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第156話.急な知らせ

 戦闘終了後、俺は騎兵隊を率いてカレンやシェラの部隊と合流して後処理を行った。


 カレンの部隊は敗走中の敵を追跡して、莫大な戦果を上げた。特に敵の物資を大量に鹵獲したおかげで、しばらく補給に困ることは無さそうだ。


 シェラの部隊は少数だし、後方にいたから戦果は多くない。しかしシェラにはこれが指揮官としての初めての実戦だった。成功的に作戦を遂行できただけでも上出来だろう。


「レッド!」


 後処理が大体終わった時、シェラが馬に乗って俺に近づいてきた。


「シェラ、怪我は?」


「私は大丈夫。レッドの方こそ大丈夫なの?」


「もちろん大丈夫さ」


 俺が微かに笑うと、シェラが懐からハンカチを取り出して俺の顔を拭いてくれた。


 しばらくして俺はシェラとカレンを連れてアップトン女伯爵の軍隊に向かった。彼らは味方の遺体を収拾したり、負傷者を運んだりと、まだ戦闘の後処理に専念していた。


「レッドさん!」


 馬に乗っている中年男性が俺を呼んだ。ハリス男爵だ。彼の傍にはアップトン女伯爵とグレン男爵もいる。3人とも疲れた様子だ。


 俺が近づくと、ハリス男爵が笑顔で口を開く。


「先日は大変失礼しました! まさかあれが作戦だったとは!」


「こっちこそ無礼を詫びよう」


「いやいや、その必要はありません!」


 ハリス男爵が豪快に笑う。


「レッドさんのご武勇、本当に信じられないほどでした! 古代の名将たちにも引けを取らない活躍と言えるでしょう!」


「ありがとう」


 俺は他の2人をちらっと見つめた。アップトン女伯爵は相変わらずの無表情で、グレン男爵は強張った顔をしている。


「さあ、ベルミン要塞に向かいましょう! 今夜は休んで、明日は戦勝パーティーです! 兵士たちも喜びますよ!」


「ああ」


 俺は頷いた。軍隊の士気のためにもそうした方がいいだろう。頑張って戦った兵士たちも息抜きしたいはずだ。


---


 『ベルミン要塞』は、高い石壁に囲まれている軍事拠点だ。古い外観からして、相当昔に建てられたに違いないが……それでも頑丈な要塞だ。


 しかし1万を超える兵力を収容できるほどの巨大な拠点ではない。せいぜい3千が限界だ。仕方なく要塞の隣に野営地を作った。


 野営地の構築が終わった時には、もう夜になっていた。俺は体を洗ってから食事を済ませて、シェラと一緒に天幕で横になった。


「これで一息ついたね」


 シェラが疲れた顔で呟いた。俺は手を伸ばして、彼女の頭を撫でた。


「……レッドって、私の頭を撫でるのが大好きみたいね」


「ああ、そうだ」


「まさかペットとして見ているんじゃない?」


「違う」


 俺は苦笑した。


「可愛いから撫でるのさ」


「……本当?」


「本当だ」


 俺の答えを聞いて、シェラの顔が少し赤くなる。


「……ね、レッド」


「ん?」


「私……」


 シェラは何か言おうとしたが、結局口を閉ざす。


「……怖かったのか?」


 俺が聞くと、シェラは少し間を置いてから頷く。


「うん……怖かった」


 シェラが固唾を呑む。


「私の判断、私の意志で多くの人が戦って……多くの人が死んだ。それが……怖い」


 しばらく沈黙が流れた。


「……すまない」


 俺はシェラの手を掴んだ。


「やっぱりお前を戦争に参加させるんじゃなかった」


「ううん、戦場にまでついていきたいと言ったのは、私だし……」


 シェラが身を寄せてくる。


「だからレッドを恨んだりはしないし、今更指揮はできないとも言わない。でも……この怖さには慣れる気がしないの」


「それでいいさ」


 俺はシェラを優しく抱きしめた。


「戦争に慣れる必要なんてない。そんな人間は俺1人でいいんだ」


「レッド……」


「無理だと思ったらいつでも言え。今は仕方ないけど、次の戦闘には……」


「それは駄目」


 シェラが俺を見上げる。


「戦争に参加した以上、私にも責任がある。私だけ抜けるなんて、絶対嫌だ」


「シェラ……」


「私はこれからも婚約者として、秘書として、部隊長としてレッドについていく」


「……ありがとう」


 俺は彼女の唇にキスした。


---


 次の日……ハリス男爵の言った通り、戦勝パーティーが開かれた。


 ベルミン要塞の倉庫に備蓄されていた食糧やお酒などが兵士たちに提供され、素朴だけどそれらしいパーティーになった。兵士たちは笑いながら、泣きながら、生きていることを楽しんだ。


 俺もベルミン要塞の主塔に行って、アップトン女伯爵や2人の男爵と一緒に食事した。大きなテーブルに4人で座って、メイドたちが運んでくる豪華な食べ物を楽しんだ。


「いやぁ、あの時のレッドさんの姿はまさに伝説の英雄でした!」


 ハリス男爵が声を上げた。彼はお酒のせいで頬が赤くなっている。


「単騎で大軍のど真ん中を突破するなんて……もう戦争の女神の使者ですよ!」


「ありがとう」


 俺はスープを食べながら苦笑した。この太った男爵は、もう貴族というよりただの中年のおっさんだ。まあ、別に嫌いではないけど。


 ハリス男爵とは対照的に、アップトン女伯爵とグレン男爵は沈黙の中で食事を続けた。やっぱりこの2人は、俺のことがあまり気に入らないみたいだ。


「レッドさん、このワインを味わってみてください! 17年物ですよ!」


「俺はお酒は飲まない」


「ああ、なるほど……! まさに武人の鑑ですな!」


 ハリス男爵が何か誤解した時だった。誰かが急ぎ足で部屋に入ってきた。


「カレン……?」


 それはカレンだった。彼女は緊張した顔で俺に近づき、小声で話し始める。


「急に申し訳ございません、団長。しかし報告しなければならないことが……」


「言ってみろ」


「実は……」


 カレンの顔が暗くなる。


「本拠地からの知らせですが……相当危険な状況のようです。このままでは……敵の攻撃に落城する可能性すらあると……」


 カレンは唇を噛んだ。

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