第144話.海賊の本拠地
戦いが終わり、海賊に襲撃されていた漁村を助けることに成功した。
しかし俺が到着する前にもう数人か死傷者が出ていたし、燃やされた建物もある。夫の死に涙を流す妻や、家が無くなって絶望する家族がいるのだ。
「領主様……」
白髪の老人が俺に近づいて、頭を下げる。
「本当に……ありがとうございます。おかげで……我々は生き残ることができました」
「あんたがここの村長なのか?」
「はい、左様でございます。領主様」
老人は深々と頭を下げながら答える。
「夜が明けたら、俺の部下たちが来る。しばらく彼らをこの村の近くで待機させて、周りを警戒するつもりだ」
「ありがとうございます」
「あんたと村人たちは村の再建に集中してくれ。そして……」
俺は縄に縛られている海賊を指さした。
「こいつが逃げられないように、どこかに閉じ込めてくれ」
「かしこまりました」
村長が頷き、2人の村人を手招きした。彼らは海賊を連れ去った。
俺は村長の家で休むことにした。流石に半日も移動して戦うのは疲れる。ケールも休ませなければならない。
まずケールを畜舎に任せて、村長の家に入った。そして鎧と兜を外し、お湯で体を洗い、ベッドに身を任せた。俺にはちょっと小さいベッドだが……仕方ない。俺は目を閉じて眠りについた。
どれだけ寝たんだろう? 俺は外から聞こえてくる馬の足音に目が覚めた。窓から空を見上げると、もう正午になっているようだ。村人が綺麗に洗ってくれた鎧を着て、俺は外に出た。
外にはシェラ、カレン、トム、そして30人の騎兵隊が俺を待っていた。
「レッド!」
シェラが駆け付けてきた。俺は彼女の額にキスしてから、カレンとトムに指示を出した。
「カレンは騎兵隊を率いて周りの警戒に当たれ。トムは漁船の用意を」
「漁船……ですか?」
トムが目を見開く。
「ああ。村長と相談して、大きくて頑丈な船とそれを操る船員たち……そして食糧を用意せよ」
「レッド、まさか……」
シェラが心配そうな表情で俺を見上げる。
「海賊の1人を生け捕りした。そいつに海賊の本拠地まで案内させるのさ」
「流石に急ぎすぎじゃない?」
「急がないと、海賊たちが本拠地を捨てて逃げるかもしれない。やつらに時間を与えてはならないんだ」
「じゃ、私も……」
「お前はここでカレンの仕事を手伝ってくれ」
「……分かった」
シェラは俺と一緒に行けなくて残念なんだろう。しかしこの件は流石に危ない。
降伏した海賊の話によると、海賊の本拠地は南の小さな島に隠されているらしい。この漁村からだと船で丸一日かかるそうだ。俺は今から少数の兵士を率いて、その本拠地を襲撃しなければならない。
しばらくして、この村で一番大きな漁船が用意された。小さな貿易船といっても信じるほど立派な船だ。俺はトムと7人の精鋭兵士、そして海賊の捕虜と一緒に乗船した。
「カレン、シェラ、この村を頼む」
「はっ」
「うん」
2人の女性、騎兵隊たち、そして村人が見ている中で……大きな漁船は出発した。
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航海の途中、俺は船員たちと航路について相談した。一直線に海賊の本拠地を目指せば、やつらに簡単に探知されるからだ。
結局少し遠回りすることにした。危険性が増すけど、ここは船員たちの経験と勘に任せるしかない。
「トム」
「はい」
「襲撃が始まったら、俺は1人で動く。指揮はお前に任せる」
「かしこまりました」
トムが真面目な顔で答えた。
こうして見れば、トムも結構強くなった。体の弱い、小柄の少年だったのに……今は俺の副官として活躍している。
「トム、お前……体の鍛錬を続けているのか?」
「はい、少しずつですが」
トムが恥ずかしそうに笑う。
「部屋で1人でいる時……『レッドの組織』の皆さんから学んだ鍛錬法を試しています」
そういう一面は相変わらずだな。
「春が来ると忙しくなるだろうけど……その前に休暇を取るのはどうだ?」
「ありがたきお言葉ですが……自分は大丈夫です」
「そうか」
「はい」
トムは明るい顔で俺を見上げる。
「総大将のおかげで、自分にもちゃんとできることがあると分かりました。だから……なんというか、幸せです」
「いいな」
俺は頷いた。
「でもあまり無理するなよ。お前が倒れると大変だから」
「総大将の方こそ、どうかご無理なさらずにしてください」
「分かった」
俺は笑顔で答えた。
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俺たちを乗せた船は、冷たい空気の中で海の上を進み続けた。もう陸地は見えない。地平線の向こうまでずっと海だ。
船員たちの話によると、天気さえよければ目的地の島まで問題なく到着できるらしい。航海について詳しくない俺は、彼らの話に耳を傾けた。海の上で注意する事項とか、食糧の安全な保管方法などの話は、学べる点が多い。
