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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第3章.ただの怒りではなく、それ以上の何かを
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第19話.事情は分かった

 試合が終わって2階に上がると、いつも通りトムが近づいてくる。


「今日も本当に素晴らしい試合でした!」


 俺はトムからタオルと水をもらって、汗を拭いて水分を補給した。


「もう圧倒的でしたね! 流石レッドさんです!」


「ありがとう」


「傷の手当てはどうしますか?」


「手当ては要らない。でも……少し休みたいな」


「え……」


 トムは少し驚いたようだった。俺はトムにタオルとコップを返して、近くの椅子に座った。


「レッドさんが休みたいと仰るのは……初めてみました」


「それがそんなに驚くことか?」


 俺は苦笑した。


「俺だって疲れたさ。レイモンは今までの相手の中で一番強かったからな」


「でも……以前の試合に比べて大分楽勝に見えましたけど」


「それは俺が以前より強くなったからだ」


 俺がそう答えるとトムが目を丸くする。


「レッドさんはもう最強なのに、まだまだ強くなるんですか?」


「俺が……最強?」


 俺はまた苦笑した。トムは俺に対して何か幻想を抱いているようだ。


「俺は別に最強ではないさ。何しろ、俺は俺よりずっと強い人間を知っている」


「そんな……」


「まあ、もちろんいつかはそいつを超えてやるつもりだ。だからこそ俺は強くなり続けなければならない」


 俺の決意を聞いたトムは視線を落として、少し間を置いてから口を開く。


「自分は……自分も……」


「ん?」


「い、いいえ……何でもありません。どうかごゆっくりしてください」


 トムがその場を去った。不思議なやつだ。


 しばらく座っていると、次の試合の選手たちが姿を現した。彼らは俺が座っているところを怪訝そうに見つめてきた。仕方がない。俺は本当に疲れているのだ。


 試合の最後、俺がレイモンを倒すために放った連続攻撃……その『全身全霊の動き』は、鼠の爺の技だ。限界を越えて全身の筋肉を動かし、一瞬だけ爆発的な力と速さを手に入れる技……実戦で使ったのは初めてだ。


 体に眠っている潜在能力を引き出すわけだから、確かに強い技ではある。だが……いかんせん体の負担が酷い。おかげで今も体のあちこちで筋肉が悲鳴を上げている。日頃の鍛錬を疎かにしていたら、自滅したかもしれない。


「うっしゃ……」


 俺は席から立った。いつまでもこんなところで休んでいるわけにもいかないし、宿に行こう。犯罪組織のやつらも流石に今日は手を出してこないだろう。


「れ、レッドさん……」


 しかし俺が階段を降りて格闘場から出ようとした時……誰かが俺を呼び止めた。振り向いたらそれは……。


「レイモン?」


 ついさっきまで俺と殴り合っていたレイモンが、ふらつきながら俺を見つめていた。


「俺に何の用だ?」


「レッドさんと……少し話したいです」


 レイモンはとても真面目な顔だった。俺は疑問を感じながらも、レイモンに向けて頷いた。


---


 俺とレイモンは格闘場を出て人気の少ない裏路地まで行った。


 月が明るかったが、誰かに見られる気配はなかった。俺はまだふらついているレイモンを眺めた。


「傷は大丈夫か?」


「はい、レッドさんが手加減してくださったおかげで……」


「俺は手加減した覚えはないんだが」


「いいえ」


 レイモンは真面目な顔で首を横に振った。


「最後の瞬間、レッドさんは拳を止めてくださいました。あの拳が当たったら、僕は今頃……」


「まあ、その話はいい。それより話したいことは何だ?」


 俺が質問に、レイモンは用心深く周囲を見回してから口を開く。


「……レッドさんは『10連勝のジンクス』という言葉をご存知でしょうか」


「その話か」


 俺は軽く頷いた。


「ロベルトから聞いた。10連勝した選手は不幸な事故に遭うって話だろう?」


「はい。しかしその話には……裏があります」


 レイモンの真面目な顔が暗くなった。


「実は……1年くらい前、僕は9連勝を記録しました。しかし10戦目の試合を目の前にして……脅迫を受けました」


「脅迫?」


「はい。『不幸な事故に遭いたくなければ、次の試合には勝つな』という……犯罪組織からの脅迫でした」


「なるほど、だから2回も負けたのか」


「……はい」


 レイモンが視線を地面に落とす。


「最初は拒否しましたが、家族にまで手を出すと言われて……結局彼らの望み通りに2回負けました」


 こんなに強いやつが、何故2回も負けたのか疑問だったが……やっぱり裏があったのか。


「ご存知かもしれませんが、格闘場の裏には複数の犯罪組織が絡んでいます。彼らにとって格闘場の試合は代理戦争と言っても過言ではありません。毎試合ごとに、一般人には想像もつかないほどの莫大なお金を賭けているらしいです」


 レイモンが顔を上げて、俺を見つめる。


「ある選手が10連勝すれば、博打の邪魔だと認定されて彼らに狙われます。それが『10連勝のジンクス』の真実です」


「で、お前は俺を倒すことで助けようとしたのか」


「……はい」


 レイモンが頷いた。


「格闘場の選手たちの間には、不穏な噂が流れています。レッドさんは……その、異端児だから脅迫が通じないだろうし、結局犯罪組織によって消されるかもしれない……という噂です」


「なるほどね」


 選手たちの間にそんな噂があったのか。


「もし僕がレッドさんに勝てば、レッドさんが狙われずにすむかもしれない……そう思いました。でもやっぱりレッドさんには勝てませんでした」


「心遣いはありがとう」


 俺は笑った。


「しかし俺は『10連勝のジンクス』の真実を知っていた。ロベルトがヒントをくれたからな」


「ご存知だったんですか? じゃ、やっぱり……」


「ああ、俺はそんな脅迫に屈するつもりはない」


「でも……それでは……」


 俺は首を横に振った。


「心配する必要はない。それより、もう一つ教えてくれないか」


「何を……ですか?」


「お前を脅迫してきた犯罪組織の巣窟はどこだ?」


「何故それを……? まさか……」


 レイモンが目を丸くした。俺は拳を握りしめた。


「試合に莫大なお金を賭けようが、代理戦争をしようが……俺は別に構わない。だが……勝ちたいなら正々堂々と勝負することだ。人々が楽しんでいるのに後ろで小癪な真似をするやつらは……許せない」


「れ、レッドさん……」


「片っ端から叩き潰してやる」


 俺は自分の体温が上がることを感じた。

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