第26話.必要なものを揃えないとな
俺は格闘場の隅で『俺の組織』の一員たちを眺めた。
まず最年長のレイモンがいて、他の5人がそれぞれジョージ、カールトン、ゲッリト、エイブ、リックだ。こうして見るとみんな本当に若い。最年長のレイモンがまだ20歳だ。まあ、俺も人のことは言えないけど。
「……俺たちに必要なのは、何よりも結束だ」
俺の言葉に、全員の顔が強張る。
「昨日の戦いのように、互いが互いを守る。それで俺たちの力は何倍になる。犯罪組織のやつらなど恐れるに足りない」
俺が一歩近づくと、6人の男たちが俺を見上げる。
「結束を強めるために、そして格闘技を更に極めるために……普段から一緒に訓練する。それが俺たちの組織の方針だ」
俺はレイモンを振る向いた。
「訓練の場所や日程については、後からレイモンを通じて教えてやる」
レイモンが更に緊張する。
「レイモン」
「はい」
「組織員たちの管理や連絡はお前に任せる。普段から全員の安全の確認を怠るな」
「はい」
レイモンから視線を外して、今度は他の5人を振り向いた。
「お前たちも何かあったら俺やレイモンに真っ先に報告しろ。一人で悩むな。分かったか?」
「はい」
組織員たちが全員同時に答えた。俺は頷いた。
「今日はこれくらいだ。質問は?」
「あの、ボス」
レイモンが手を上げた。
「何だ」
「その……うちの組織の名前はどうしますか?」
「組織の名前か」
俺は苦笑した。
「このあたりの犯罪組織たちは、ボスの名前をそのまま組織の名前として使っているらしいな」
「はい、そうみたいです」
「俺たちは別に『犯罪組織』ではないけど……」
みんなの顔にも笑みが浮かんだ。
「『レッドの組織』。それでいいだろう」
「『レッドの組織』……分かりました」
レイモンが頷いた。
「じゃ、他に質問がないなら今日はこれで解散だ。レイモン以外は家に帰って体力を回復させろ」
「はい」
5人の組織員が俺に挨拶して格闘場から出た。俺はレイモンに視線を送った。
「レイモン、お前に聞きたいことがある」
「はい、何でしょうか」
「組織になったからには……俺たちにも本拠地が必要だ。適当な場所を知っているのか?」
「本拠地ですか……」
レイモンが困惑する。
「申し訳ございません。僕もこの都市に詳しくなくて……」
「そうか。お前はこの都市の出身ではなかったのか」
「はい、2年前から住んでいます」
俺は頷いた。
「分かった。他に聞いてみよう。お前ももう帰っていい。組織員たちの確認を忘れるな」
「承知しました!」
レイモンも俺に挨拶して格闘場を出た。
一人になった俺は周りを見回した。格闘場の中にはロベルトの部下たちが数人いるけど、俺が探しているやつは見当たらない。俺は足を運んで階段を登った。
2階に上がると、一人の少年がホウキで掃除をしているのが見えた。俺が探していたやつだ。
「トム」
「……レッドさん!」
俺の姿を見て、トムが嬉しそうな顔で近づいてくる。
「話は聞きました! 流石レッドさんです!」
「昨日の話か」
「はい!」
トムが頷く。
「みんな噂していますよ! レッドさんが一人で100人を倒したって!」
「いやいや……」
俺は苦笑した。
「100じゃないさ。60か70くらいで、しかも俺一人で倒したわけではない」
「それでも凄すぎです!」
トムが目を輝かせた。
「やっぱりレッドさんは最強です! これでレッドさんの名声も急上昇ですね!」
「名声か」
街であんなに戦ったんだから、噂されるのも無理ではない。
「それよりトム、一つ聞きたいことがあるんだが」
「はい! 何でも聞いてみてください!」
「お前はこの都市について詳しいんだろう? 実は……」
俺は本拠地の問題について話した。
「レッドさんが……組織!?」
トムが目を丸くする。
「俺を含めて7人だけの組織だ。そんな大げさに反応することでもないさ」
「それでも凄すぎです!」
トムはさっきの台詞を繰り返した。俺も苦笑を繰り返した。
「で、本拠地として使えそうな場所を知っているのか?」
「そうですね……」
少し間を置いてから、トムが口を開く。
「港の近くに、使われていない倉庫が数棟あります。うちの組織の所有物もありますので……ボスに話せば借りることもできるはずです」
「なるほど」
倉庫か。この格闘場と似たような構造なら、確かに本拠地として使えそうだな。
「ロベルトはいつ来るんだ?」
「それが……今日は格闘場に来ないらしいです。明日の午後に来て下さったら、ボスと話せると思います」
「そうか」
借りができるのは気に食わないが、しばらくはロベルトの力を借りるしかないか。俺はトムにお礼を言って格闘場を出た。




