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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第3章.ただの怒りではなく、それ以上の何かを
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第21話.お前は弱点なんかではない

 犯罪組織の巣窟から出た俺は、まずフードを被って肌を隠した。


「腹減った」


 朝から運動をしたせいだろう。何か食べてから小屋に戻るか。


「……パンがいいな」


 俺はパン屋に行き、焼き立てのクリームパンを3個買って革袋に入れた。1個は俺の分、2個は爺とアイリンの分だ。


 ゆっくりと歩いて南の都市から離れ、人気のないところまで歩いた。そこでフードを外して俺の分のクリームパンを食べ始める。


「うむ……」


 まあまあ美味しいけど……アイリンと一緒に食べたパンの方がもっと美味しかった気がする。何故だろう。同じパン屋で買った同じパンなのに。


 それから一人で数時間歩いて、やっと小屋に着いた。俺の足音に気付いてアイリンが飛んでくるだろう。


「……ん?」


 アイリンが……出てこない。家事をやっているのかな?


「アイリン? 爺?」


 俺は小屋の扉を開いた。しかし……そこには誰もいなかった。


「これは……」


 どういうことだ。まさか俺に何も言わずに二人で出かけたのか? いや、そんなはずはない。


「まさか……」


 まさか犯罪組織のやつらが……いや、それもあり得ない。俺がやつらを叩いたのはついさっきのことだ。やつらに小屋が襲撃されることは時間的にあり得ない。


 俺は胸騒ぎを感じながらも、冷静に周りを見回した。そしてすぐ手掛かりを見つけた。爺とアイリンの足跡だ。つまり二人は一緒に出掛けたのだ。


「でもこっちは……」


 足跡は……北に続いていた。北には大きな山があるだけだ。何故爺はアイリンを連れて山の方に……。


「爺……」


 俺は思い出した。ここ最近、爺はアイリンが俺に悪い影響を与えていると思っていた。つまり爺にとって……アイリンは計画の邪魔なのだ。だから……アイリンを……。


「……くっ!」


 俺はパンの入った革袋を手放して走り出した。全身が熱くなって、頭が真っ白になって、必死になって走り続けた。


 数分後、俺は登山口に辿り着いた。


「やっぱり……!」


 そこにも二人の足跡があった。やっぱり爺とアイリンは山に入ったのだ。


 俺は足跡を追跡した。足跡は途中から山道を離れて、人気のない山の奥に向かっていた。


「アイリン……!」


 思わず名を呼んだ。心臓が張り裂けそうに高鳴ったが、諦めるわけには……!


「あ……」


 山の奥、大きな木の下で……二人の人影が見えた。俺は放たれた矢のように走ってそこに向かった。


「アイリン!」


 それは……アイリンと爺だった。アイリンは何か草を手に持っていて、爺は切り株に座っていた。


「レッドか」


 爺とアイリンが俺を振り向く。


「一体何なんだ、そんな恐ろしい形相をして」


「何なんだじゃねぇよ!」


 俺は声を上げた。


「こんなところで何していたんだ!?」


「見りゃ分かるだろう? 薬草を採取していたんだ」


「……薬草?」


 俺が眉をひそめると、アイリンが俺に近づいて手に持っている草を見せた。


「あうあう!」


「これが……薬草?」


 俺は爺の方を見つめた。すると爺が口を開く。


「この子は薬学を勉強中だ」


「薬学って……」


「これだ」


 爺が1冊の本を持ち上げた。


「こないだ買ってきた、薬学の本だ。この本の内容を勉強すれば簡単な薬は作れるさ」


「何故それをアイリンに……」


「分からんのか?」


 爺は切り株から立ち上がる。


「お前にとって……この子がただの弱点であってはいけない。これからの道、そんなんでは進めないんだよ」


 俺はアイリンを見下ろした。


「この子もお前の力にならなければならない。だからしっかり勉強させる必要があるわけだ」


「……そういうことだったのか」


 俺の反応に爺が苦笑する。


「お前、私がこの子を山に捨てるとでも思ったんだな?」


「ああ」


 俺は素直に認めた。


「爺は悪魔だからな」


「そりゃどうも」


 俺と爺の会話を聞いていたアイリンは、指で地面に文字を書いた。それは……『これからいい薬を作ってレッドを癒してあげる』だった。


「あうあう!」


「……うん、よろしく頼む」


 俺はアイリンの頭を撫でてやった。

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