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第504話.目標は定まった

 2月25日、俺たちはドレンス男爵の城に帰還した。


 俺とドレンス男爵は各々の部隊を連れて、崖の上の城に向かった。城下町の領民たちは道路の左右に並び立ち、俺たちの帰還を眺める。


 領民たちは安心した顔だ。いきなり起こった反乱のせいで不安だったが、幸い短時間で治まったからだ。


 城に入るや否や、俺はまずリックとカールトンを呼んである任務を与えた。そして他の赤竜騎士団と騎兵隊に休憩を命じた。今日は休んで明日から遠征軍本部に帰る。まだ東部遠征は終わっていないのだ。更なる激戦が……俺たちを待っている。


 俺も自分の部屋で休んだ。柔らかいソファーに身を任せて、甘い香りのお茶を飲みながら……静かに休憩を楽しんだ。誰かが扉をノックしてくるまで。


「入ってくれ」


 俺がノックに返事すると、「失礼致します」という言葉と共に1人の男が入ってきた。この地の領主、ドレンス男爵だ。


「ご休憩中に申し訳ございません、公爵様」


「いいんだ」


 俺は笑顔を見せた。


「また何かあったのか?」


「キーアンから……伯父から聞いた情報を公爵様にもお知らせする必要があると思いまして」


「そうか。じゃ、座ってくれ」


「はい」


 ドレンス男爵は俺の向かい席に座り、話を始める。


「公爵様のお考え通り、キーアンに反乱を唆したのは……アルデイラ公爵でした」


「だろうな」


「アルデイラ公爵は10年以上前からキーアンと協力関係を築いていたみたいです。そして戦乱が始まると、キーアンに『私の合図に合わせて決起せよ』と伝えた模様です」


「なるほど」


 俺は軽く頷いた。


「アルデイラ公爵は昔からキーアンに利用価値があると思ったんだな。キーアンは王国の現状に怒りを抱いていたから」


「はい。キーアンの方もアルデイラ公爵の黒い腹の中を知っていましたが、それでも協力してきたようです。王都の高官たちへの恨みを晴らすために」


 ドレンス男爵が強張った顔で話を続ける。


「1ヶ月前、コリント女公爵に負けたアルデイラ公爵は、たった数人の部下を連れてこのドレンス男爵領に来ました。キーアンはそんなアルデイラ公爵を自分の別荘に匿ってあげました」


「そしてアルデイラ公爵は……この地で俺を狩る罠を用意したわけだ」


 俺は腕を組んだ。


「しかし結局罠は失敗して、アルデイラ公爵はキーアンを囮にして1人で逃げ出した」


「はい。公爵様のご活躍により反乱軍が敗退すると、アルデイラ公爵はキーアンに時間稼ぎを指示して自身は南へと逃走しました。その後、キーアンはせめて部下たちの命だけでも救うために降伏交渉を申し出たわけです」


 ドレンス男爵は深呼吸をして、また口を開く。


「……キーアンの証言はここまでです。伯父は……部下たちを助けてくれるなら自分自身は処刑されてもいいと言っています」


「そうか。じゃ、あんたはどうするつもりだ?」


「私は……少し時間を置こうと思っております」


 ドレンス男爵は慎重な顔でそう言った。


「伯父はまだ領民たちの人望を持っています。無暗に彼を処刑すると、領民たちが不満や怒りを抱くかもしれません。まず正式に裁判に掛けた後、投獄する方が領地のためだと思います」


「あんたがそう決めたのなら、俺も反対しないさ」


「ありがとうございます、公爵様」


 ドレンス男爵が頭を下げた。そしてしばらく後、彼はまた口を開いた。


「……これで残りの問題は、アルデイラ公爵だけですね」


「まあな」


「アルデイラ公爵がルケリア王国と結託したという話は自分も聞きましたが、まさかここまで陰険な人物だとは知りませんでした」


 ドレンス男爵の顔が強張る。


「彼はロウェイン公爵様の命を狙うために、この地の人々の怒りを利用しました。しかも計画が失敗すると人々を見捨てて逃走しました。そんな人物を許すわけにはいきません」


 ドレンス男爵の声に怒りが籠る。


「アルデイラ公爵を野放しにしておけば、また悪事を繰り返すかもしれません」


「心配するな。既にアルデイラ公爵を撃滅するための作戦が進んでいる」


「そう……ですか?」


 ドレンス男爵が驚いて目を丸くする。俺はニヤリとした。


「ああ、だからあんたにも協力して欲しい」


「もちろん協力致します!」


 ドレンス男爵が強く答えた。


「微力ながら自分もロウェイン公爵様の戦いに力添え致します! 公爵様こそが……この王国の希望でいらっしゃいますから」


「ありがとう」


 俺は笑顔で頷いた。


---


 3月6日、俺と赤竜騎士団は遠征軍本部に到着した。


「レッド!」


 本部に入ると、いつものようにシェラが笑顔で迎えてくれた。俺はケールから降りて、可愛い婚約者の頬にキスした。


「怪我はないの? ドレンス男爵領で戦いがあったとか聞いたけど」


「俺なら大丈夫だ。それより……」


 俺はシェラの隣に立っている女性を見つめた。『夜の狩人』の工作組であり、遠征軍の諜報担当者である鳩さんだ。


「鳩さん」


「はい、頭領様」


「例の作戦はどうなっている?」


「順調です」


 鳩さんは笑顔を見せた。


「既に近くの領主たちが協力を約束してくれました。他の領主たちも、来週までには返事を送ってくるでしょう」


「そうか」


 俺は頷いてから、鳩さんの隣にいる小柄の少年を見つめた。俺の副官のトムだ。


「トム、カレンはまだ帰還していないのか?」


「はっ。カレンさんと傭兵隊は追加の物資を運び、来週にここに到着する予定です」


「じゃ……出陣はやっぱり来週だな」


 俺は仲間たちの顔を見渡した。


「長かった冬も……これでやっと終わった。そしてこの春……東部遠征の成否を決める戦いが始まる」


 仲間たちの顔に闘志が宿る。


「出陣は来週だ。それまで、みんな十分に休んでおけ」


 仲間たちを解散させて、俺も指揮官用の小屋に入った。小屋の中には俺の得物が並んでいた。戦槌『レッドドラゴン』、大剣『リバイブ』、携帯用の長剣と短剣など……俺と共に数多の修羅場を突破してきた得物だ。


「へっ」


 貴族の頂点である公爵になったけど、まだ俺には倒すべき敵がたくさんいる。しばらくは……得物を手放せそうにない。そう思いながら、俺は笑ってしまった。


 そして冬が去り、春が来て……3月12日、とある知らせが東部地域全体に広がった。それは……アルデイラ公爵と放浪騎士グレゴリーが手を組んだという知らせだった。

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