表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/602

第50話.6つ目のボス……か

 俺は組織員たちを鍛錬させながら……『夜の狩人』の暗殺者と、そいつを雇った『黒幕』について考えてみた。

 俺が暗殺者と戦った時点から、当然黒幕も俺の存在に気付いたはずだ。そして少し調べれば、俺がロベルトやビットリオと手を組んだことも分かるだろう。

 つまり黒幕は『ロベルト』、『ビットリオ』、『レッド』……この3人が自分の敵だということを認識したはずだ。しかし……誰にも暗殺者を送ってこない。

 何故だろう? 絶対失敗しない暗殺者を派遣すれば、簡単に敵を始末できるはずなのに……何故そうしないんだろう?

 尻尾を掴まれることを恐れて、しばらく静かにするつもりなんだろうか? 次の計画のための準備をしているんだろうか? いや、単に暗殺を依頼するお金が足りないのかもしれない。爺の話によると、本当に莫大なお金が必要らしいから。

 どちらにしろ、『夜の狩人』の暗殺者が俺を狙ってほしい。ロベルトとビットリオも防備を固めているが……正直危ない。やつを確実に止められるのは俺しかいないのだ。どうにかして俺を狙うように仕向けたい。


「レイモン」

「はい」

「ここは任せた」

「分かりました!」


 午後になり、俺は組織員たちの指導をレイモンに任せて格闘場に向かった。ロベルトと情報を交換することになっている。俺の方は爺からの情報を待つだけだが、ロベルトなら何か掴んだのかもしれない。

 格闘場はロベルトの部下でいっぱいだった。しかもみんな武装している。暗殺者に狙われる可能性が高いから当然のことだけど。

 事務室に入ると、そこにも数人の護衛が配置されていた。ロベルトは俺の姿を確認して護衛たちを外に出した。


「慎重だな」

「はい、腕っ節にはあまり自信がありませんから」


 ロベルトが恥ずかしそうに笑った。

 暑い夏なのに、事務室の窓は閉じられていた。外からの狙撃を防ぐためだろう。


「何か情報を掴んだのか?」

「いいえ……ラズロと女の周りを調査しましたが、何もありませんでした」


 ロベルトが首を横に振る。


「ただ……女の身分を証明する書類は、全て偽装されたものだったと判明しました」

「やっぱりただの娼婦ではなかったんだな」

「鼠の爺さんの話通り、工作員だったんでしょう」


 『夜の狩人』から派遣された女の工作員……しかも彼女は『夜の狩人』の仲間に殺された。恐ろしい連中だ。


「……結局黒幕に関する情報は『お金持ちだ』ということだけか」

「はい。しかし……お金持ちなのは確かですが、貴族ではない気がします」


 ロベルトが慎重な口調で話した。


「こういう話はちょっとあれですが、貴族なら自分の領地の犯罪者を使って人体実験を行うとか……とにかくもっと安全で簡単な方法があるはずです。でも黒幕はこの都市の貧民を実験に使いました。つまり……」

「お金はあっても、表に立って行動するほどの権力はない……ということか」

「はい。平民、または裏社会の人間である可能性が高いです」


 この『南の都市』は言わば『自由都市』だ。貴族によって統治されているわけではなく、王室から派遣された官吏が統治する。ある程度の自由が保障されているからこそ、活気溢れる商業都市に発展できたわけだ。

 だが……『黒幕』はその自由の隙を狙って薬物を流通させ、人体実験を行ったのだ。


「貴族ではなく、お金持ちの平民なら……この都市に住んでいるかもしれない」

「私もそう思っています」

「もしかしたら道端ですれ違った可能性すらあるな」


 俺は想像してみた。極めて普通の、どうみても善良な市民にしか見えない『黒幕』の姿を。


「だからこそ、この都市をもう少し細かく調査したいんですが……」


 ロベルトが顎に手を当てる。


「私とビットリオさんの組織だけでは、どうしても目が届かない場所がいくつかあります」

「他の組織たちが管理している場所か?」

「はい」


 ロベルトとビットリオはそれなりに大きい組織のボスだが、この都市全体を掌握しているわけではない。他にも有力な組織がいくつかある。


「それで私とビットリオさんは……この件を『総会』に報告しました」

「『総会』?」

「はい」


 ロベルトが頷く。


「この都市には無数の組織が存在しますが、その中でも特に強い影響力を持っている5つの組織があります。その5つの組織のボスたちの会議が『総会』です」

「なるほど」

「私とビットリオさん、そして他の3人が協力すれば……この都市を隅から隅まで調査できます」


 俺は頷いた。確かに今の時点では一番有効な方法だろう。


「実は、その総会が今夜開かれることになっています」

「そうか」

「レッドさんも是非いらしてください」

「俺?」


 俺は眉をひそめた。


「俺の組織はたった7人だけなんだが」

「いいえ……」


 ロベルトが俺の顔を凝視する。


「今回の件、レッドさんの力がなければ解決できません。私もビットリオさんもそう思っています。だからこそ6つ目のボスとして……総会に参加して頂きたいです」

「……分かった」


 あの暗殺者を俺の目の前まで誘き出す必要がある。総会の協力を得れば、それが可能になるかもしれない。頭の中に暗殺者の姿を浮かべながら……俺はそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