やがて1日が経った。幸い天気がいい。これなら問題ないだろう。
「領主様」
船員の1人が俺に話しかけてきた。
「遠回りしていますが、夕べには例の島に到着できると思います」
「分かった」
俺が連れてきた7人の兵士は、みんな精鋭の戦士たちだ。しかし彼らも海戦の経験はない。海賊たちと海の上で戦うことは避けるべきだ。
だからこそ遠回りして、やつらの本拠地が隠されている島にこっそり上陸しなければならない。少し危険な賭けだが、上陸さえできれば後はこっちのものだ。
パンで食事を済まして、トムといろいろ話し合った。そうしているうちに時間が過ぎ去り、いつの間にか夕べになってしまった。
「領主様!」
船員の1人が声を上げた。前方から……小さな陸地が見え始めたのだ。
「よし」
ここまで探知されずに来れたら十分だ。俺とトム、7人の兵士たちは武器を構えて戦闘態勢に入った。
海賊の本拠地は島の北側、小さな森に隠されている。だから俺たちは南の方に上陸して、やつらを襲撃する。
「あ……!」
トムが声を上げた。島の方から何かが現れたのだ。あれは小さなボート……海賊たちのものだ。
「バレたか。急げ!」
「はっ!」
船員たちと兵士たちが協力して櫓を漕ぐ。それで船は全速力で島の海岸に接近した。
「上陸する」
船が海岸に着いた瞬間、俺はすかさず船から飛び降りた。トムと兵士たちも俺の後を追った。
「俺が先にやつらを叩く! トム、俺が囲まれたら敵の背後を突け!」
「はい!」
俺は大剣を手にして走り出し、小さな森に進入した。
「こっちにいたぞ!」
「敵だ!」
数人の海賊たちが俺を見つけて声を上げた。さっきのボートに乗っていたやつらだろう。
「うおおおお!」
俺は放たれた矢の如く突進して、一番前の海賊に大剣を振るった。やつは上半身が両断され、悲鳴も上げずに死んだ。
「あ、あの化け物だ……! 化け物が来た!」
海賊の誰かがそう叫んだ。
「早く本部に知らせろ……!」
海賊たちが逃げ出す。本来はこの森で俺たちの相手をするつもりだったけど、俺の姿を見てもう戦意を失ったのだ。
このまま海賊たちを追っていけば、やつらの本拠地に辿り着くだろう。でも案内役は1人で十分だ。俺は突進して逃走中の海賊を次々と斬り捨てた。
「た、た、助けてぇ! 助けてぇ!」
最後の1人は悪魔に追われているかのように必死に走る。俺はわざとやつを生かしたまま、その後を追い続けた。
「な、何だ!?」
「敵襲だ!」
やがて海賊の本拠地に着いた。森の中に隠されていることを除けば、一見普通の漁村みたいなところだ。木造の建物がいくつかあって、小さな湾に船が停泊している。
「敵は1人だ!」
「殺せ! 殺してしまえ!」
数十の海賊たちが一斉に動き出し、斧や剣を持って突進してくる。敵が1人しかいないから流石に勝てると思っているんだろうけど……それが致命的な判断ミスだ!
「ぐおおおお!」
四方から突進してくる海賊たちに向けて、俺は一撃を放った。まるで布を斬るような感触と共に、3人の海賊の体が腰から両断される。
「はあああっ!」
一撃を放った直後、俺は全身の力を込めてもう一撃を放った。それで2人の海賊の首が飛ぶ。
「ひいっ!?」
「っ……!」
海賊の群れから悲鳴が聞こえてくる。俺が大剣を左右に振っただけで5人が死んだからだ。
俺がもう一度攻撃をしようとした時、多数の矢が飛んできた。頑丈な鎧を着ているから、少しかするくらいは構わないけど……直撃は避けるべきだ。俺は素早く右へ移動し、そこに立っていた海賊の首筋に大剣を突き刺した。
「うぐっ!」
海賊が即死し、俺は左手でやつの頭を持ち上げた。こいつにはしばらく俺の盾になってもらう。
「この野郎……!」
海賊の体で矢を防いでいたら、その隙に2人が斧で攻撃してきた。
「はっ!」
俺は海賊の体を投げ出した。1人がそれにぶつかった時、俺の大剣はもう1人を斬り捨てた。
「総大将に加勢しろ!」
後方からトムの声が聞こえてきた。俺が敵の目を引き付けている間に、こっそり海賊の本拠地まで接近していたのだ。
「やつらを殲滅しろ!」
7人の精鋭兵士はもちろん、トムも勇敢に戦った。トムは細剣で海賊1人を見事に制圧し、兵士たちを指揮した。少し心配もしていたけど、トムはしっかり鍛錬していたようだ。
「総大将!」
トムが俺に近づいてきた。
「よくやった、トム! このまま攻撃を続ける!」
「はい!」
俺はトムと7人の兵士と合流して戦いを続けた。もう海賊たちは総崩れになり、次々と倒れていく。
「こ、降伏! 降伏します!」
中年の海賊が両手を上げて降伏を宣言した。それをきっかけに、まだ戦っていた数人の海賊も戦意を失う。たぶんあの中年の海賊が頭なんだろう。
俺はトムに命じて、降伏した海賊を捕縛させた。これで一件落着だ。
「総大将!」
トムが慌てる声で俺を呼んだ。戦いが終わったと思った瞬間……1隻の大きくて華麗な軍艦が姿を現したのだ。




