第200話.生還への道
ついさっきまで平和だった森が一瞬で『狩場』と化した。狩人は『森林偵察隊』で、獲物は……この俺だ。『森林偵察隊』は木々の間に隠れて、俺の命を狙っている。
「……へっ」
俺は冷静を維持し、頭の中で今の状況を整理してみた。たぶん『森林偵察隊』は距離を置いて俺たちを尾行したはずだ。やつらはここら辺の地形を熟知しているから、バレずに尾行できたんだろう。
そして俺たちが『新緑の湖』で足を止めた時、『森林偵察隊』はこれこそ絶好の機会だと判断し……俺を2回狙撃したのだ。
でも今頃……『森林偵察隊』のやつらは内心慌てているに違いない。完璧なタイミングで、しかも頭と心臓を狙撃したのに……獲物である俺を仕留められなかった。こういう事態はやつらとしても初めてだろう。
戦場の空気を感じ取る本能的な感覚、そして大剣『リバイブ』……この2つのおかげで俺は生き延びることができた。まさに間一髪……少しでも対応が遅かったら、俺はもう致命傷を負っている。
「レッド……!」
岩の後ろに隠れているシェラが、緊迫した声で叫んだ。
「何しているの!? 早く隠れて!」
シェラは俺を心配している。特殊部隊に狙われているんだから、当然のことだ。しかし俺には……隠れるつもりなどない。
もし俺が隠れたら、今度はシェラたちが狙われるかもしれない。俺が『森林偵察隊』の目を引いた方が安全だ。
それに、わざと無防備でいることで次の狙撃を誘い……やつらの居場所を突き止めてやる!
「……ふう」
俺は精神を極限まで集中した。すると感覚が極限まで研ぎ澄まされ……周りの全てが止まっているかのように遅く見えて、どんな小さな音もはっきりと聞こえてくる。これこそが人間の潜在能力を任意に引き出す技……『全身全霊の動き』だ。
湖の水面の波紋、風に揺られる木の葉、隠れている少女たちの呼吸音……俺の感覚はその全てを完全に捕捉した。そして数秒後……2つの不協和音が現れ、俺に近づいてくる。
不協和音の正体は2本の矢だ。『森林偵察隊』が俺の心臓と足を狙って矢を放ったのだ。正確すぎる射撃だが、おかげで俺は敵の数と居場所を把握した……!
「……うおおお!」
俺は大剣『リバイブ』で振るい、2本の矢を同時に弾き飛ばした。普通なら不可能に近い曲芸だが、今の俺の目には矢の軌跡がはっきり見える。
「はああああっ!」
すかさず全力で走り出し、約20メートル離れた巨木に駆け寄った。そして横切りを放つと、太い巨木が綺麗に切断され……その陰から2人の男が飛び出てくる。
「くっ……!」
2人の男……いや、2人の『森林偵察隊』は慌てた。まさか俺が大剣で射撃を防ぎ、反撃してくるとは予想できなかったんだろう。
「この化け物め……!」
しかし2人の森林偵察隊は慌てながらも素早く手を動かして、もう1度矢を放った。緊迫な状況での射撃なのに、2本の矢は俺の頭を正確に狙って飛んでくる。
「っ……!」
俺は1歩下がって姿勢を低くした。それでやっと至近距離の射撃をかわしたが……その隙に2人の森林偵察隊は逃走した。
「ちっ!」
やつらを追跡して、仕留めることも可能だ。しかし今はシェラたちからあまり離れるわけにはいかない。俺は追跡を断念して、シェラたちのいるところに戻った。
「レッド!」
岩に隠れていたシェラが俺に近づいてきた。シルヴィアとタリアもシェラに続いた。
「レッド、怪我は!?」
「ない」
「あれって……やっぱり『森林偵察隊』だよね!?」
「ああ」
俺が頷くと、シェラは驚いて目を見開く。シルヴィアとタリアも驚愕する。
「じゃ、ハリス男爵が私たちを……!?」
「その可能性は高い」
俺は冷静に答えた。
『森林偵察隊』は領主直属の特殊部隊だ。ハリス男爵の命令無しで、やつらが動くはずがない。
「……とにかく今は移動するべきだ。同じ場所に長居すればまた狙撃される」
「でも……どこに?」
シェラが不安な顔を見せた。
もし本当にハリス男爵が俺たちを狙っているのなら……この森の中に安全な場所などない。そしてもちろん城に帰還することは自殺行為だ。
「近くの村に行こう」
俺は決断を下した。
「近くの村に行って、そこから俺の領地に帰還する」
「……うん、分かった」
シェラが頷いた。シルヴィアとタリアも無言で頷いた。
幸い近くの村までの道は知っている。ハリス男爵が詳しく案内してくれたおかげだ。俺たちは急ぎ足で森の中を進んだ。
俺は先頭を歩きながら、現在の状況を打破する方法を考えた。しかしこれといった方法が見つからない。俺1人なら正面突破も不可能ではないけど……今は3人の少女がいるのだ。
「ハリス男爵……」
ふと頭の中にハリス男爵の姿が浮かんだ。
俺は俺自身に向けられる敵意を何となく感じられる。この野生動物みたいな嗅覚のおかげで、今まで生き延びてきた。しかし……ハリス男爵からは少しの敵意も感じられなかった。
1番の人格者だと思っていたのに、実は1番危険な人物だったんだろうか。
「……みんな、大丈夫か?」
俺は足を止めて、3人の少女の様子を確認した。
シェラはもう落ち着いている。数々の戦場を経験したシェラだから、こういう危機にも冷静に対応できるわけだ。
シルヴィアは緊張した顔をしているが、冷静を保とうと頑張っている。別に戦場を経験したわけでもないのに、本当に肝の据わった女の子だ。
問題は……タリアだ。
「タリア、大丈夫か?」
「は、はい……!」
俺の質問に、タリアは震える声で答える。
タリアはかなり動揺している。それは当然のことだ。この小さい吟遊詩人見習いは、あくまでも普通の女の子なのだ。いざという時、恐怖で動けなくなるかもしれない。
シェラがタリアを見つめる。たぶん俺と同じ心配をしているんだろう。
「タリアちゃん」
「はい、シェラ様」
「怖いのは分かるけど……レッドとシルヴィアさん、そして私もいる。落ち着いて行動すれば必ず助かるはずよ」
「……はい!」
タリアが少しだけ冷静を取り戻した。それを見てシルヴィアも口を開く。
「シェラさんの仰った通りです。みんなを信じて進めば、必ず道が開けます」
「はい!」
タリアが更に冷静を取り戻した。よし、これなら問題ない。
俺たちは周りを警戒しながら進み続けた。幸い殺気は感じられないけど……油断はできない。俺は精神を集中し、狙撃に備えた。
「……もうすぐだ」
もうすぐ近くの村に辿り着く。たとえ罠が待っているとしても、今は進むべきだ。
「待ちなさい!」
その時、突然後ろから女性の声が聞こえてきた。俺と3人の少女は素早く後ろを振り向いた。いつの間にか長身の女性が俺たちの後ろに立っていた。




