第20話.片っ端から叩き潰してやる
朝の日差しが気持ちよかった。
俺は自分の赤い肌を隠さずに街の中を歩いた。まあ、今日だけはいいだろう。
「あそこか」
格闘場から割と近い、3階建ての建物。あそこがレイモンに教えてもらった『犯罪組織の巣窟』だ。
巣窟の入り口には二人の男が立っていた。 俺はそいつらに近づいた。
「な、何だお前?」
俺の肌と体格を見て、やつらは早速警戒し始める。
「お前たちのボスはどこだ?」
俺が質問しても、やつらは困惑した顔で答えない。いくら下っ端とはいえ、犯罪組織のくせに間抜けなやつらだ。
「お前たちのボスはどこにいるかって聞いている」
「何でそれを聞くんだ? どこの組織だ?」
「組織?」
俺は笑った。
「組織なんかねぇよ。俺はレッドだ。ボスにレッドが来たと伝えろ」
「……ふざけやがって!」
下っ端の一人が俺に拳を振るってきた。どうやら俺の笑いを挑発として受け取ったようだ。しかし……あまりにも粗末な攻撃だ。俺はやつの手首を掴んで、軽く捻ってやった。
「は、離せ!」
「今からでも遅くない。大人しくボスに言い伝えろ」
下っ端は俺の警告を無視して、今度は蹴りを入れようとした。それに気づいた俺は先にやつの膝を蹴った。やつは悲鳴と共に倒れた。
「き、貴様!」
残り一人の下っ端は驚愕し、建物の中へ逃げてしまった。
「ふ……」
結局こうなるのか。俺は下っ端の後を追って建物に入った。
建物の内部は広くて所々にテーブルが置かれていた。酒場かレストランみたいな感じだけど……朝だからなのか、今は誰もいない。
「あ、あいつです!」
誰もいないと思いきや、逃げ出した下っ端が2階から数人の男たちを連れてきた。たぶん2階がこいつらの生活空間なんだろう。
「てめぇ、何者だ!?」
強面の男たちが一斉に俺を睨みつけてくる。やっと犯罪組織らしくなってきたな。
「お前たちのボスに話したいことがある。案内してくれないか」
「……なめんなよ!」
やつらが動き出した。俺を囲んでタコ殴りにするつもりなんだろう。不良たちもそうだったけど、こんなやつらのやることはいつも同じだ。
もちろんこいつらは……犯罪組織の一員だけに、不良たちよりはずっと強い。だが……俺も不良たちを殴った時よりずっと強い。
「うぐっ!?」
俺はまず先頭の男の顔面に拳を放った。軽い一撃だが、それだけでやつの鼻は折れてしまう。その直後、俺は間髪を入れずに手を伸ばして……左からかかってくる男の首を掴んだ。
「ぐおおおお!」
野太い雄叫びと共に、俺は男の首を掴んだまま振り回した。成人男性の体格と体重は……そのまま俺の武器になって数人の男を倒した。武器になってくれた男も、もう白目をむいていたので手放した。
「ば、化け物……!」
ほんの刹那の、ただ2回の攻撃で……目の前の男たちは戦意を失いつつあった。
「クソ野郎が……!」
俺の後ろに回り込もうとした男が、力一杯蹴りを入れてきた。俺は飛んでくる足を狙って裏拳を放った。蹴りと拳が衝突し、やつの足の骨が粉々になってしまう。
「こいつ……!」
今度は二人の男がテーブルを盾にして、俺にぶつかってくる。
「ぬおおおお!」
俺は両手でテーブルを受け止め、逆にやつらを壁まで押し返した。やつらは壁に激しくぶち当たり、そのまま気を失う。
「……ひ、ひいいいっ!」
残り一人が恐怖に満ちた叫び声を上げて尻餅をつく。皮肉にも、それは正門から逃げ出した下っ端だった。
「またお前だけ生き延びたな」
俺は笑った。
「ご覧の通り、お前たちが束になったところで俺の相手ではない。大人しくボスに案内しろ」
俺がそう言いながら近づくと……下っ端は小便を漏らして気絶してしまう。
「……これは困ったな」
まあ……化け物みたいな赤い肌の巨漢が迫ってきたら、気を失うのも仕方ないかもしれないけど……本当に根性のないやつだ。
俺も仕方なく、倒れている男たちの様子を確認した。まだ気を失っていないやつがいたら、そいつに案内させるしかない。
「一体何事だ!?」
大きい声が聞こえてきた。振り向いたら険悪な顔をしている中年の男が階段を降りてきた。
「これは……」
中年の男は目を見開いた。こんな光景を見たら普通はそうなるだろう。
「あんたがこいつらのボスか?」
俺の質問に、中年の男が歪んだ顔で口を開く。
「その肌の色は……噂の化け物か」
俺のことを知っている……ということは、やっぱりこの男がボスなんだろう。
「あんたに話したいことがある」
「化け物の分際が……」
「これ以上格闘場の選手たちに手を出すな。分かったか?」
俺は犯罪組織のボスを睨みつけた。しかしボスは怯むことなく、むしろ笑顔を見せる。
「てめえ、まさか私の部下がこれだけだと思っているのか?」
その答えに俺も鼻で笑った。
「こんな貧弱なやつらが他にもいるのか? じゃ、早く呼び出せよ。まとめて潰してやるから」
「勘違いするな、化け物」
犯罪組織のボスが冷たい顔になる。
「私たちは手段を選ばない。お前みたいな化け物はともかく、お前の家族たちを一人一人なぶり殺してやる。ここでお前が私を殺しても……その結果は変わらない」
「あんたこそ勘違いするな」
俺も無表情になり、ボスに近づいてその肩を掴んだ。
「俺には家族なんかいないんだよ。そんなくだらない脅迫が……化け物にも通用すると思うな」
ボスは更に凶悪な表情になったが、結局何も言わない。
「あんたの仲間たちにもそう伝えろ。今度格闘場の試合にちょっかい出したら……その日がてめえらの終わりだとな」
俺は犯罪組織のボスを残して、その場を去った。




