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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第3章.ただの怒りではなく、それ以上の何かを
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第18話.正面から捻り潰してやる

 とうとう俺の10戦目の日がやってきた。


 俺はいつも通りフードを被り、手に包帯を巻いて小屋を出る支度をした。アイリンがそんな俺を見上げていた。


「行って来る」


「あう」


 アイリンの頭を撫でてやってから、俺は小屋を出た。小屋の外には爺が立っていた。


「格闘場に行くのか、レッド」


「ああ、今日が俺の10戦目の日だ」


「そうかい」


 爺は無表情だった。


「爺」


「何だ」


「俺のいない間、アイリンのことを頼む」


 爺の顔に冷笑が浮かんだ。


「まるであの子がお前の弱点であるかのような発言だな」


「さあな」


「……余計な弱点を抱えていては、いずれ窮地に陥るぞ」


 俺は答えずに足を運んだ。


---


「皆さん! これから14戦12勝2敗のレイモン様と、9戦9勝のレッド様の対決が始まります!」


 進行係が宣言すると、観客たちが熱狂的な歓声を送ってくる。


「レイモン、赤い化け物を退治してくれ!」


「早く殺し合え!」


「ここで勝てば10連勝だ! レッド!」


 俺はレイモンを眺めた。今までの相手とは違って……どこか静かな雰囲気の若い男だ。顔は無表情で、視線を地面に落としたまま俺を見ようともしない。筋肉はあるけど細い体型をしていて、何か格闘場には似合わないやつだ。


「では、この試合を存分に楽しんでください!」


 進行係が試合場から逃げ出し、俺の10戦目の戦いが始まった。


「うっ……!」


 試合が開始した直後、俺は思わず後ずさった。静かに立っていたレイモンがいきなり俺に殴りかかってきた……!


「こいつ……!」


 今までの相手は……多少の差はあれど、みんな俺の体格と肌の色を見て警戒心を抱いた。しかしこのレイモンにはそれがない。ただ無表情のまま、全力で俺を倒そうとしている。


「いいぞ、レイモン!」


「赤い野郎をぶっ殺せ!」


 しかもレイモンの動きは、しっかり鍛錬された格闘技の技そのものだ。右の拳が飛んでくると思ったら、実は左足の蹴りが飛んでくる。そういうフェイント攻撃を自由に使えるのは……相当な手練れの証拠だ。


「ちっ!」


 レイモンの華麗な技に、俺も技で対応した。瞬く間に数十を超える攻防が交差したが……俺はやつの技の壁を突破できなかった。


 まずはこいつのバランスを崩さなければならない。そう判断した俺は攻防の途中、レイモンの足を狙って蹴りを入れた。するとレイモンは一歩左へ逃げた。綺麗な回避だが……俺の予測の範囲内だ!


「はっ!」


 俺は一歩大きく前進して、レイモンの顔面に拳を放った。相手の移動経路を完全に捉えた上での一撃……これは回避できまい!


「くっ!」


 レイモンが声を漏らした。俺の一撃が当たったのだ。しかしやつは……倒れなかった。刹那の瞬間、レイモンは両腕を交差して俺の拳を受け止め、被害を最小限にとどめた。


「おおお!」


「もっとやれ! 殴れ!」


 観客たちの歓声の中で、俺は驚いた。こいつは……強い。他の選手たちに比べて速いわけでも力が強いわけでもないけど……格闘技を極めている。こんなやつがどうして2回も敗北したんだ?


 レイモンは目を見開いて俺を見つめていた。やつも俺が自分の格闘技に対応してきて驚いているんだろう。


「ふっ……」


 やっぱり楽しい。経験したことのない新たな敵との真剣勝負が……俺にはこの世の何よりも楽しい!


 俺は拳を握りしめた。俺とレイモンは、技なら交角だ。このまま技で対等に渡り合うのも楽しそうではあるけど……正面から力で捻り潰してやる!


「はっ!」


 短い気合と共に俺は全身全霊の力を集中した。するとまるで燃え上がるように体が熱くなった。俺の赤い体がそのまま火炎になった気持ちだ。そして次の瞬間には……俺はレイモンの目の前に立っていた。


「うっ!?」


 レイモンが慌てた。俺の巨体がいきなり目の前まで迫ってきたから当然のことだ。俺は急いで防御しようとするレイモン全身に無数の打撃を与えた。


「うぐっ……」


 一発一発が致命傷になり得る攻撃が、まるで台風でも吹き荒れるように無数に飛んでくる。いくら格闘技の達人だとしても……この連続攻撃を全部受け止めることはできない。もちろん……レイモンにもできない。


「ぐはっ……!」


 レイモンは一瞬でボロボロになって膝をついた。俺はやつの頭を強打する寸前で手を止めた。


「あ……」


「何だ、あれは……」


 観客たちの歓声が止まった。みんな目の前の光景に言葉を失ったのだ。俺のデビュー戦の時とまったく同じだが……その時に比べて、俺は落ち着いている。


「れ、レッド様の勝ちです!」


 進行係が慌てて叫ぶと、やっと観客たちの歓声が戻った。しかし俺は落ち着いた気持ちで拳を握りしめた。これで10連勝……つまり更なる戦いが俺を待っているからだ。

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