表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/602

第152話.作戦会議

 我が軍は北西への道を進んで、アップトン女伯爵領に進入した。


 自分の領地でもそうだけど、同盟の領地では尚更注意が必要だ。現地の領民たちと摩擦でも起こったら外交問題になり得る。俺は各部隊長たちに指示して、いつもより統制を強めた。


 やがて5月末……我が軍は「デイオニア」という名の巨大な川に辿り着いた。王都にまで繋がっている、この王国の象徴の1つだと言われている川だ。


 その川の隣に大規模の軍隊が陣取っている。俺の同盟、アップトン女伯爵の軍隊だ。俺は彼らと合流して、その近くに陣を構えた。


 そして翌日の朝、俺はアップトン女伯爵の本陣で作戦会議に参加した。


---


 アップトン女伯爵の本陣は木造の壁に囲まれて、臨時要塞になっていた。


「同盟の領主様だ! 扉を開けろ!」


 俺が要塞に近づくと、守備兵たちが扉を開く。俺は数名の兵士たちを率いて要塞の内部に入った。


「あれが噂の……」


「……赤い化け物だ」


 守備兵たちが騒めく。同盟締結の時もそうだったけど、他地方のやつらは『噂の赤い化け物』を初めて見たのだ。驚くのも無理ではない。


 俺は要塞中央の大きな天幕に案内された。兵士たちを外に待機させて天幕に入ると、1人の女性と2人の男性がテーブルに座っているのが見える。


 俺はその3人の姿を素早く観察した。真ん中に座っている若い女性は『銀の魔女』アップトン女伯爵だ。彼女は相変わらず鋭い目つきをしている。


 アップトン女伯爵の左側には若い男性が座っている。黒髪と平均的な身長、鼻ひげが印象的な男だ。歳は20代半ばくらいだろう。


 そしてアップトン女伯爵の右側には中年の男性が座っている。太った体型で、人の良さそうな表情をしている。まるでパン屋の店長みたいだ。


「いらっしゃいましたか」


 中年の男性が席から立って、俺に笑顔を見せる。まるでパン屋の店長がお客さんを迎えるように。


「私はハリス男爵領の統治者、『リアム・ハリス』男爵です」


 パン屋の店長が自分の正体を明かした。


「俺はレッドだ」


「お噂はかねがね聞いています。今後ともよろしくお願いします」


 ハリス男爵は笑顔のまま挨拶する。


「アップトン女伯爵様とはもうお会いしたことがあるでしょう? 彼女の傍に座っている人は……」


 ハリス男爵の視線が若い男性に向けられた。


「グレン男爵領の統治者、『デイビッド・グレン』男爵です」


 グレン男爵は何も言わず、ただ無表情で俺を見つめた。なるほど、この男があの『グレン男爵領』の統治者か。


「さあ、どうぞ座ってください」


「ああ」


 俺はハリス男爵の隣に座った。


「では会議を始めましょう」


 アップトン女伯爵が冷たい声で宣言する。


「皆さんもご存知通り……カーディア女伯爵は約1万5千の兵力をメリアノ平原に集結させつつあります」


 アップトン女伯爵は手を伸ばして、テーブル上の地図を指さす。


「敵の集結が完了するのは1週後だと推測されます。そして2週後にはこちらへの攻撃を開始するでしょう。つまり2週以内に、敵の侵攻への対策を立てなければなりません」


 彼女の説明に、男3人は頷いた。


「いい提案がありましたら、仰ってください」


 しばらく沈黙が流れた後、ハリス男爵が口を開く。


「やっぱり防御でしょうな」


 みんなの視線がハリス男爵に集まる。


「敵の兵力は約1万5千、それに対してこちらの兵力は約1万2千です。広い戦場で戦うと、勝算は低いでしょう」


 ハリス男爵は太った指で地図をなぞる。


「メリアノ平原からここを侵攻するためには、このブルカイン山脈を通過しなければなりません。つまり山脈を横切る主要道路に部隊を配置すれば……敵の進撃を食い止めることが可能でしょう」


 合理的な判断だ。見た目はパン屋の店主だが、実はちゃんとした領主のようだ。


「敵がデイオニア川を利用して侵攻する可能性は?」


 俺が聞くと、ハリス男爵は首を横に振る。


「デイオニア川は巨大ですが、所々狭くなりましてね……貿易船くらいならいざ知らず、大規模の艦隊は動きにくいです」


「そうか」


「少数の別働隊が入ってくるかもしれませんが……それくらいならこちらの艦隊で対応できるでしょう」


 デイオニア川には数隻の軍艦が浮かんでいる。アップトン女伯爵の艦隊だ。水上の対策もしっかりしているわけだ。


「防御に徹して持久戦に持ち込めば、補給線の短い我々に勝算があります。どうでしょうか、皆さん?」


 ハリス男爵が皆の顔を見渡す。


「私は賛成です」


 若いグレン男爵が口を開いた。


「ハリス男爵の言う通り……ここは防御に徹するのが得策でしょう」


 アップトン女伯爵は頷いてから、俺を見つめる。


「……其方は?」


「いい作戦だと思う。異論はない」


 俺が答えると、ハリス男爵が笑顔を見せる。


「戦争の達人であるレッドさんが同意してくださるなんて、力が湧いてきますな!」


 ハリス男爵は豪快に笑った。しかし他の2人は無表情のままだ。


 それから防御の詳細について、ハリス男爵とグレン男爵が話し合った。俺とアップトン女伯爵は何も言わず2人の話に耳を傾けた。


「……皆さん」


 しばらく後、アップトン女伯爵が口を開く。


「大きな方針は決まりました。今日はここまでにしましょう」


 3人の男性が頷いて、作戦会議は終わった。


---


 会議の後、俺は俺の本陣へと足を運んだ。


「レッド様」


 後ろから声が聞こえてきた。若い女性の声だ。振り向いたら、頭の良さそうな30代の女性が見えた。


「あんたは……」


「お久しぶりです。私はアップトン女伯爵様の副官を務めておりますトリシアです」


「ああ、久しぶりだな」


 俺はトリシアと挨拶を交わした。


 以前アップトン女伯爵と同盟を締結した時、このトリシアとエミルが同盟の詳細を決めた。結構有能な人だ。


「俺に何の用だ?」


「はい、実はアップトン女伯爵様からの伝言がありまして」


「伝言?」


「はい」


 トリシアは俺に近づき、小声で話す。


「『今夜、2人で話したいから待っているように』……とのことです」


「……分かった」


 俺は頷いた。


「じゃ、俺の天幕で待っているよ」


「はい、感謝いたします」


 トリシアが深々と頭を下げた。俺は彼女と別れて、俺の本陣に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