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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第2章.焦らずに、少しずつ俺のものにする
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第15話.覇王の道……か

 深夜に目が覚めた俺は、まずアイリンの寝顔を確認してから小屋を出た。


 月が明るかった。俺は拳に包帯を巻いて頑丈な木の前に立ち、力一杯殴った。重々しい音と共に木が揺れた。


「はっ!」


 牽制からの一撃、フェイントを混ぜた連続攻撃、相手の内臓を狙う急所攻撃……今まで身に付けてきた格闘技を繰り返した。こうしていると……少しずつ雑念が消えていく。


「こんな時間に何しているんだ、レッド」


 聞き慣れた声に振り向いたら、鼠の爺が月明かりを浴びながら立っていた。


「もう戻ってきたのか、爺」


「必要なものが揃ったから早期帰宅した」


 爺は布の袋を持っていた。何か作戦のための用品でも買ってきたのかな。


「で……何を焦ってこんな時間に拳を振るっているんだ、お前」


 爺がまた聞いてきた。しかし俺は答えなかった。


「まあ、お前の気持ちは分からんでもない。少し強くなったから、早く結果を出したいんだろう? でも物事には順番がある。焦りすぎると逆効果をもたらすだけだ」


「分かっている。それに……俺が焦っているのはそれだけが理由じゃない」


「じゃ、何だ?」


 俺は少し間を置いてから口を開いた。


「昼間にアイリンと南の都市を見回った。途中でトムというロベルトの組織の下っ端も合流して……平和で楽しい時間を過ごした」


「おい、まさか本当に復讐を止めたくなったんじゃないだろうな?」


 爺の反応に俺は鼻で笑った。


「もう言ったじゃないか。俺に限ってそんなことはないと。その逆だよ」


「逆?」


「ああ」


 俺は視線を落とした。


「俺がやろうとしていること、俺がやりたいことは……平和とは正反対の暴力だ。俺が進めば進むほどアイリンは悲しむだろう。その事実が頭の隅に張り付いて離れないんだ」


「へっ、『赤い化け物』がまるで人間のように悩んでいるのか」


 爺の顔が歪んだ。爺はアイリンが現れて俺に悪い影響を与えていると思っているんだろう。


「そんなことは最初から仕方ないんだよ。お前は元々そういう人間だからな」


「確かに」


 俺は素直に認めた。爺はそんな俺をじっと見つめてから……再び口を開ける。


「まあ、しかし……暴力と平和が共存できないわけではない。いや、むしろ暴力が平和を産むことすらある」


「何?」


 爺は杖で地面を軽く叩きながら話を続ける。


「今から1000年以上前、遥か東に『シンメイ』という王国があった。領土が広くて人口も多い強大国だったが……王が後継者を残さずに死んでしまい、内戦が起きて国全体がバラバラになってしまった」


 俺は爺の話に耳を傾けた。


「それで何十年も混乱が続いた。毎日毎日あちこちで軍隊がぶつかり合い、数えきれないほどの人々が死んでいった。そんな中で、一人の男が登場し『暴力を以って混乱を鎮める』と宣言した」


「暴力を以って混乱を鎮める……」


「その男は小さな地方の小領主に過ぎなかったが、戦争ではまさに無敵だった。他の領主たちを次々と撃破して、やがては自分の旗の下で王国全体を統一したんだ」


 そんなことがあったのか。何か……胸が騒ぐ。


「統一された王国は、最初は少し揉め事も起こったけど……やがて平和になった。男は本当に暴力で混乱を鎮めて平和をもたらしたのだ。そして人々は……その男のことをこう呼び始めた」


 爺が杖で地面に文字を書いた。俺はそれを口に出して読んだ。


「『覇王』……」


「そう、これが覇王の伝説だ」


 爺は俺に近づき、杖で俺の肩を軽く叩いた。


「私はこの王国を滅亡させることさえできれば、別にその後のことはどうでもいい。それからの道はお前が決めろ」


 俺が爺を見つめると、爺は視線を逸らし、小屋に向かって足を運び始める。


「修羅となり、ひたすら破壊を続けて怒りを発散してもいいし……覇王になって混乱を鎮めてもいい。どちらにしろ……焦らずに進むことを忘れるな」


 一人になった俺は月明かりの下で考えにふけった。

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