第53話.しっかり受け取った
総会が終わり、俺はロベルトと一緒に夜道を歩いた。
周りにはまだ屈強な男たちが並んでいた。組織のボスたちの安全のためだ。
「それにしても……」
ふとロベルトが口を開いた。
「レッドさんのおかげで、全員の協力を得ることができましたね」
「これで少しでも手掛かりが見つかるといいけど……」
都市を隅々まで調査するのは決して簡単な作業ではない。でも今はできるだけのことをやるしかない。
「でもレッドさんが指揮を執っていると公表すれば……本当に暗殺者に狙われるかもしれません」
「最初からそのつもりだったのさ」
俺は笑った。
「直接戦ってみたから分かる。あの暗殺者は……俺が相手にしなければならない」
「……本当に感服いたしました」
ロベルトが俺を見上げる。
「私はレッドさんの器を高く評価しているつもりでした。しかし……それすら過小評価だったのかもしれません」
「さあな」
俺は苦笑した。
「それよりロベルトさん…… 総会のメンバーなんだけど」
「はい」
「その中の一人が『黒幕』である可能性はないのかな?」
俺の質問に、ロベルトは少し間を置いてから答える。
「その可能性は……否定できません」
「やっぱりか」
俺は頷いた。
「まあ、あんたとビットリオは除外してもいいだろう」
「はい」
ロベルトが笑った。
ロベルトとビットリオを除けば……残りはクレイ船長、ルアン、ゼロムの3人だ。この3人なら暗殺者を雇えるほどの財力もあるだろう。
「3人をこっそり調べることはできるだろうか?」
「それは……少し難しいかもしれません」
ロベルトが首を横に振った。
「彼らは組織を率いているし、ある程度の情報力も持っています。気付かれずに調査することはほぼ不可能でしょう」
「そうだな」
やっぱり今は少しずつ手掛かりを探していくしかないか。忙しくなるだろうな。
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そして翌日の朝、俺は組織員たちと一緒に出掛ける支度をした。もちろん本格的にこの都市を調査するためだ。
「もう説明したけど……暗殺者が俺を狙ってくる可能性が高い」
俺は組織員たちを眺めながら話した。
「もし怪しいやつを発見しても、一人で対抗するな。まず俺に知らせろ」
組織員たちは口を揃えて「はい!」と答えた。
「よし、出るぞ」
「その、ボス」
誰かが俺を呼んだ。振り向いたらリックだった。
「何だ」
「その……例のレストランのことですが」
「レストラン?」
俺は眉をひそめた。
「トムが紹介してくれたレストランです」
「……ああ、あれか」
俺が率いている『レッドの組織』は、まだちゃんとした資金源を確保できていない。だからいつも運営資金に余裕がない。トムはそれに気づいて、俺に『レストランの買取り』を提案してきた。それで俺はリックにそのレストランの経営状態を調べさせたけど……その後いろいろあってすっかり忘れていた。
「で、どうだった?」
「トムの話通り、結構安定したところでした。買取りすれば組織の運営に役立つでしょう」
「それはよかったな。じゃ、今夜レストランの店主に会ってみよう」
「はい」
俺は組織員たちを率いて本拠地を出た。今日は本拠地の周り、すなわち港の周辺を調査するつもりだ。
「……ん?」
ところが……本拠地を出た途端、俺は少し驚いた。誰かが本拠地の前に立っていたのだ。しかもそれは……。
「お前は……デリック?」
それはデリックだった。悪名高い薬物『天使の涙』の実験に利用され、俺と戦ったあのデリックだ。
「どうしてここにいるんだ?」
デリックは薬物中毒により、もう長く生きられない。だから俺は彼を故郷に戻らせたんだが……。
「レッドさん、私は……」
デリックの顔はひどくやつれていて、今にも倒れそうだった。
「私は……役に立ちたいんです」
「お前……」
俺はデリックに近づいた。デリックは項垂れて、震える声で話を続ける。
「私は孤児です。故郷に戻っても……一人で死ぬだけです。だから……ここに来ました」
いつの間にか彼は泣いていた。
「知っています。私は馬鹿です。生まれてこの方、人の役に立ったことなどありません。いつも迷惑ばかりかけて……でも……」
「デリック……」
「でもせめて……死ぬときだけは……役に立ちたいんです……!」
俺はデリックの肩に手を乗せた。
「その心、しっかり受け取った」
「レッドさん……」
「今日からお前は俺の組織の一員だ。一緒に……この都市を守り抜こう」
「……ありがとうございます!」
そうやって……『レッドの組織』は8人になった。




