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第237話.クレイン地方

 俺とトムと白猫は、城から出発して東に向かった。


 正午の太陽が真上で照り付ける中、3頭の軍馬は広い道路を歩き続けた。道路の左右には春の花々が咲いていて、つい視線を奪われてしまう。


 もしシルヴィアが一緒なら、どういう花か詳しく説明してくれるはずだ。正直俺にはよく分からない話が多いけど、彼女の声を聞いていると楽しい。


 また皆で旅行に行きたいな。俺は珍しくそう思った。


「日差しが強いわね」


 隣から白猫が言った。彼女は茶色の軍馬に乗っていた。


「まだ3月なのにね」


「そうだな」


 俺は頷いた。旱魃の対策を指示して正解だったかもしれない。


「レッド君は暑くない? フードまで被って」


「別にそれほどでもないさ」


 俺は肩をすくめた。


 白猫が言った通り、今俺はフードを被って自分の顔を隠している。顔だけではない。手に包帯を巻いて肌色を完全に隠しているのだ。これくらいしないと、俺の正体はすぐバレてしまう。


「でも、その変装って本当に意味あるの?」


 白猫が面白そうに笑った。


「とてつもなく大きな黒い軍馬に乗っている巨漢……どう考えてもレッド君だよね」


「そうだな」


 俺も苦笑した。


 俺の相棒である『ケール』は全身が筋肉だらけで、とてつもなく大きな黒い軍馬だ。滅多に見れる存在ではない。しかもそれに乗っているのが2メートルを軽く超える巨漢だ。最初から正体を完璧に隠すことはできないのだ。


「クレイン地方からは馬車を雇って移動するつもりだ。まあ、完璧な偽装は無理だけど」


「レッド君もいろいろ大変みたいね」


 白猫がもう1度笑った。


「でも『夜の狩人』の頭領のくせに、潜入も隠密行動も無理だなんて……やっぱり可笑しい」


「確かに」


 俺は素直に認めてから、白猫を見つめた。


「白猫」


「ん?」


「そう言えば……王都にも『情報網』が潜入していると言わなかったか?」


「うん、言ったわよ」


 白猫が頷いた。


「我々の『情報網』……つまり『工作組』の1人が、王都に潜入している」


「そいつからの連絡は?」


「無いわ。王都の方はいろいろ大変みたいだからね」


「そうか」


 俺はゆっくりと頷いた。


 以前青鼠が言ったように、『夜の狩人』は『情報網』を持っている。この情報網ってのは……王国の各地に『工作組』を潜入させる形で機能しているみたいだ。


「我々『夜の狩人』の一員は、『戦闘組』と『工作組』に分けられるの。私と黒猫、そして青鼠が『戦闘組』であり……潜入もするけど、主に戦闘や暗殺を担当している。そして『工作組』は主に潜入と情報収集を担当しているわけ」


 その説明を聞いて、俺は3年前の事件を思い出した。あの時……黒幕の『アンセル』は戦闘員である『フクロウ』以外にも、『白蛇』という女工作員を雇っていた。つまり『フクロウ』は『戦闘組』で、『白蛇』は『工作組』だったわけだ。


「……『工作組』も3人残っていると聞いたが」


 俺がそう聞くと、白猫が寂しそうな表情で頷く。


「以前は結構多かったけどね。危険な任務を遂行している内に、1人また1人と命を落とした」


 俺は口を噤んだ。本意ではなかったが……『白蛇』も俺の行動がきっかけで死んだのだ。


「ま、でもこれからは『夜の狩人』もよくなるだろうね」


 白猫が背を伸ばした。まるで本物の猫みたいだ。


「まだ6人もいるし、新しい頭領もできたし……もう暗殺組織ではないし」


「そうだな」


 俺が頷くと、白猫が笑顔で俺を見つめる。


「王都に潜入している工作組は『鳩』というお姉さんだけど、凄く魅力的な人だよ! レッド君も一目惚れするに違いない!」


「惚れないし、そういうことはもう勘弁だ」


「ふふふ」


 白猫が気持ち良さそうに笑った。


「総大将」


 トムがいつもの白馬に乗って、俺に近づいてきた。


「前方から村が見えてきました」


「そうか」


 俺は地平線の向こうを見つめた。トムの言った通り、小さな村が視野に入ってきた。


「あの村で食事しよう」


「はっ」


 俺たちは速度を上げて、小さな村に向かった。


---


 東への道を数日進み……俺たちはやがて『クレイン地方』に進入した。


 『クレイン地方』は『金の魔女』、つまりカーディア女伯爵の領地だ。広大で、人口も多くて、経済も発達している。王都での戦乱によって被害を受けたそうだが、それでも1万を超える大軍を動員できる領地だ。


 馬を走らせて道を急いでいると、広い川に辿り着いた。川には大きな石橋がある。アーチ状の立派な橋だ。


 そして橋の前には小さな塔があり、数人の兵士が塔の前に立っている。検問所だ。


 俺たち3人は検問所に接近した。すると槍を持った兵士たちが警戒し始める。


「止まれ!」


 兵士たちが叫んだ。俺はケールから降りて、彼らに近づいた。


「誰だ、お前は!? 顔を見せろ!」


「へっ」


 俺はゆっくりとフードを外して、顔を見せた。すると兵士たちが驚愕する。俺の顔は分からなくても、肌色は知っているのだ。


「あ、貴方は……」


「ここの責任者を呼んでくれ」


「は……はい!」


 1人の兵士が素早く動いて、塔の中に入った。そして数秒後、士官に見える男を連れてきた。


「レッド様」


 士官が丁寧に頭を下げる。


「領主様からの指示を受けております。ご訪問、歓迎致します」


「ありがとう」


「さあ、どうぞこれを」


 士官は俺に1枚の紙切れを渡してくれた。


「通行許可書です。それがあれば、クレイン地方での移動は自由です」


「ああ」


 俺は通行許可書を懐にしまって、ケールに乗った。そしてトムと白猫と一緒に石橋を渡った。

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