第23話.こういう戦いも悪くないな
俺は今まで一人で戦ってきた。それが楽しかった。
考えてみれば、戦いは俺にとって単なる暴力ではなく……俺自身を表現するための手段だった。化け物としてこの世に生まれた俺は、戦いこそが自分の存在を示す唯一の方法だったのだ。
だが、今この瞬間……俺の周りには一緒に戦ってくれるやつらがいる。
「レッドさん!」
「分かっている!」
味方の一人が敵に囲まれてしまった。俺は全力で突進し、3人の男をぶっ飛ばして味方を助けた。その隙にナイフを持っているの男が俺を刺そうとしたが、そいつはレイモンが蹴り倒した。
俺の周りにいるのは全員格闘場の選手たち……つまり戦いに慣れている強者たちだ。その強者たちが互いの隙を補いながら戦っているのだ。そこから生まれる力は俺の想像を軽く超えていた。
「はあああっ!」
敵の攻撃が弱まった時、俺は突撃して敵陣を崩壊させた。そして味方が俺に続いて突撃してきて、分散されている敵を撃破した。
「何なんだ、こいつら……!?」
敵の顔に恐怖が浮かぶ。それを見て俺は確信した。たとえ敵が今の倍になっても……俺たちの勝ちだ。
「何しているんだ?」
俺は目の前に集まっている敵を睨みつけた。
「早くかかってきやがれ……!」
俺が雄叫びを上げると、数十を超える犯罪組織の一員たちが後ずさる。やつらも俺たちに勝てないことに気付いたのだ。そしてそれはやつらのボスも同じだった。犯罪組織のボスは強張った顔で口を噤んでいる。
「もう指示も出せないのか?」
「……き、貴様は……」
俺の挑発にボスが何か言おうとした時、大勢の足音が聞こえてきた。また数十に近い男たちが現れたのだ。
「レ、レッドさん……」
レイモンが俺を呼んだ。敵の増援が現れたと思っているんだろう。しかし俺は首を横に振った。
「あれは敵じゃない。よく見ろ」
俺はそう言いながら、新しく現れた男たちを率いている人を指さした。それは……ロベルトだった。格闘場の運営者である美中年のロベルトが、自分の組織を率いて来たのだ。
「ロ、ロベルト!」
さっきまで強張っていた犯罪組織のボスの顔が明るくなる。
「よくぞ来てくれた! 早くあいつらを……!」
「勘違いしてもらっては困りますよ、ビットリオさん」
しかしロベルトは犯罪組織のボスに冷たい視線を送る。
「私は争いにきたわけではありません。逆に仲裁しに来たんです」
「仲裁だと……?」
「はい、皆さんの『軽い口喧嘩』が大事に至る前に……仲裁に入らなくてはならないと思いまして」
大通りのあちこちには多数の男たちが倒れていた。これが『軽い口喧嘩』か。
「ロベルト、てめえ……」
『ビットリオ』と呼ばれた犯罪組織のボスが顔を歪ませる。
「まさか裏切るつもりか……!?」
「裏切りって……人聞きの悪いことは言わないで頂きたい」
ロベルトが苦笑する。
「私はあくまでも善意を持って、これ以上の争いを避けようとしているだけです。皆さんの『軽い口喧嘩』に市民たちが怯えていますからね」
ビットリオはロベルトの顔を睨みつけた。だが……これ以上俺と戦うのは自殺行為だということを、ビットリオが一番よく知っている。
「おい、化け物」
ビットリオが俺を呼んだ。
「貴様の力はよく分かった。次はこうはいかないからな」
その言葉にレイモンが「何だと!?」と反応した。しかし俺は手を上げてレイモンを阻止した。
「引き揚げるぞ」
ビットリオは部下たちに命令し、倒れている男たちを収拾して退散し始めた。
「レッドさん」
ロベルトが俺に近づいてきた。
「お話ししたいことが……」
「その前にこいつらを治療してくれ」
俺は親指で俺の後ろに立っている格闘場の選手たちを指さした。するとロベルトが笑顔を見せる。
「分かりました。では場所を移りましょうか」
「ああ」
俺たちも足を運んで戦場から離れた。




