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第201話.幽霊のような踊り子

 俺と3人の少女たちは急ぎ足で森の中を進んだ。


 『森林偵察隊』から命を狙われている今、少しでも早く森を抜けなければならない。森のやつらの領域だ。ここにいちゃ、俺はともかく3人の少女が危ない。


「ハリス男爵……」


 俺は歯を食いしばった。本当に彼が俺を裏切ったんだろうか? 本当に俺の命を奪おうとしているのか?


 いや、分析は後だ。今は目の前の状況に集中しろ……!


「待ちなさい!」


 その時、いきなり後ろから女性の声が聞こえてきた。俺と3人の少女は驚いて、素早く振り向いた。いつの間にか……見知らぬ長身の女性が俺たちの後ろに立っていた。


「……誰だ?」


 俺は長身の女性を見つめながら前に出て、3人の少女を庇うように立った。


「この道は危険よ」


 長身の女性が言った。俺は彼女の姿を観察した。


 もうすぐ冬なのに、軽い服装をしている女性だ。背が結構高くて、シェラよりも長身だ。腰まで届く長い黒髪で、顔は美人だが鋭い表情をしている。歳は……たぶん20代半ばくらいだろう。


 奇妙なのは……女性の眉毛が白いという点だ。髪は黒色なのに眉毛だけ白くて、不思議な雰囲気が漂う。


「レッド……」


 後ろからシェラが小さい声で俺を呼んだ。


「この人、音もなく……」


 シェラの声は震えていた。


 そう、この女性は『音もなく』俺たちの後ろに近づいてきていた。俺ですらこの女性の接近を感じ取れなかった。いくら俺が『全身全霊の動き』を使っていないとはいえ……信じられない動きだ。


「ゆ、幽霊……」


 シェラが呟いた。その言葉通り……この白い眉毛の女性はまるで幽霊みたいだ。何の前触れもなく現れて、余裕のある顔で俺たちを見つめている。


「ふふふ」


 白い眉毛の女性が妖艶に笑った。


「安心しなさい。私は幽霊じゃないわ」


 そう言いながら女性が1歩近づいてきた。俺は女性を睨みつけた。


「それ以上近づくと、あんたの命は保証できない」


「あら、怖いわね」


 白い眉毛の女性が足を止める。


「そんなに警戒しないで。私は敵じゃないわよ」


「じゃ、名を名乗れ。あんたは誰だ?」


 俺は大剣『リバイブ』を握りしめた。答え次第では、この女性を一瞬で仕留めるつもりだ。


「私は……」


 白い眉毛の女性は笑顔でゆっくりと口を開く。


「私は……『白猫』」


「『白猫』……? まさか……」


 俺は目を見開いた。そういう名前を使う集団は、俺の知っている限り……1つしかない。


「レッドの知り合いなの……?」


 後ろからシェラが聞いてきた。俺は首を横に振った。


「いや、知り合いではない。だが……」


 心当たりならある。伝説の暗殺集団『夜の狩人』……たぶんこの『白猫』はその一員だ!


 白猫は誘惑するような目つきで俺を見つめてくる。


「私は貴方の頭を刈り取りに来たわけではないわ。つまり敵ではない」


「へっ」


 俺は笑った。


「暗殺者の言葉を信じるとでも思うのか?」


「それはそうわね。じゃ、どうすれば私を……」


 その時、白猫の後方から4人の男が現れた。男たちは全員長い弓を手にしていた。『森林偵察隊』だ。


「ちっ」


 俺は大剣を構えた。さっきの戦いで逃げた2人の森林偵察隊が、仲間を連れてきたのだ。


「ちょうどいいところに現れたね」


 白猫が笑顔を見せる。


「私が敵じゃないってこと、証明してあげる」


「何?」


 俺が眉をひそめて瞬間、白猫は懐から短剣を取り出して……4人の森林偵察隊に向かって音もなく突進する。


「何だ……!?」


 森林偵察隊は白猫の姿に驚きながらも、弓に矢をつかえて放つ。冷静な対応だ。4本の矢が白猫に向かって飛んでいく。


「ふふ」


 しかし絶体絶命の瞬間……白猫は笑った。そして踊るように動き、4本の矢を間一髪でかわしてしまう。


「あれは……」


 あれは俺の『全身全霊の動き』だ。いや、正確に言えば鼠の爺の『心魂功しんこんこう』だ。精神を極限まで集中させ……潜在能力を引き出し、全身の感覚を極限まで高める技だ。


 白猫は美しく踊って矢を回避し、瞬時に森林偵察隊に接近した。明らかに人間の限界を超越した動きだ。


「くっ……!?」


 森林偵察隊は素早く剣を抜いて白猫を攻撃する。咄嗟の反応は流石精鋭部隊といったところだ。でも白猫は4人の攻撃を全て回避する。今の彼女には……周りの全てが止まっているかのように遅く見えるのだ。


「っ……!」


 1人の森林偵察隊が短い悲鳴を上げた。白猫の短剣がやつの肩に深い傷をつけたのだ。白猫は余裕のある顔で距離を取り、短剣を構える。


「退却だ! 引くぞ!」


 他の森林偵察隊がそう叫んだ。今のままでは白猫に対抗できないし、俺もいるから戦況が不利だと判断したんだろう。やつらは潔く逃走し始める。


「ふふふ」


 白猫は敵を追跡せず、笑ってから短剣を懐にしまった。そしてゆっくりと俺に近づく。


「これで信じてもらえるかしら? 私が敵じゃないってこと」


「いや」


 俺が首を横に振ると、白猫が苦笑する。


「あら、残念ね。せっかくお姉さんが頑張ったのに」


「誰がお姉さんだ」


 俺は白猫を睨みつけた。


「あんたの目的は何だ?」


「私の目的は貴方を助けることよ」


「俺を? 助ける?」


「うん、そうよ」


 白猫が頷く。


「最初に言った通り、この道は危険よ。貴方は近くの村に行くつもりでしょうけど……罠が待ち受けているわ」


 確かにその可能性はある。森林偵察隊が俺の逃走経路を塞ぐつもりなら、当然村にも罠を張っているはずだ。


「貴方自身はどうにかなるかもしれないけど、子猫ちゃんたちにはかなり危ない。私が安全な道を案内して上げるわ」


 『子猫ちゃんたち』って、つまりシェラたちのことなんだろう。


「……どうして俺を助けるんだ?」


 俺の質問に、白猫は微かな笑みを浮かべて答える。


「私たちの頭領から命令されたの」


「あんたらの……頭領?」


「うん、頭領は何かの計画を立てているけど……貴方の力が必要みたい」


 『夜の狩人』の頭領か。一体どんなやつなんだろう?


「ここで貴方に恩を売っておけば、話が円滑に進むだろうからね」


 白猫はニヤリと笑う。


「どう? まだお姉さんを疑うつもり? もう説明した通り、この道は危ないわよ」


「……安全な道を案内しろ」


 俺は冷たく言った。


「ただし、必要以上にシェラたちに近づくな」


「ふふふ……分かった。じゃ、ついてきて」


 白猫は妖艶に笑ってから、森を進み始める。


「レッド」


 シェラが心配そうな顔で俺を見上げる。


「あの女の言葉……信じてもいいのかな?」


「まだ信頼はできないが、このまま無暗に進むよりはマシだろう。もちろん警戒は怠るな」


「うん」


 シェラが頷くと、シルヴィアとタリアも頷いた。そして俺たちは白猫の後ろを追った。

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