第41話.真夜中の戦い
昼はあんなに暑かったのに、夜になると雨が降り始めた。しかも結構大雨だ。
こんな大雨の中じゃ、通行人もあまりいないだろう。俺としては都合がいい。
「行くぞ」
俺の言葉に組織員たちが「はい」と答えた。俺たちは全員フードを被って顔を隠したまま、雨に濡れながら移動した。薬物の売人の隠れ家に向かって。
売人の隠れ家は俺たちの本拠地から意外と近かった。俺たちが毎日鍛錬していた間に、やつらは薬物を開発して流通していたのだ。
「ここだ」
港の隅に立っている、用途不明の建物……一見ただの捨てられた倉庫に見えるけど、人が出入りした痕跡がしっかり残っている。
「突入する」
言葉と同時に、俺は扉を蹴っ飛ばして隠れ家に進入した。
「な、何なんだ!?」
隠れ家の中には十数人の男たちがいた。彼らは俺らの襲撃に動揺して、言葉を失っていた。
「警告する」
俺はやつらに向かって声を上げた。
「もしこの中に、薬物のせいで無理矢理協力させらているやつがいるなら……抵抗せず降参しろ。抵抗するとその時点から容赦はない」
その言葉を聞いて、男たちの目の色が変わる。この襲撃の意味が分かったのだ。
「貴様ら……」
男たちはこん棒やナイフなどの武器を持ち出した。どうやら誰にも降参する気はないらしい。
「どこのどいつらかは知らないが……全員殺してやる!」
男たちが攻撃を始めた。武器と数的優位を信じているんだろう。だが……それは過信というものだ。
「はあっ!」
俺の拳が先頭のやつの顎を砕くと同時に、俺の組織員たちが一斉に動く。武器は持っていないけど、毎日戦うために鍛錬してきた強者たちだ。
「うおおお!」
レイモンが華麗な回し蹴りで一人をぶっ飛ばし、ジョージとカールトンは突撃してくるやつらを迎え撃つ。ゲッリト、エイブ、リックは立ち止まっている敵に攻撃を仕掛ける。
「こ、こいつら……うぐっ!?」
戦いは長く続かなかった。俺たちは何倍の敵も正面から圧倒したことがある。この程度のやつらが俺たちにかなうわけがない。
俺たちは用意してきた縄で、倒れているやつらを拘束した。そして建物の中を調べ始めた。
「ボス、ここに……」
リックが何かを発見した。近づいてみると、それは地面についている蓋……つまり地下室への通路だった。鍵がかかっていたが、俺は力で無理矢理こじ開けた。
「これは……」
地下室の中は……化学実験道具でいっぱいだった。それは予想していたけど……規模の大きさは予想以上だった。
「これが例の薬物か」
入り口付近の机の上には、白い粉末が積もっていた。俺はそれを小さな革袋に入れた。できれば分析しておきたい。
「この中の道具……全部海辺に運んで、ぶち壊してから捨てろ」
「はい!」
組織員たちが化学実験道具を運び始めた。道具を残しておけば他のやつら、例えば警備隊に悪用される可能性がある。全部破壊した方がいい。
一人になって俺は考えにふけった。本格的な薬物の開発、そして人体実験……やっぱりこいつらはただの売人ではない。もっと大きな何かが裏にあるに違いない。
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翌日の朝、俺は格闘場に向かった。そこの事務室でロベルトが俺を待っていた。
「レッドさん」
ロベルトが机から立って、俺を迎えてくれた。
「本当にお疲れ様でした」
「ロベルトさん、やつらの尋問は?」
俺は単刀直入に話した。
「何か情報を得たのか?」
「はい」
ロベルトが頷く。
「やつらに薬物の開発や実験、流通を指示していたのは……やっぱり警備隊隊長のラズロさんでした」
「そうか」
腐敗した警備隊隊長の横暴……ありふれた話ではある。
「しかしロベルトさん、俺はそのラズロというやつが全ての原因ではない気がする」
「……同意します」
ロベルトの表情が暗くなる。
「欲張りがお金のために悪知恵を働かせた……にしては、あまりにも本格的です」
「ああ」
薬物を『流通』しただけなら、お金のためだったと説明できる。しかし……わざわざ『開発』や『実験』までするのはおかしい話だ。もうお金より……別の何かが目的だと見るのが妥当だろう。
「この件に関しては、自分なりに捜査を進めるつもりです」
「俺も調べてみる。ずいぶんきな臭くなってきたからな」
俺の懐の中には、例の薬物の入った革袋がある。これを分析すれば、何か手掛かりが見つかるかもしれない。
「そう言えば……」
俺はロベルトを見つめた。
「売人の連中はどうする気だ? 殺すのか?」
「いいえ」
ロベルトが笑顔で首を横に振った。
「遠くの鉱山に友達がいましてね。そっちに売り飛ばすつもりです」
「なるほど」
俺は苦笑した。
「じゃ、お互い何か分かったら……情報を共有しよう」
「分かりました」
朝の会話はそれで終わった。




