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第27話.新しい仕事……だと?

 小屋に戻ると、鼠の爺とアイリンの姿が見えた。

 アイリンは地面にしゃがみ込み、手で何かを動かしていた。よく見るとそれは乳鉢と乳棒だった。薬学の勉強のために爺が買ってきたんだろう。

 爺は少し離れてアイリンを見つめていた。俺の勘違いかもしれないけど……爺はいつもより優しい顔をしている。


「あうあう!」


 俺の足音に気付き、アイリンが明るい顔で立ち上がる。


「レッドか」

「ああ、ただいま」


 俺は爺とアイリンに革袋を渡した。


「……またクリームパンか。少しはメニュー増やせってんだ」

「分かったよ」


 俺は苦笑して、爺とアイリンがパンを食べ終わるまで待った。愚痴を言うわりには、爺も美味しく食べる。


「それで……どうなったんだ? お前の『組織』ってやらは」


 爺の質問に、俺は今の状況を説明した。


「ロベルトの力を借りるつもりか……」

「ああ、借りができるのが気に食わないけどな」


 爺が鋭い眼差しで俺を見つめる。


「レッド、もう忘れたのか? あの男は危険だと警告したはずだ」

「覚えているさ」


 俺は軽く頷いた。


「まあ、確かに犯罪組織のボスだから危険だといえば危険だろう。しかし俺はあいつが信用できる人間だと思う」

「信用の問題ではない」


 爺が首を横に振る。


「お前の言った通り……ロベルトは裏社会の人間にしては珍しくも、信用できるやつだ。だが……それとは関係なく危険なんだよ」

「何の意味だ?」


 俺が眉をひそめると、爺が杖で地面を軽く叩く。


「ロベルトは頭もいいし行動力もあり……何よりも夢を持っている。南の都市を変えたいという夢を。だからあいつの周りには自然と人々が集まる」

「なるほど」


 そういう意味だったのか。


「俺がロベルトの夢に飲まれて、あいつの手駒に成り下がることを警戒しているんだな?」

「ああ、そうだ」

「余計な心配だ」


 俺は笑った。


「もう何度も言っただろう? 俺に限ってそんなことはない。爺の望み通り……この王国を滅亡させてやるから安心しろ」

「へっ、本当に口だけは一人前だな」


 爺も笑った。

 まあ、爺の心配も理解できる。ロベルトが歩こうとしている道も魅力的だ。しかし俺は俺の道を諦めるつもりはない。


---


 次の日の午後、俺はやっとロベルトに会えた。


「レッドさん、よくぞ来てくださいました」


 ロベルトは事務室のテーブルから立ち上がり、優雅な態度で俺を迎えてくれた。


「ロベルトさん、実は……」

「話はトムから聞きました。本拠地のことですね」


 ロベルトが頷く。


「ご心配は要りません。私が所有している倉庫の中の一棟を、内部を掃除してからレッドさんにお貸しします」

「ありがとう。この恩は必ず返す」

「いいえ、その必要はありません」


 ロベルトが笑顔を見せる。


「レッドさんのおかげで私の影響力も増大しましたから」

「俺がビットリオの組織を潰したからか」

「はい。ビットリオさんは以前から格闘場の運営に対していろいろうるさかったんですが……レッドさんのおかげで静かになりました」

「なるほど」


 俺と手を組んだことで、周りの組織たちを牽制しているわけだ。


「しかしレッドさんがこうも早く組織をお作りになったとは……予想通りと言うか、流石ですね」

「7人だけの組織さ。そんな大したこともない」

「レッドさんがいるだけで、70人の組織より強いはずですけどね」


 ロベルトが苦笑する。


「同じく組織を運営している身として、少し言わせて頂きますと……組織の運営には何よりも収入源が必要です」

「そうだな」


 俺は頷いた。


「俺にはそれが足りない。しばらく格闘場で働くしかないな」

「残念ですが、それは駄目ですね」

「何?」

「実は……昨日の時点で、レッドさんの試合は全部取り消しになりました」


 取り消しだと?


「……どういうことだ?」

「それは……レッドさんが強すぎるせいです」

「俺が?」

「はい」


 ロベルトは笑顔で説明を続ける。


「レッドさんがビットリオさんの組織を正面から潰したことは、もうこの業界の人間には大きな話題です」

「……まさか」

「はい、対戦相手たちが次々と試合を諦めました」


 ロベルトの笑顔が苦笑に変わる。


「まあ、レッドさんは一人で100人を倒した強者ですからね。そりゃみんな諦めますよ」

「100じゃない。60か70だ」


 くっそ、これは……流石に困る。


「鼠の爺さんの時は、小柄な彼を甘く見て挑戦してくる命知らずが多かったんですが……レッドさんはもう外見だけで強そうなお方ですからね」


 ロベルトが面白そうに笑った。


 俺は沈黙の中で悩んだ。格闘場の高い報酬が頼りだったのに……これは本当に困る。


「レッドさん」

「何だ」

「別の仕事をしてみませんか」

「別の仕事?」


 犯罪組織のボスが提案する仕事……悪い予感しかしない。


「……まあ、一応内容だけ聞いてみよう」

「極めて簡単な仕事です」


 愉快そうな顔で、ロベルトは予想外の言葉を口にする。


「私の娘に格闘技を教えて頂きたい」

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