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第221話.尋問の時間だ

 俺と黒猫は一緒に城内に入って、まず武器庫に向かった。そして黒猫のハルバードを武器庫に預けた。


「では、頭領様。私は部屋に戻ります」


 黒猫はペコリと挨拶してから、自分の部屋に戻る。今の姿だけ見れば本当に普通の子だ。


 俺は3階に上がって、執務室の扉を開いた。するとエミルの姿が見えた。


「総大将」


 エミルが無表情で俺を見つめる。俺は「ああ」と答えてから領主の席まで行き、椅子に座った。


「話は聞いた。青鼠がルシアンを捕獲してきたようだな」


「はい」


「では……やつをここに連れてきてくれ」


「かしこまりました」


 エミルは執務室を出た。そして数分後、数人の兵士たちと一緒に戻ってきた。兵士たちは縄で縛られた中年の男を囲んでいた。


「総大将、こちらが例の男です」


 エミルが冷たい声で言った。俺は中年の男を注意深く見つめた。


 端正な顔立ちの男だ。歳は40代後半くらいだろう。今はみすぼらしい服装をしているが、本来は裕福な生活をしていたように見える。


「縄を解いてやれ」


 俺が命令すると、兵士たちは「はっ」と答えて男の縄を解いた。


 縄から解放された男は、怯えた顔で俺を見つめる。


「エミル以外は下がってよし」


「はっ」


 兵士たちが執務室から出た。それで部屋の中には俺とエミル、そして中年の男だけになった。


 俺は席から立ち上がって、中年の男に近づいた。


「俺が誰なのか、紹介する必要もないだろう?」


「あ、赤い化け物……」


 中年の男が汗をかきながら俺を見上げる。執務室の内は別に暑くないから、その汗は恐怖のせいだろう。


 俺は笑顔を見せた。


「そう、俺が赤い化け物だ。これからお前にいくつか質問をするから……正直に答えろ」


「うっ……」


 中年の男が視線を落とす。俺はそんな彼をじっと見つめた。


「お前がハリス男爵の行政官だった『ルシアン』だな?」


「くっ……」


「答えろ」


「……そ、そうだ。私が……ルシアンだ」


 中年の男……いや、ルシアンが震える声で答えた。俺は質問を続けた。


「お前はハリス男爵の命令書を偽造して、俺の暗殺を企んだ。違うか?」


「私は……」


「質問に答えろ」


「わ、私は指示された通りにやっただけだ……!」


 ルシアンが声を上げる。


「好きでやったわけではない……! 仕方なかったんだ!」


「じゃ、お前に指示を出した人物は誰だ?」


「それは……」


 ルシアンの顔が真っ青になる。俺は彼に1歩近づいた。


「答えろ。お前に指示を出した人物は誰だ?」


「い、言えない……」


「言えない、だと?」


 俺は笑顔でルシアンの肩を掴んだ。


「俺はな、拷問はあまり好きじゃない。敵の捕虜を拷問したこともない」


「うっ……」


「でも……お前にはちょっと怒っている。俺の女たちが巻き込まれたからな。だから……俺がいつまでも優しく質問すると思うな」


 ルシアンの顔が恐怖に歪む。


 俺は彼の肩を軽く叩いて、ゆっくりと口を開いた。


「もう1度だけ聞く。お前に指示を出したのは誰だ?」


「……あ、アップトン女伯爵だ」


 ルシアンが項垂れる。もう諦めたようだ。


「私に指示を出したのは、アップトン女伯爵だ」


「指示の具体的な内容は何だ?」


「……『ハリス男爵の仕業に見せかけて、レッドを殺せ』という指示だった」


 その答えを聞いて、俺は眉をひそめた。するとルシアンが再び声を上げる。


「本当に仕方なかったんだ! アップトン女伯爵は恐ろしい人だ! 指示通りにしないと何をされるか……」


「へっ」


 俺はつい笑ってしまった。


「ま、確かにお前は指示通りにやっただけだな」


「そうだろう? だから……」


「でもよ」


 俺はルシアンを睨みつけた。


「アップトン女伯爵に協力する代わりに、彼女からずっと莫大なお金をもらってきたんだろう?」


「うっ……」


「結局お前は、自分の欲望のためにアップトン女伯爵に協力した。違うか?」


 ルシアンは口を噤んだ。彼の額に冷や汗が滲む。


 俺はエミルの方を振り向いた。


「エミル」


「はい」


「こいつを牢獄に閉じ込めておけ」


「かしこまりました」


 エミルは外で待機中の兵士たちを呼んで、俺の命令を伝えた。兵士たちは素早く動いて、ルシアンを連れて去った。


「どうしますか?」


 エミルが聞いてきた。俺はまず領主の席に座った。


「本来なら、こういう背信行為に対しては武力による制裁が必要だが……」


「でも今はそんなことをする余裕はありません」


 エミルが冷たい眼差しで俺を見つめる。


「1日でも早く王都に進出するべきです。この時期を逃すと、今までの戦いが徒労に終わってしまう」


「分かっているさ」


「『金の魔女』……カーディア女伯爵と手を組んで、アップトン女伯爵を牽制するのはどうでしょうか?」


 その提案を聞いて、俺は少し考えてみた。


 昨日の敵が今日の友になるのは、乱世ではよくあることだ。それに、王都に進出するためには『クレイン地方』を通らなければならないし、クレイン地方の統治者はカーディア女伯爵だ。つまり……どの道カーディア女伯爵の力を借りる必要がある。


 でも……『昨日の敵を友にする』のはともかく、『昨日の友を敵にする』のは気に入らない。


「……俺が直接話してみる」


「カーディア女伯爵と、ですか?」


「いや、アップトン女伯爵とだ」


 俺が答えると、エミルの眼差しが更に冷たくなる。


「アップトン女伯爵は総大将の暗殺を企んだ張本人です。説得するのはほぼ不可能に近い」


「その不可能を可能にするのが、指導者の役割さ」


「……いつもながらとんでもない選択ですね」


 エミルがため息をつく。


「どうせ反対しても無駄ですよね?」


「ああ」


「では、会談の場所と日程を調整します」


「ありがとう。助かるよ」


 俺は有能な参謀に心から感謝した。

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