表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
477/602

第441話.これからも進んでいくんだ

 決闘の後、俺はコリンズさんと共にアカデミー本館の総長室に入った。


「申し訳ございません、伯爵様」


 総長室に入るや否や、コリンズさんが俺に向かった何度も頭を下げる。


「今回の件は自分の不始末が原因です。どんな処分を甘んじて受け入れる所存でございます」


「俺は別に、あんた1人が悪いとは思っていない」


 ソファーに座って、俺はそう答えた。


「現実的に見て、このアカデミーは有力者たちの支援に大きく頼っている。スタイン男爵家も毎年かなりの支援金を出しているし、その一員であるビリーを処分しにくいのは……ある意味自然なことだ」


 俺はニヤリと笑った。


「いくら美辞麗句を並べても、アカデミーも結局は普通の人間の集団……利益がある方に傾くのは仕方ない」


「そ、それは……」


「だがな」


 俺は固まっているコリンズさんを見つめた。


「『全ての生徒に、公正な学問の機会を与える』……それが王都アカデミーの創設理念の1つだろう?」


「は、はい……」


「経緯がどうあれ、マイルズも正式に入学した生徒の1人だ。あんたらには、あの少年が安心して勉強出来るようにする義務がある」


 俺は総長室の壁を見つめた。そこには国王からの表彰状が掛けられている。表彰状には『崇高な学問の場、王都アカデミー』と書かれている。


「……本当に『崇高な学問の場』でありたいんなら、あんな表彰状じゃなくて……行動で見せてくれ」


「かしこまりました」


 コリンズさんが深々と頭を下げた。俺はしばらく彼を見つめてから口を開いた。


「今後、生徒を処分することに対して反発する有力家系があったら、俺に知らせろ」


「はい、承知致しました」


 コリンズさんは真剣な態度だ。どんな人間の集団も完璧ではないし、これ以上彼を追及してもあまり意味がない。俺はそう考えた。


 しばらくコリンズさんとアカデミーの運営について話し合った後、俺はアカデミー本館を出た。コリンズさんも俺を見送るために外までついてきた。


「伯爵様!」


 ところで馬車に乗ろうとした時、誰かが俺を呼んだ。振り向くと、2人の少年がこちらに走ってきていた。もちろんそれはジェフリーとマイルズだ。


「伯爵様!」


 少年たちは俺の前まできて、頭を下げる。


「本当に……ありがとうございます!」


 頭を下げたまま、マイルズが言った。


「伯爵様のおかげで……僕は……僕は……」


 マイルズがどんどん涙声になっていく。


「大事な友達ができて、勉強も続けられるようになって……希望を得ました。本当に……ありがとうございます!」


 マイルズの瞳から涙が零れ落ちた。俺は笑顔を見せた。


「以前にも言ったが、俺に感謝する必要はない。俺はあくまでも面白い戦いが見たかっただけだ」


「いいえ!」


 マイルズが首を横に振る。


「たとえ伯爵様のご本意ではなくても、僕が救われたのは事実です。僕にとって……伯爵様は本当の救世主です……!」


 マイルズが俺を見上げる。少年の涙に濡れた瞳には、純粋な感謝の気持ちが込められている。


「……ありがとう」


 俺はニヤリとしてから、マイルズの肩に手を乗せた。


「逆境にも屈せず意志を貫いて、勝利を掴んだのはお前自身だ。それを忘れるな」


「はい!」


 マイルズが強く頷いた。それでいい。


「ジェフリーはこれからどうする気だ?」


 俺はジェフリーの方を見つめた。ジェフリーは自分の涙を急いで手で拭った後、笑顔で答える。


「自分は……学部を変えてみようと思います」


「学部を?」


「はい。マイルズと同じ歴史学部に変えて、戦略戦術の歴史を勉強してみたいです」


 ジェフリーが真剣な表情でそう言った。


「ジョージ卿のような立派な騎士になるためには、体の鍛錬だけではなく知識も必要ということが分かりました」


「そうか」


「はい。そしてもっと強くなったら……親を説得するつもりです」


 それは決して幼い少年の軽率な発言ではない。ジェフリーの瞳と声から……強い決意が感じられる。まるで本物の騎士のようだ。


「お前がそう決めたのなら、頑張って貫いてくれ」


「はい!」


 ジェフリーが強く頷いた。こいつなら、いつかは本当に『赤竜騎士団』に入団するかもしれない。


 やがて俺は馬車に乗って宮殿への帰路についた。少年たちは、俺の乗った馬車が見えなくなるまでずっと頭を下げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