第51話.この都市の裏を牛耳っている5人……
それは滅多に見れない光景だった。
深夜なのに、街の中に大勢の人々が並んでいた。しかもみんな険悪な顔をしている屈強な男たちだ。どこをどう見ても『善良な一般市民』ではない。
俺は彼らの視線を浴びながら、ロベルトと一緒に夜道を歩いた。
「あそこです」
ロベルトが手を伸ばし、大きな酒場を指さした。その酒場も屈強な男たちに囲まれていた。
「あそこが今日の『総会』の場所です。さあ、行きましょう」
「ああ」
俺とロベルトは酒場に近づき、その中に入った。
酒場の内部には一台の大きな円型テーブルがあるだけだった。そして4人の男がそのテーブルに座ってお酒を飲んでいた。ロベルトが空いている席に座り、俺もその隣に座った。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
ロベルトが口を開くと、4人の男が飲酒を中止する。
「では、今回の総会を始める前に……皆さんにご紹介させていただきます。こちらのお方が……」
ロベルトが俺の方を振り向く。
「今日から総会に参加することとなった、6つ目のボス……レッドさんです」
全員の視線が俺に集まった。彼らは俺の肌の色を見ても別に何の反応も見せなかった。入り口側に座っている若い男だけが、少し好奇の眼差しを向けてきたくらいだ。
「レッドさん、総会のメンバーをご紹介させていただきます。まずビットリオさんは……もうご存知でしょう」
ビットリオと俺の視線が交差した。先に来ていた4人の男の中で、俺が唯一知っている顔だ。
「ビットリオさんの隣のお方が……船乗りたちと港の労働者たちを束ねている『クレイ船長』です」
クレイ船長はいかにも海の男らしい、体格のいい中年の男だった。
「クレイ船長の隣のお方が……この都市の金融を率いている『ルアン』さん」
ルアンは頭の良さそうな、白髪の男だ。犯罪組織のボスというより有能な経営者みたいだ。
「そして最後に……歓楽街を司っている『ゼロム』さんです」
ゼロムは茶髪のかなり若い男だった。25歳……? いや、それ以下かもしれない。
「今日からレッドさんも総会のメンバーですから、どうか皆さんと友好的な協力関係を築いてください」
「ああ」
俺はもう一度メンバーたちを眺めた。『ロベルト』、『ビットリオ』、『クレイ船長』、『ルアン』、『ゼロム』……この5人がこの都市の裏を牛耳っているのだ。
ロベルトとビットリオは俺に好意的な眼差しを送ってきた。しかし他の3人は……多少の差はあれど、決して俺に好意的ではない。
「ロベルトさん」
最初に口を開いたのは、白髪のルアンだった。
「ロベルトさんに少し質問したいことがありますが」
「何の質問でしょうか」
「この会議に参加できるのは、それなりの影響力を持っている組織のボスだけです」
ルアンは事務的な口調で話しを続ける。
「もちろんレッドさんの格闘場でのご活躍は私も知っています。しかし彼の組織は、ボスを含めてたった7人だけと聞きました。それなのに……果たして総会に参加できる資格があるんでしょうか」
ルアンの冷たい視線が俺に向けられた。
「資格ならあるさ」
そう答えたのはビットリオだった。
「この化け物の組織はな、戦いに慣れている連中の集まりだ」
「いくら強くても、たった7人だけでは……」
「あんたの組織の戦闘員は何人だ? 200人? 300人? それでもこの化け物の組織に勝てる保証はないぞ」
ビットリオとルアンの視線が交差した。
「ビットリオさんの話通りです」
ロベルトが口を開いた。
「確かにレッドさんの組織は7人だけですが、その戦闘力は他の組織に勝るとも劣らないほどです」
「たとえそれが本当だとしても……」
「それに」
ロベルトがルアンを凝視する。
「今回の件……薬物を流通していたやつらを一網打尽にしたのも、その背後にラズロがいたことを明らかにしたのも、『夜の狩人』の暗殺者と戦ったのも……全部レッドさんです。彼の手柄があってこそ、この総会が開かれたわけです。参加する資格は十分あると思いますが」
「……ロベルトさんがそこまで仰るなら……分かりました」
ルアンが視線を逸らした。
「皆さんが納得してくださるのなら、前置きはここまでにして……本題に入ります」
別の不満が出る前に、ロベルトが話を進めた。




