第519話.太陽のように
「ボスに加勢しろ!」
赤竜騎士団の団長、レイモンが叫んだ。そして6人の騎士は各々の武器を構えて、迷いなく数百の強敵に向かって突進する。
「はあっ!」
敵に接近したレイモンが短槍を突き刺す。ルケリア王国兵は避けようとするが、レイモンの槍はまるで生きているように動いてやつの首を貫通する。血が流れ、戦いは一層激しくなる。
「うりゃああ!」
ジョージが斧を振り下ろして敵の上半身を両断すると、ゲッリトが連接棍で隣の敵の頭を粉砕する。赤竜騎士団の中でもこの2人は対集団戦に優れている。敵が多ければ多いほど、熊と狼は凄まじい殺傷力を発揮する。
レイモン、ジョージ、ゲッリトが前方の敵を粉砕している間……カールトン、エイブ、リックは側面から接近する敵を抑える。3人は機敏な剣術で敵の進路を塞ぎ、味方が囲まれないように支える。
「こいつらは一体……!?」
「強い……!」
たった6人の援軍によって戦況が変わる。俺を包囲している敵部隊の動きがどんどん鈍くなる。俺は仲間たちと合流するために、敵を斬り捨てながら後ろに下がった。
「ボス!」
俺の背後の敵が血を流しながら倒れた。レイモンが俺のところまで来てくれたのだ。たった6人で数百のルケリア王国軍を突破するなんて、本当に信じられない活躍だ。
「レイモン! 猫姉妹とドロシーが後方にいる! 急いで合流するぞ!」
「はっ!」
俺と赤竜騎士団は一緒に突撃を仕掛けた。ルケリア王国軍がそんな俺たちを阻止しようとするが……無駄だ。何しろ、俺たち7人は……今まで何度も地獄のような修羅場を圧倒してきた!
「うおおおお!」
俺は前方の敵を蹴り飛ばし、後ろの敵に激突させた。他の敵が俺を斬ろうとするが、そいつはレイモンの槍に首が貫通される。レイモンに接近する敵をジョージが両断し、ジョージを刺そうとするやつをゲッリトが粉砕する。後方の敵が俺たちを追跡しようとするが、やつらはカールトンに阻止され、エイブとリックに斬られる。
刃物と鈍器が交差し、悲鳴と雄叫びが轟き、鮮血と肉片が散らばる中……俺たちの連携は鋭くなっていく。超人の域に達した最精鋭の戦士たちが、極限まで息を合わせて戦う。そこから生まれる力は……敵はもちろん、俺たち自身も驚くほどだ。
朝の太陽に照らされているこの瞬間、俺たちの闘志が広大な港を覆っていく。大陸最強と呼ばれるルケリア王国軍すら、俺たちの気迫に押されていく。
「レッド君!」
白猫が俺を呼んだ。無我夢中で敵部隊を突破していたら、いつの間にか後方の猫姉妹とドロシーに合流出来た。3人は苦戦していたが、幸い無事だった。
「ここからはみんなで一緒に対抗する!」
俺が号令すると、10人は自然に円になる。そして四方から突撃してくる敵兵士たちを倒し続ける。仲間の背中を守り、目の前の敵を倒し、運命に対抗を続ける!
白猫が踊るかのように動いて敵をかく乱すると、黒猫のハルバードとドロシーの細剣が敵を倒す。そんな3人を狙って敵兵士たちが突進するが、そいつらは俺が体当たりでぶっ倒す。ルケリア王国軍は絶えなく突撃を続けるが、俺たちはその全てを粉砕した。
「我がルケリア王国軍が……押されている……!?」
「馬鹿な……!」
俺たちの悪魔のような奮戦に、真っ黒な兵士たちが動揺する。今まで想像も出来なかったんだろう。まさか大陸最強と呼ばれている自分たちが……たった10人の戦士に圧倒されるとは想像も出来なかったはずだ!
