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第4話.力を……集中……

 鼠の爺と一緒に住んでから……俺の日常は何もかも変わった。


 もう物乞いをする必要も、ゴミを漁る必要も、農場で酷使される必要もなくなった。その代わりに俺は爺から授業の受けた。


 朝の食事が終わると、俺は木の枝を手にして地面に文字を書いた。そして何度も何度もそれを読み、ちゃんと覚えるように頑張った。


「へっ、意外と頭悪くないな」


「おい、爺……意外って何だよ、意外って」


 俺は不満げな声で言った。すると爺が杖で三つの文字を書いた。


「これが読めるか?」


「これは……」


 レ……レ……。


「これはお前の名前だ」


 そうか、これが『レッド』か。


 何か胸がドキドキしてきた。ずっと自分の名前が嫌いだったのに……不思議にも今はそんなに嫌いではない。いつかは俺の名前を……この王国の全ての人間に教えてやりたい。


 文字の勉強の次は格闘技の練習だ。俺は拳に包帯を巻いて木を殴り続けた。


「肩の力を抜け。足と腰を使って拳を振るうんだ」


「分かったよ」


 爺の指示に従って拳を振るうと、結構太い木が揺れた。何か自信が湧いてきた。


「やっぱり身体能力は高いな」


 爺が満足げに頷いた。


「だがまだまだ道は遠い。その程度の木なら一撃で折れるくらいじゃないと駄目だ」


「はあ?」


 俺は自分が殴っていた木をもう一度確認した。結構太くて硬い木だ。道具を使っても一撃で折ることはできそうにない。


「何言ってんだ、爺。そんなこと……人間にできるわけがないじゃないか」


「へっ」


 爺が嘲笑った。


「お前にできないからって、人間にできないとか言うんじゃねぇよ」


「じゃ、爺がやってみろよ。まさか自分でもできないくせに大口叩いているんじゃないだろうな?」


「まあ、よかろう。お前に少しだけ見せてやる」


 爺は自分の右手に包帯を巻いて、太い木の前に立った。まさか……。


「よく見ておけ、レッド」


 爺はそう言いながら上半身の服を脱いだ。


「何だと……」


 俺は思わず声を漏らした。爺の小さな体は……全身が鋼のような筋肉だった。しかも傷だらけだ。一体爺は……どんな人生を送ってきたんだ?


「力は……『集中』だ」


 爺がゆっくりと拳を上げた。


「無駄な浪費をせず、全身の力を一点に集中するのだ。そうすれば……」


 次の瞬間、爺の拳が目に見えないほどの速度で木を叩いた。すると人間が何かを叩く音とは思えない轟音が響き渡った……!


「……人間は木どころか、国だって壊せる」


 太い木があっけなく倒れ、ほこりが飛び上がった。自分の目で見ているのに……信じられない光景だった。


「お前の歩くべき道も同じだ。狂気なまでに全身全霊を目標に集中させて……迷わず進め。立ち塞がる者は貴族だろうが王族だろうが容赦するな。そうすれば必ず辿り着ける」


「爺、あんたは……一体何者だ?」


「へっ、それが知りたいのか?」


 爺は服を着て笑顔を見せた。


「もしお前が私より強くなったら教えてやるよ」


「……その言葉、忘れるなよ」


 俺は拳を握って自分自身に誓った。いつかは爺よりも、誰よりも強くなって……この王国を壊してやる。そしてそのついでに……爺の過去を聞き出してやる。


---


 その後、俺は爺の言葉通り……狂気なまでに集中して自分を鍛えた。


 まず文字を習得した俺は本から格闘理論を学び、体を鍛錬し、技を練習した。そしてその流れを何度も何度も繰り返した。暑い夏も、寒い冬も、昼も夜も……俺は必死に考えて必死に体を動かした。時間が経つのも忘れて、雑念が生じる暇もなく……自分を極限に追い込んだ。もう本当に狂気だとしかいえない日々だった。


 ある程度格闘技を身に付けてからは、爺との対決を始めた。


「全力でかかってこい、レッド」


「もちろんだ」


 俺は殴り殺す勢いで爺に突っかかった。爺の本当の姿を見てしまった以上、適当にしては意味がない。


「甘い!」


「ぐはっ……!」


 爺はそんな俺を容赦なくぶっ飛ばした。小さい老いぼれのくせに……爺の動きは目で追えないほど速いし、拳は一撃で気が遠くなるほど強い。


「立ち上がれ」


「……ああ」


 俺は痛みをこらえながら立ち上がった。そしてまた爺に突っかかって、またぶっ飛ばされる。


「へっ、でかい体しているくせに……ざまねぇな、レッド」


「クソ爺が……」


 俺は地面に倒れて空を見上げた。


「次の対決は一週後だ。それまでに死ぬ気で鍛錬しろ」


 冷たい声で言ってから、爺がその場を去った。俺は拳を握って再び立ち上がった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レッド君が自分の字を知るくだりを見て、私の祖父も名前しか書けなかったので、懐かしく思いました
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