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第417話.一体感

 城の本館に進入した途端、強烈な血の匂いがした。本館の1階はもう鮮血で赤く染まっていたのだ。灰色の床と壁も、壁に掛けられている絵画も、燭台や花瓶も……全部血まみれだ。そして所々には兵士の遺体が散らばっている。この城の守備兵たちだ。みんな命をかけて反乱軍と戦った挙げ句、無惨に殺されたのだ。


 そんな血まみれの空間に、 百人くらいの反乱軍が集まっている。やつらは守備兵から奪った武器を手にして、険悪な顔で俺たちを睨みつける。


「ぶっ殺せ!」


 その一言を合図に、反乱軍が雄叫びを上げながらこちらに突撃してくる。なかなかの勢いだ。しかし……。


「失せろぉ!」


 俺は大剣を両手で掴み、1歩前に出て……全力で前方の空間を斬った。その1撃で3人の反乱軍が上半身と下半身が分離され……鮮血が激しく吹き出てくる。


「ぐおおおお!」


 すかさず右の敵を刺し殺し、左の敵の頭を斬り飛ばす。大量の鮮血が流れ、壁や地面をもう1度真っ赤に染める。


「うわああっ!」


 5人が一瞬で死んでしまった光景を見て、他の反乱軍が悲鳴を上げる。しかし驚くのはまだ早い。何しろこちらには『赤い化け物』以外にも……熊と狼がいる。


「うりゃあ!」


「うおおおお!」


 ジョージとゲッリトが突進して、前方の反乱軍を蹴散らす。ジョージは大斧を大きく振り下ろして敵の胴体を両断し、ゲッリトは連接棍で敵の頭を叩き割る。凄まじい威容だ。


 俺がジョージとゲッリトを選んだのは、この2人が対集団戦に強いからだ。まだ騎士団長のレイモンには及ばないけど、この2人ならいくら敵が多くても対抗出来る。


「はああっ!」


 俺たちは少しずつ前進しながら、目の前に立ち塞がる反乱軍を倒し続けた。敵の鮮血を浴びながら、修羅になって殺戮を続けた。


「や、やつらを包囲しろ!」


 反乱軍が俺たちを包囲しようとする。しかしそれもままならない。守備兵や反乱軍の遺体が散らばっているせいで、包囲するための空間を確保するのが難しい。それに比べて、俺たち3人はこういう乱戦に慣れている。敵の遺体を踏みにじりながら戦うことは……もう何度も経験してきた。


「だ、駄目だ……!」


「援軍を……援軍を呼べ!」


 俺たち3人の猛攻を受けて、百人の反乱軍が圧倒される。やつらの体から恐怖の匂いが漂い始める。


「へっ」


 俺は笑顔を見せた。やっぱりこいつらは……軍隊としてそこまで強くない。自分たちより弱者を相手する時は、それなりに戦えるけど……強者の前ではすぐ闘志を失ってしまう。放浪騎士グレゴリーから訓練を受けたんだろうけど、まだ盗賊の習性が残っているわけだ。


 しかし反乱軍が敗走する直前に、2階から敵の援軍が現れる。それで反乱軍はやっと態勢を立て直し、もう1度俺たちを攻撃しようとする。


「ふっ」


 武器を構える反乱軍を見て、ゲッリトが笑い出す。


「まだ分からないみたいですね。こんな雑魚共では……俺たちには勝てないってことを」


「……その通りです」


 ジョージが口を開いた。


「ボスはもちろん……やっぱりゲッリトも本当に強い。全然負ける気がしません」


「ジョージ……」


 ゲッリトが驚いてジョージを見つめる。ジョージは微かな笑顔になり、敵に向かって突撃した。俺とゲッリトも彼に続いて、更なる激戦に身を投じた。


 敵がどんどん集まってくる。もう2百人以上だ。でもジョージの言った通り、全然負ける気がしない。


「ぐおおおお!」


「うりゃあ!」


 俺たち3人は互いの背中を守りながら、四方から迫ってくる敵を倒し続けた。大剣で斬り飛ばし、大斧で両断し、連接棍で叩き潰す。鮮血と悲鳴が交差する中、俺たちは不思議なくらいの一体感に包まれて……無慈悲な戦いを楽しんだ。


