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第466話.殺し合え

 その日の午後、革鎧に着替えた俺はベルス男爵の城を出た。城の外では真っ黒な軍馬が俺を待っていた。俺の相棒、純血軍馬ケールだ。


「久しぶりだな、ケール」


 俺は笑顔でケールの頭を撫でたが、ケールは恨みの籠った眼差しで俺を見つめる。『どうして私を連れて行かなかったんだよ』と言わんばかりだ。


「へっ」


 俺は苦笑してケールに乗った。猫姉妹とトムも各々の軍馬に乗って、俺に後ろに立つ。そして更に後ろには……6人の騎士と3百の騎兵隊が並ぶ。


「さあ、出発だ」


 俺は仲間たちと騎兵隊を率いて、道を歩き始めた。城下町を横切って東に向かった。


「あれが……噂の……」


 城下町の人々が俺を見て目を丸くする。噂の『赤い化け物』を……ベルス男爵領の領民たちは初めて目撃したのだ。


 いや、領民たちが驚いているのは『赤い化け物』のせいだけではない。堂々たる姿で進軍する『赤竜騎士団』と『赤竜隊』にも驚いている。数は3百弱だが、その威容は10倍の敵も圧倒出来る。規律も士気も極限まで鍛えられている……まさに王国最強の部隊だ。


「赤竜……」


 領民たちの顔に恐怖が浮かぶ。そう、彼らはやっと分かった。噂で聞いていた『赤竜の軍隊』の怖さを……やっと思い知ったのだ。


 『赤竜の軍隊』の後ろを、ベルス男爵が5百の歩兵隊を率いて歩いた。ベルス男爵の顔は強張っている。百戦錬磨の彼だからこそ一目で分かったんだろう。今、目の前の『赤竜の軍隊』と戦ったら……勝算なんて無いということを。


 俺とベルス男爵は、各々の軍隊を率いて東へと進軍を続けた。そして2日後、山と山の間の狭い平地に辿り着いた。


 その狭い平地には先客がいた。5百の歩兵隊を率いている、小柄の中年男性だ。俺はケールに乗って前へ進み……小柄の中年男性を見つめた。


「お初にお目にかかります」


 小柄の中年男性が頭を下げる。


「私はルイゼン男爵家の現当主、レヴィ・ルイゼンと申します」


「あんたがルイゼン男爵か」


 俺は頷いた。


「俺はレッドだ」


「お噂はかねがね聞き及んでおります、ロウェイン公爵様」


 ルイゼン男爵は丁寧な口調で言った。しかし言葉とは裏腹に、ルイゼン男爵は警戒の表情をしている。


「では、始めるとするか」


 俺は笑顔で言った。


「俺とあんたとベルス男爵の……『三者会談』を」


 その言葉を聞いて、ルイゼン男爵の顔が更に強張った。


---


 それから約1時間後、狭い平地の真ん中に巨大な天幕が張られた。


 天幕の中には3つの席があり、3人の男が座っている。もちろん俺とベルス男爵とルイゼン男爵だ。この3人の後ろには各々の側近たちが並び立っている。そして天幕の外には……各々の軍隊が待機している。武器を携帯したまま。


 緊張した空気の中、俺とベルス男爵とルイゼン男爵は互いを見つめた。俺は笑顔だが、他の2人は敵意に満ちた顔をしている。当然のことだ。ベルス男爵とルイゼン男爵は……互いを『先祖代々の仇敵』として見ているのだ。


「あまり険悪な顔をするなよ、2人共」


 俺が笑顔で言った。


「言っておくが、もしあんたらがこの場で戦闘を始めたら……俺はあんたらを両方とも攻撃する。だから……余計なことは考えるな」


 ベルス男爵とルイゼン男爵が小さく「はい」と答えた。彼らの側近たちは更に緊張する。


「もうみんな知っていると思うけど、俺は東部地域の秩序を回復させるために来た」


 俺は革の椅子に身を任せた。


「現在、ルケリア王国はこのウルぺリア王国に対して大規模の侵攻を準備している。ルケリア王国の野望を粉砕するためにも、一刻も早く東部地域の秩序を回復させるべきだ。そのことに邪魔をする者は……誰であっても容赦しない」


 俺はベルス男爵とルイゼン男爵を見つめた。


「しかし……どうやらあんたらは紛争を止めるつもりは無いみたいだな」


「当然です」


 冷たい声でそう答えたのは、ベルス男爵だ。


「我々ベルス男爵家と、ルイゼンの連中は……もう百年以上戦ってきました。私も、兵士たちも、領民たちも……今更ルイゼンの連中と和解するつもりはありません」


「こちらも同じです」


 ルイゼン男爵も声を上げる。


「多くの一族と仲間が……あの忌々しいベルス男爵の手によって殺されました。和解はあり得ません」


「なるほど」


 俺は笑顔で頷いた。


「あんたらが互いをどう思っているのかはよく分かった。しかし……俺はあんたらのくだらない紛争を配慮するほどお人好しじゃない」


 俺は2人の男爵を睨みつけた。


「だから、こういうのはどうだ? 俺がベルス男爵家とルイゼン男爵家を1人残さず抹殺し、紛争を無くす。ま、人間がいないと紛争も無いからな。綺麗に平和になるだろう」


 俺の言葉を聞いて、2人の男爵の顔が更に強張る。彼らの側近たちは目を丸くし、恐怖に染まった表情で俺を見つめる。


「ふふふ……心配するな。俺は見た目より寛大な指導者だ。あんたらに1度だけ機会を与えてやる」


 俺は顔に微かな笑みを浮かべた。


「2週以内に、あんたらが持っている全兵力を集結させろ。そして今俺たちのいるこの狭い平地で……殺し合え」


 2人の男爵はもちろん、彼らの側近たちも驚愕する。


「2人共和解するつもりは無いんだろう? 俺が審判を務めてやるから、どちらかが全滅するまで殺し合え。生き残った方を……この地の統治者として認めてやる」


 俺以外の全員が言葉を失った。俺は笑った。


「正々堂々と戦って、仇敵との長い紛争に終止符を打つんだ。どうだ、これならあんたらも不満は無いだろう?」


「……上等だ」


 ベルス男爵が席から立ち上がる。


「分かりました。我々ベルス男爵家の全力を持って……ルイゼンの連中を撃滅します。でも我々が勝利した後は……公爵様もこれ以上の干渉は中止してください」


「勝った気になるな、ベルス男爵」


 ルイゼン男爵も立ち上がった。


「私の方も、この長い戦いに終止符を打つ時だと思っていました。公爵様の越権行為に関しては後で正式に抗議させて頂きますが、その前にまずベルス男爵家を抹殺しましょう」


「それでいい」


 俺はもう1度笑った。


「俺は俺の軍隊と共に、近くの軍事要塞に泊るつもりだ。あんたらは準備が出来次第、またここに集まって……最後の決戦を始めろ。面白い戦いを……俺に見せてくれ」


 人々の顔にもう1度恐怖と驚愕が広がる。俺はその風景の楽しそうに見つめてから立ち上がった。これで三者会談は終わりだ。残ったのは……両家の命運をかけた最後の戦いだけだ。

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