつが喜ぶだけだ」

「あいつ……?」

「お前が言っていた『人体実験の黒幕』だ」

「じゃ、あんたも『黒幕』を追っていたのか?」


 俺の質問に、ドロシーは小さく頷いた。


「ついてこい。説明してやる」


 ドロシーが歩き出した。俺は彼女の後ろを追った。

 やがて俺とドロシー、そして兵士たちは都市の中心部から離れて……広い空地で足を止めた。視界を塞ぐものは何も存在しなく、たとえ『夜の狩人』の暗殺者だとしても気付かれずに接近することはできない場所だ。


「あの薬物……」


 ドロシーが小さな声で話を始める。


「つまり『天使の涙』は、貴族の間でも問題視されている」


 俺はドロシーの声に耳を傾けた。


「数年前、とある高位貴族の息子が『天使の涙』によって命を失って以来……貴族社会もあの薬物を駆逐するために動いてきたのだ」


 確かロベルトもそういう話をしていたな。


「しかし表立って薬物を追跡するのは……少し難しい。何しろ外部に知られてはいけない、貴族社会のスキャンダルが絡んでいるからだ」


 なるほど……偉い貴族の子女が薬物をやっているのが知れ渡れば、いろいろまずいんだろう。


「だからこそ王室直属の騎士の中で『特別調査官』が選抜され、秘密裏に活動しているわけだ」

「つまり、あんたは以前から『黒幕』を追っていたのか」

「ああ」


 ドロシーが頷く。


「やつの存在に初めて気づいたのは、半年くらい前だった。この都市の北に連なっている山脈の周辺には小さな村がいくつかあるのだが……半年前からそれらの村で原因不明の変死体が多数発見された」

「それが『黒幕』の仕業だと?」

「そうだ」


 ドロシーの青い瞳に怒りの感情がこもる。


「『天使の涙』を使った人体実験の首謀者を追跡し続けたが、その結果は……手掛かりが全部燃やされ、私の仲間が首のない遺体となって発見されることだけだった」

「『夜の狩人』の暗殺者にやられたのか……」


 彼女の怒りが理解できた。


「それからも私は諦めずに追跡を続けたが、手掛かりがなくてはどうしようもなかった。しかし数日前……この都市の警備隊隊長が首のない遺体になったと聞き、すぐさま駆けつけてきたのだ」

「なるほど」


 ドロシーは俺を見上げる。


「私は別にこの都市の犯罪組織を駆逐するつもりはない。私の獲物は……あくまでも『人体実験の黒幕』だけだ」

「それなら俺と協力できそうだな」


 俺は頷いた。


「あんたの方は、『黒幕』の正体について何か知っているのか?」

「残念ながら……ほとんど何も知らない」


 ドロシーが首を横に振る。


「むしろお前の方が私より知っているだろう。『夜の狩人』の暗殺者と戦ったんだからな」

「俺も具体的な情報を掴んだわけではない。ただし……心当たりならある」

「心当たり?」

「それを言う前に……あんたに俺たちのことを密告したのは誰だったのか、教えてくれないか?」


 ドロシーは少し戸惑ったが、結局口を開く。


「まあ、正直に言おう。あれは匿名の密告だった」

「やっぱりか。じゃ、俺が知っていることを話そう」


 俺は今まで集めた情報と……ゼロムについて説明した。


「ロベルトが『黒幕』の追跡を提案した時、真っ先に反対してきたのもゼロムだった。状況証拠しかないけど……一番怪しいのは事実だ」

「なるほど」


 ドロシーは目を輝かせる。


「なら私がそのゼロムという男を取り調べようか?」

「いや、それはちょっと待ってくれ」


 俺は首を横に振った。


「あんたはこの都市から誰も逃げられないように検問を強化してくれ」

「それはできるけど、お前はどうする気だ?」

「直接調査を進めて……暗殺者に俺を狙わせるつもりだ」


 俺は自分の計画について説明した。


「『黒幕』のやつに、『一番の脅威はレッドだ』と信じ込ませるんだ。そうすればやつも俺の頭を狙うしかないだろう」

「……大胆というか、無謀だな」


 ドロシーが笑顔を見せた。


「分かった。ここはお前を信用してみよう」

「ありがとう」

「ただし……何か大事な情報を掴んだら、必ず私に知らせろ」

「ああ」


 ドロシーは口を噤んで、しばらく俺の顔を見つめてから……兵士たちを率いてその場を去った。

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