「狼狽えるな!」
オレーナが大声で一喝した。
「上陸を続けろ! 敵は少数だ! 数で圧倒せよ!」
オレーナの指示に従い、戦艦に乗っていたルケリア王国軍が次々と上陸する。俺たちが倒し続けても……敵は増えてばかりだ。
「へっ」
俺は笑ってしまった。やっぱりこいつらは……普通の軍隊とは違う。俺たちの悪魔のような奮戦に圧倒されているのに、尚更戦闘を続けようとする。流石『大陸最強の軍隊』だ。
「ぐおおおお!」
突進してくる敵兵士の首を掴み、全力で投げ飛ばした。2人の敵兵士がそれにぶつかって倒れる。俺はそいつらを踏み潰し、次の敵兵士を斬り捨てる。
「攻撃の手を緩めるな! 敵も消耗している! ルケリア王国軍の力を見せてやれ!」
オレーナが更に号令した。それを聞いて、俺は仲間たちの状態を確認した。仲間たちはまだ凄まじい気迫を放っているが……体力が低下し始めている。まだ大丈夫なのは俺とレイモンと白猫くらいだ。他の仲間たちは……このまま戦いを続けたらいずれ耐えられなくなる。
当然と言えば当然のことだ。俺たちは朝の日の出からずっと激戦を繰り返した。広大な都市を疾走し、反乱軍を倒し、放火を阻止した。その後、休む暇もなく大陸最強のルケリア王国軍と乱戦をしている。いくら超人的な戦士だとしても……体力の消耗は避けられない。俺ですら少し疲れを感じている。
ここで引き下がったら、ルケリア王国軍の上陸を阻止出来なくなる。でもだからといって仲間を犠牲にするわけにはいかない。
「レイモン!」
敵を斬り捨てながら、俺はレイモンを呼んだ。
「ここは俺に任せて、お前はみんなを連れて下がれ!」
俺がそう指示したが、レイモンは答えずに気迫を強める。いや、レイモンだけではない。仲間たちはみんな逆に気迫を強める。
「何言ってるんですか、ボス?」
ゲッリトが声を上げる。
「俺たちは赤竜の騎士です。赤竜のボスが戦っているのに……俺たちが下がるわけがないじゃないですか!」
そう言いながらゲッリトは連接棍を振るい、敵兵士の頭を容赦なく粉砕する。
「別に騎士じゃないけど、その言葉には同意するわよ」
白猫が言った。
「黒猫も私も、レッド君を捨てて逃げるつもりは毛頭ないからね」
その言葉に黒猫が頷いた。そして姉妹は連携攻撃で敵兵士たちを倒す。
俺はちらっとドロシーの方を見た。この場で俺の部下ではないのは彼女だけだ。しかしドロシーは冷たい目で俺を見返す。
「北方の騎士を舐めるな、レッド」
「へっ」
俺は笑うしかなかった。仲間たちは最後まで戦うつもりだ。最後まで……俺と一緒に戦うつもりだ。
いきなり身体の底から熱が湧いてくる。その熱はどんどん広がり、いつの間にか俺の全身を覆う。まるで俺自身が炎になったような……いや、太陽そのものになったような感覚だ!
無尽蔵の熱が、無尽蔵の力に変わる。ついさっきまでの疲れが消えてしまい、身体が軽くなる。どうしてこんなことが出来るのか、俺でさえその原理が分からないが……関係ない。仲間たちを助け、敵を粉砕することが出来るのなら……この力が何だろうが関係ない!
「みんな、もう少し耐えてくれ」
俺は小さく呟いた。激戦の途中なのに、不思議にもその言葉はみんなに伝わった。
「俺が……突破口を切り開く」
そう言い残し、俺は前方に突進して……剣を振るった。その一撃に3人の敵兵士が腰から両断される。そして血が噴き出てくるよりも早く、俺はまた2人を斬った。
「こ、これは……!?」
「化け物……!」
ルケリア王国軍が驚愕する。俺は無尽蔵の力を使い、敵を斬りながら一直線に進んだ。目標は……敵の指揮官、オレーナ・イオベインだ!
「赤竜を阻止せよ!」
オレーナがまた号令した。しかし彼女の声には焦りが滲んでいる。黒竜の妹も、俺の力を目撃して動揺している。そして指揮官の動揺は……瞬く間に兵士たちに広がる。
「う、うわああっ!?」
敵兵士が悲鳴を上げる。俺はそいつの首を斬り飛ばし、更に前進した。ルケリア王国軍の勢いが明らかに弱まる。こんなやつらでは、もう俺を止めることなど出来ない……!
「オレーナ……!」
立ち塞がる敵を倒しながら、俺は黒竜の妹を呼び叫んだ。もう俺と彼女は互いの表情が見えるほど近い。俺はニヤリとし、オレーナは目を見開く。
「オレーナ様!」
ルケリア王国軍の士官が叫んだ。
「危険です! ここは私たちに任せて、一旦お下がりください!」
「くっ……!」
オレーナの美しい顔が屈辱で歪む。『大陸最強』ルケリア王国の王族として……こんなことは初めてなんだろう。
「赤竜……!」
オレーナは俺を睨みつけた後、戦艦に後退する。俺は内心舌打ちした。オレーナがもう少し意地を張ってくれたら……彼女をここで排除出来たはずだ。絶好の機会だったのに……残念だ。
でもオレーナの退却により、ルケリア王国軍の勢いは更に落ちてしまう。それでも上陸を続けているが、やつらの動きは鈍くなっている。俺と仲間たちの気迫に圧倒され、萎縮している。
俺も一旦後ろに下がって、仲間たちと再合流した。仲間たちはまだ健在だ。
「一体何ですか、今のは?」
俺を見てゲッリトが笑った。
「ボスが最強なのは知っていましたけど……流石に今のは信じられません」
「へっ」
俺も笑った。その時、後ろから無数の足音がした。軍馬の足音だ。




