表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第3章.ただの怒りではなく、それ以上の何かを
18/602

第16話.俺の方こそいつも……

 格闘場での戦いは、俺にとってなかなか有益だった。お金も稼げるし、いろいろ勉強にもなる。


 俺はいろんな格闘技の技を身につけたが、それらを思う存分に使ったことはない。何しろ戦える相手が鼠の爺しかいなかったし、爺は強すぎて逆に練習相手には不向きだ。でも格闘場には俺と対等に戦えるやつらがいくらでもいる。俺としては思う存分に技を練習できるわけだ。


 しかしアイリンは俺が格闘場で殴られると悲しむ。だからあの子には試合を見せたくない。一緒に出掛けたい時はなるべく試合のない日を選ぶ。


 爺は俺がアイリンと『平和な時間』を過ごすのが気に入らない様子だ。俺の世に対する怒りが無くなることを心配しているんだろう。そのせいで爺は以前よりもアイリンに冷たく接している。困ったものだ。


 まあ……確かにアイリンのおかげで俺の怒りは少し弱まったのかもしれない。でもだからといって止まるつもりはない。俺の胸の中には……怒りとは別の何かが生じ始めたのだ。


 そう、あの夜からだ。爺から『覇王』という言葉を聞いたあの夜から……俺は自分の進むべき道が、ただの破壊や憎悪とは違うことに気付いた。


---


 そしてある夏の日のことだった。格闘場で結構苦戦した俺は、宿で一晩休んでから小屋に帰った。ボロボロの姿で帰ったらアイリンが悲しむからだ。


 俺が朝の日差しを浴びながら小屋に近づいたら、俺の足音に気付いてアイリンが出てきた。


「あう!」


 アイリンは明るい顔で俺に抱き着こうとした。しかし次の瞬間、アイリンの顔は暗くなった。


「あ、あう……」


 俺の顔にまだ傷が残っているせいだ。アイリンは涙目になって俺を見上げた。


「心配するな。これくらい大丈夫だ」


 俺が笑うと、アイリンは指で地面に『本当に大丈夫?』と書いた。


「本当に大丈夫だ。俺は頑丈だからな」


 アイリンはやっと安心した顔になり、また地面に文字を書いた。それは……『いつもありがとう、レッド』だった。


「……俺の方こそ、いつもありがとう」


 俺が何故そう答えたのか、自分自身でもよく分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