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第47話.ありがとう、爺……

 俺と爺とアイリンは、大きな木の下に一緒に座った。そして一緒にパンを食べた。


「何でいつもクリームパンばかりなんだよ」

「すまん、つい買ってしまうんだ」

「ったく……」


 文句を言う割には爺も美味しく食べる。それもいつもの光景だ。


「あうあう……!」


 アイリンはクリームパン一つで幸せな顔になる。それを見ていると俺も笑顔になる。

 パンを食べ終えて、アイリンは薬学の勉強を始める。小さな手で乳棒と乳鉢を持ち、一生懸命薬の調合を練習する。最近は少し上手になった感じだ。


「レッド」


 一緒にアイリンを眺めていた爺が口を開く。


「左肩は誰にやられたんだ?」

「やっぱり気付いていたか」


 俺はシャツを2枚着て傷を隠していた。だがやっぱり爺の目を欺くことはできなかったようだ。


「お前が傷を負ったってことは、よほどの強敵だったみたいだな」

「ああ……『夜の狩人』の暗殺者だった」


 その名前を聞いても、爺は無表情だった。しかし……長い間爺と暮らした俺には分かる。爺は今……少し動揺している。


「詳しく説明しろ、レッド」

「分かった」


 薬物『天使の涙』を流通させていたのは警備隊隊長のラズロだったこと、そのラズロを拉致しようとしたこと、ラズロが暗殺され、その暗殺者と戦ったことを詳しく説明した。


「不思議なことは、ラズロと一緒にいた女の首も持っていかれたことだ」


 俺は爺の顔を凝視した。


「ロベルトは、その女はただの娼婦ではなく……連絡係だったんじゃないかと思っている」

「……その推理はほぼ正しい」


 爺が口を開いた。


「それは『夜の狩人』が頻繁に使う手口だ。女の工作員を使って男を誑かし、見えないところから操る」

「じゃ、ラズロが毎晩娼館に出入りしたのは……ただ女好きだからではなく、指示を受けるためでもあったのか」


 女は娼婦でも連絡係でもなく……工作員だったのか。


「たぶん暗殺者は以前からラズロを監視していたはずだ。『ラズロが情報を漏らそうとしたら殺せ』という命令を受けていたに違いない。そしてラズロがお前に拉致されそうになったから……女の工作員も含めて殺したわけだ」

「ラズロを助けるより、殺した方が簡単かつ確実だということだな」


 俺は頷いた。


「やけに詳しいな、爺」

「まあな」


 爺は相変わらず無表情だった。


「ロベルトはラズロや女の周りを調査している」

「無駄だ。手掛かりなど見つからない。『夜の狩人』はそういうことに関しては隙が無い」

「じゃ、この件の黒幕は『夜の狩人』なのか?」

「いや、『夜の狩人』はあくまでも依頼を受けて働く連中だ。つまり……黒幕はその依頼主だ」


 依頼主か……。


「爺、『夜の狩人』に依頼するためには莫大なお金を支払わなければならないと聞いたが」

「ああ、そうだ」

「莫大なお金ってどれくらいなんだ? 貴族なら余裕で支払える程度なのか?」


 爺が首を横に振る。


「暗殺の対象によって金額が違うけど……警備隊隊長くらいなら、大きな貿易船を買えるほどのお金を支払う必要がある」

「そんなに……?」


 俺は眉をひそめた。


「ということは、黒幕は並大抵の貴族よりお金持ちってことか」

「そうだろうな」


 薬物を流通させていたから、それで大金を稼いだのかな……。


「爺の話を聞いてみたら、黒幕の尻尾を掴むことは難しそうだな」

「レッド」

「ん?」

「なぜ必死になってこの件を解決しようとしているんだ?」


 爺が冷たい視線を送ってきた。


「別に関係ないだろう、南の都市の人間が数人死んでも」

「関係ない、か。確かにな」


 俺は素直に認めた。


「英雄になって認めてもらいたいのか?」

「いや、そんなわけがあるか」


 思わず笑ってしまった。


「俺は化け物だ。それでいい。英雄なんか要らない」

「じゃ、どうしてだ?」


 俺は少し考えてから答えた。


「最初はただ気に入らなかっただけだ。大した理由はなかった。でも相手が強敵だということを知って……戦いたくなった」

「へっ、もう本当に化け物の思考だな」

「それに……都市一つ守れなくては、国を守ることなんてできない……そんな気がするんだ」


 爺はしばらく俺の顔を眺めてから、席を立った。


「……私はこれから少し旅に出る」

「旅? どこに?」

「その黒幕の尻尾を掴むためには、いろいろ調べなければならないからな」


 俺は驚いて席を立った。


「やってくれるのか、爺」

「まあ、私もこの件に関しては少し興味があるからな」

「……ありがとう」


 俺がお礼を言うと、爺が笑い出す。


「言っておくけど、私の情報料は『夜の狩人』に負けないくらい高いぞ」

「勘弁してくれ。お金に困っているんだ」

「へっ」


 爺は足を運んで小屋に向かった。俺は心の中でもう一度爺に感謝した。

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