 もう言葉を交わす必要すらない。俺もジョージもゲッリトも……互いの考えを瞬時に理解して、自然に最適の連携を取る。俺が大剣で右側の敵を斬ると同時にジョージが左側の敵を両断し、後ろから接近する敵をゲッリトが叩き潰す。短槍でゲッリトを刺そうとする敵を俺が投げ飛ばして、俺に向かってくる敵をジョージが体当たりでぶっ飛ばす。


「ゲッリト!」


 緊迫な声と共にジョージが大斧を投げる。大斧は勢いよく空を切って、ゲッリトを狙っていた反乱軍の頭にぶっ刺さる。ゲッリトは素早く大斧を引き抜いてジョージに投げ渡し、後ろから来る反乱軍を見向きもせずに蹴り飛ばす。


 時間が経てば経つほど、俺たちの連携は鋭くなっていく。3匹の化け物が無慈悲に獲物を狩り続ける。2百の獲物たちはまともな抵抗も出来ず、ただただ狩られていく。


「う……ううっ……!」


「逃げろ……逃げろ!」


 反乱軍は完全に闘志を失ってしまい、四方八方に敗走する。1刻も早くこの地獄から抜けるために、武器すら手放して逃げ始める。


「へへ……」


 ゲッリトが笑った。そして俺もジョージも……静まり返った地獄の真ん中で一緒に笑った。


「ほら、やっぱり俺たちの勝ちでしょう? 2百だろうが3百だろうが、雑魚は雑魚だから」


「ああ、でも油断するな」


 俺は大剣についた血を振り払った。


「反乱軍はそこまで強くないが、短期間でこの城を攻め落とした。たぶん……首領のグレゴリーがかなりの強者なんだろう」


「だからそのグレゴリーってやつ、俺に任せてください。見事に倒してみせますから」


 ゲッリトが笑顔で言うと、ジョージが1歩前に出る。


「お前にはまだ無理だよ、ゲッリト。ボス、ゲッリトじゃなくて俺に任せてください」


「へっ」


 俺は笑ってしまった。


「じゃ、早い者勝ちにしよう。グレゴリーは上の階で俺たちを待っているはずだ。発見次第、やつを抹殺する」


「はい」


「はっ」


 ジョージとゲッリトが笑顔で頷いた。そして俺たちは肩を並べて、一緒に2階に上がった。


---


 次々と現れる反乱軍を倒しながら、俺たちはやがて3階に辿り着いた。


 3階の奥には大きな部屋がある。たぶん領主の執務室なんだろう。グレゴリーはこの中にいる可能性が高い。


「うりゃあ!」


 固く閉ざされている執務室の扉を、ジョージが大斧でぶち壊す。それで俺たちは執務室に入った。


「く、来るな!」


 執務室の中には30人くらいの反乱軍がいた。やつらは武器を構えているが、みんな怯えている様子だ。


 それに……ここには反乱軍以外にももう2人いる。奥に倒れている男と、その隣に座っている子供だ。服装からして、倒れている男はたぶんペルゲ男爵で……隣の子供は彼の子息なんだろう。


