第555話.乗り越えて
太陽が空を明るく染めて、暗闇を晴らしてくれた。
山の中に隠された村も、眩しい太陽に照らされた。それで村の人々はまた新しい一日を始める。互いに挨拶して、笑顔を見せて、また新しい希望を抱えて生きようとする。
『信じられる人が傍にいる』。そのとても簡単で、とても難しいことこそが……人間に希望を与えている。それは……俺も同じだ。
俺と仲間たちは、もう一度マリアの家に集まった。そして無言の中で待った。二人を。
仲間たちはみんな疲れた顔をしていた。たぶんみんな眠れなかったんだろう。眠れないまま、みんなずっと悩んでくれたんだろう。このことをどう乗り越えればいいのかを。俺は仲間たちの真剣な心に感謝した。
「……来たな」
一人の少女が現れた。アイリンだ。
アイリンは真剣な顔で歩みを進んで、俺の傍に立った。みんな無言でそんなアイリンを見つめた。
「レッド」
「アイリン」
俺とアイリンは互いの名前を呼んだ。それで十分だ。
そして数秒後、また一人の少女が現れた。黒猫だ。
黒猫は覚悟を決めた顔で歩みを進んで、アイリンの前に立った。昨日と同じく、二人の少女は……互いの顔を見つめた。
まるで永遠のような沈黙が流れた。みんな何も言わないまま、ただ二人の少女を眺めた。
「……私は」
沈黙を破り、アイリンが黒猫に向かって口を開いた。
「貴方の行ったことを許すつもりはありません」
みんな息を殺して、アイリンの言葉を聞いた。
「貴方はただ命令されただけなのでしょう。でも私の家族を殺したのは、他でもなく貴方の両手です。それは変わらない事実です」
「……はい」
黒猫が視線を落とした。自分の行ったことを否定するつもりなんて、黒猫には無い。
そんな黒猫をしばらく見つめてから、またアイリンが口を開く。
「そして私は……貴方の変わりを信じます」
その言葉に、黒猫が目を見開く。
「私の……変わり……」
「はい」
アイリンが頷いた。
「子供たちから聞きました。貴方が誰よりも彼らを心配して、配慮してくれたと。いろいろ下手なところもあるが、本当に優しいお姉さんだと」
「私は……」
「シェラからも聞きました。都市で激しい戦闘が起きた時も、貴方は市民たちを救ってくれたと」
「それは……」
「貴方は自分の行いを後悔し、変わろうとしています。ただの口先だけではなく、本気で変わりの道を歩こうとしています」
少し間を置いて、アイリンが話を続ける。
「この世には悲しいことがたくさんあります。これまでも、これからも……悲しいことはたくさん起こるでしょう。でも私は……人々の変わろうとする心を信じたいです」
アイリンが黒猫の瞳を眺める。
「変わってください、貴方は」
「……はい」
黒猫が頷き、涙を流した。それは、二人の少女が……己の運命を乗り越える瞬間だった。




