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第465話.次の段階

 パウルと別れ、俺は1人で要塞を出て山道を降りた。山の入り口でベルス男爵が俺を待っていた。


「……どうなった?」


 軍馬に乗ったまま、ベルス男爵が緊張した顔で聞いてきた。


「パウルは降伏勧告を受け入れた。2時間後、部下たちを連れて要塞から出てくるはずだ」


「そうか……」


 ベルス男爵は安堵のため息をついた。俺はそんな彼を見つめた。


「計画は予定通りに進めるぞ、ベルス男爵」


 俺の言葉を聞いて、ベルス男爵は軍馬から降りる。そしてすかさず片膝を折って頭を下げる。


「はい、ご指示通りに致します。ロウェイン公爵様」


 ベルス男爵が丁寧な口調で言った。俺が無言で彼の横を通って、白猫たちと合流した。


---


 ベルス男爵の城に戻った俺は、自分の部屋で1通の手紙を書いた。そしてそれをトムに任せた。


「トム」


「はい、総大将」


「これから遠征軍本部に戻って、その手紙をシェラたちに見せろ。そして連れて来い。俺の剣を」


「はい、かしこまりました」


 トムが俺の指示を理解して頷いた。すると隣の白猫が手を挙げる。


「流石にトム君1人で移動するのは危ないんじゃない? 私が同行するわ」


「別に自分は1人でも大丈夫です」


 トムが不満げに言ったが、俺は白猫に同意した。


「確かに白猫の言った通りだ。ここは2人で移動した方がいいだろう」


「総大将、自分は……」


「お前は我が軍の重要人物だ。それを忘れるな」


 俺はトムを見つめた。


「『青髪の幽霊』がどこに潜んでいるか分からない。1人で長距離を移動するのは危険だ」


「……かしこまりました」


 トムが強張った顔で頷いた。それを見て白猫がへらへらする。


「白猫」


「どうしたの?」


「あまりトムをからかうな」


「はーい」


 白猫が明るい声で答えた。全力でからかう気満々だ。


 トムと白猫は城を出て馬車に乗り、一緒に西へ向かう。それで俺は黒猫と2人きりになった。


「俺たちは……男爵の書斎で本でも読もう」


 俺の提案に、黒猫は「はい、頭領様」と答えた。


 俺と黒猫は男爵の書斎に入り、一緒に面白そうな本を探した。


「頭領様」


 黒猫が本棚から1冊の本を取り出して、俺を見上げる。


「これを……頭領様と一緒に読みたいです」


「いいだろう」


 俺は黒猫とソファーに肩を並べて座って、一緒に本を読み始めた。2メートルを超える巨漢と小柄の少女が一緒に本を読むのは……俺が考えてもなかなか不思議な光景だ。


 黒猫の選んだ本は『亡国の王子様』というタイトルの小説だ。滅んでいく王国を復興するために、若い王子が頑張って戦っていく……という内容だ。俺と黒猫は一緒にページをめくりながら王子の活躍を楽しんだ。


「……頭領様」


 ふと黒猫が俺を呼んだ。


「どうした、黒猫?」


「その……頭領様は……辛くなる時はありませんか?」


「辛くなる時?」


 俺が首を傾げると、黒猫が俺を見上げる。


「頭領様は……私やいろんな人を……たくさんの人を背負っていらっしゃいます。辛くなる時は……ありませんか?」


「……あるさ」


 俺はゆっくりと頷いた。


「でも大丈夫だ。たくさんの人が俺を信じてくれているからな」


「そうですか?」


「ああ。信じてくれる人がいる限り、人間はいくらでも立ち直れる」


 俺は笑顔で黒猫の頭を撫でた。


「俺はその事実をアイリンから教えてもらった」


「アイリン……?」


「ちょうどお前と同年代の女の子だ。そう言えば、髪も同じ黒色だな」


 俺はアイリンとの出会いについて、黒猫に説明した。


「いつも化け物扱いされていた俺を、師匠が導いてくれた。そしてアイリンが人間扱いしてくれた。そのおかげで俺はここにいる」


「本当に……良かったですね」


 黒猫の顔が明るくなる。


「私も……そのアイリンという人に会ってみたいです」


「それなら心配するな。アイリンはこの東部地域のどこかにいる。もうすぐ会えるさ。きっとお前たち2人は……いい友達になれるはずだ」


「はい」


 黒猫がペコリと頷いた。


 黒猫は今も自分の過去と戦っている。壊されかけていた心を保つために頑張っている。そんな義妹を俺はどうにか助けようとしたが……まだ足りない。でもアイリンなら……あの子ならきっと黒猫の心も救ってくれるはずだ。俺があの子に救ってもらったように。


---


 それから時間が流れて、11月18日になった。


 部屋で黒猫と朝食を食べていると、1人の兵士が来た。兵士は俺を見て頭を下げる。


「公爵様、彼らが到着しました」


「来たか」


 俺は黒猫と一緒に部屋を出て、城の廊下を歩いた。そして城門に向かった。


 城門の前には3百の騎兵隊が並んでいた。全員赤色の鎧を着ている彼らは、『赤竜の旗』を掲げている。そう、俺と一緒に戦場を駆け抜けてきた騎兵隊……通称『赤竜隊』だ。数多の敵を葬ってきた俺の最精鋭部隊だ。そして彼らを率いているのは6人の騎士だ。


 先頭の騎士が1歩前に出て、俺に頭を下げる。


「赤竜騎士団の全員と赤竜隊、ロウェイン公爵様の命に従って参りました」


「ご苦労」


 俺は長身の騎士に向かって笑顔を見せた。赤竜騎士団の団長であり、俺の兄みたいな存在であるレイモンだ。レイモンと仲間たちが騎兵隊と共にこのベルス男爵領まで来てくれたのだ。


「やっぱりお前たちを見ていると心強いな」


「光栄でございます」


 レイモンが笑顔を見せると、後ろの5人も笑顔になる。ジョージ、カールトン、ゲッリト、エイブ、リック……みんな心強い戦士だ。


 俺は後ろを振り向いて、城門の近くに立っているベルス男爵を見つめた。


「ベルス男爵」


「はい、公爵様」


「こちらは準備が整った。あんたも部隊を招集してくれ。今日……ルイゼン男爵領に向かって出発する」


「……かしこまりました」


 ベルス男爵が頭を下げた。これで計画は次の段階へ移行する。

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