「それ以上近づくな!」


 反乱軍の1人が俺たちに向かって叫んだ。そしてやつは座っていた子供を捕まえて、その首に剣を突きつける。


「こいつはペルゲ男爵の息子だ! それ以上近づいたら……こいつを殺すぞ!」


 反乱軍が必死な顔で言った。正面から戦っては、俺たちに勝てないから……人質を取ったのだ。


「グレゴリーはどこだ?」


 俺は子供を捕らえているやつに向かって聞いた。見たところ……ここにグレゴリーらしき人物はいないからだ。


「ぐ、グレゴリー様は……援軍を呼びに行かれた!」


「援軍……?」


「そうだ! もうすぐグレゴリー様が援軍と共に現れるはずだ! 死にたくなければ、早くこの城から出ていけ!」


 その言葉を聞いて、俺は失笑した。


「まだ分からないのか? てめえらは……グレゴリーに見捨てられたんだよ」


「な、何……?」


「援軍なんて来ないさ。グレゴリーはてめえらに時間稼ぎをさせて、1人でこっそり逃げたのだ」


 反乱軍が冷や汗をかきながら慌てる。やっと自分たちの状況を理解したのだ。


「武器を捨てて投降しろ。そうすれば命だけは助けてやる」


 俺がそう言うと、反乱軍は更に慌てる。しかし武器を捨てようとはしない。


「み、道を開けろ!」


 子供を捕らえている反乱軍が叫んだ。


「道を開けないと、こいつを殺す!」


 反乱軍が子供の胸ぐらを掴む。9歳くらいに見える子供は、怯えた顔で震えている。


 俺は内心舌打ちした。30人の反乱軍くらい、蹴散らすのは簡単だ。しかし……この状況で子供を無事に救出するのは難しい。


「ボス」


 その時、ゲッリトが口を開いた。


「ここは俺に任せてください」


 そう言ってから、ゲッリトは自分の連接棍を手放して……非武装で前に出る。俺とジョージは驚いたが、ここは彼を信じることにした。


「ほら、俺は手ぶらだぜ」


 ゲッリトは非武装のまま反乱軍の真ん中まで歩いていく。大胆……いや、無謀すぎる行動だ。


「俺に子供を渡せ。そうしたらお前たちも……」


「や、やつを殺せ!」


 子供を捕らえていた反乱軍が叫ぶと、ゲッリトのすぐ隣に立っていたやつが反射的に剣を振るう。それでゲッリトは……血を流しながら倒れてしまう。


「ゲッリト!」


 俺とジョージは驚いて叫んだ。反乱軍も驚いて俺たちを振り向く。しかし次の瞬間……倒れていたゲッリトが爆発的な速度で突進する。


「え……?」


 子供を捕らえていた反乱軍は、目を見開いて自分に迫ってくるゲッリトを見つめる。ゲッリトは左手で反乱軍の右手を掴み、右手でそいつの首を掴んで地面に叩きつける。あっという間に起きたことだ。


「ボス、ジョージ!」


 血を流しながらも、ゲッリトは子供を無事に確保する。それを確認した俺とジョージは遠慮なく暴れ出した。


「ぐおおおお!」


「うりゃあ!」


 俺の大剣とジョージの大斧が容赦なく反乱軍を斬り裂く。反乱軍は逃げることも出来ず、恐慌に陥ったまま藁のように倒れていく。


 やがて全ての敵を倒した後、俺とジョージは急いでゲッリトに近づいた。


「おい、ゲッリト!」


 ゲッリトは肩から胸にかけて大きな傷を負っている。出血も酷い。


「へへ……」


 ゲッリトが笑顔を見せる。


「大丈夫ですよ。俺はこのくらいで死にはしません……」


「この馬鹿が……!」


 俺とジョージは急いでゲッリトの傷を止血した。ゲッリトが救出した子供は、驚いた顔で俺たちを見つめる。


「ボス、ジョージ。俺は……」


「喋るな!」


 やっと出血が止まる。ゲッリトの顔は蒼白になっているが……急いで治療すれば助かるはずだ。


 俺はゲッリトをジョージに任せて、子供の方を見つめた。子供は俺を見上げてから、震える手を伸ばして……奥に倒れている男を指差す。


「と、父さん……まだ……」


 子供がそう言った。俺は倒れている男に近づいて、脈を確認した。ペルゲ男爵は……まだ生きている。


 俺はペルゲ男爵を、ジョージはゲッリトを背負った。そしてペルゲ男爵の息子を連れて城の本館を出た。

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