第142話.1人残さずだ
俺の答えを聞いて、ルベンは笑顔を見せた。
「今春、シルヴィアを連れてもう一度ここに来るよ」
ルベンはその言葉を残して俺の城から去った。
俺はしばらく書類仕事をしてから、執務室を出て廊下を歩き……近くの応接間に入った。そこには予想通りシェラとタリアがいた。
「その時ね、レッドが私に……」
「おお、それは素敵すぎます!」
2人の少女はソファーに座って、楽しくはしゃいでいた。そして俺が近づくと、2人は同時に笑顔を見せる。
「レッド!」
「領主様!」
「楽しそうだな、2人とも」
俺もソファーに座って会話に参加した。参加といっても、俺は主に聞くだけだ。
シェラとタリアは他愛のない話を続けた。東の城壁の上は展望がいいとか、城下町のパン屋が素晴らしいとか、最近刺繍を習っているとか……。
「ではでは、自分はこれから宴会場にて公演を始めます!」
ちょうど会話が途切れた時、タリアがそう宣言した。
「うん、公演頑張ってね」
シェラが答えると、タリアは頭を深々と下げて応接間から出る。
「私も仕事に戻らなきゃ」
シェラが席を立った。俺はそんな彼女を呼び止めた。
「シェラ」
「ん? どうしたの?」
「……大丈夫か?」
俺の質問にシェラはふっと笑う。
「何言っているの?」
シェラが笑顔で俺に近づく。
「もういいよ、そんなことは。それよりこれからの幸せを考えなきゃね」
「そうだな」
「それに……」
シェラは手を伸ばして、俺の顔を触る。
「総大将のあんたがそんな暗い顔していると、みんな元気無くすよ?」
「……そうだな」
「だから……いつものように強いレッドでいてね」
俺はシェラの腰を抱きしめて、彼女にキスした。
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午後になり……俺はカレンを連れて城下町とその周辺を見回った。
まだ雪が積もっているけど、少し暖かくなった。城下町には子供たちが集まって雪合戦をしていた。俺はカレンと一緒に子供たちを眺めながら歩いた。
「あ……」
ふと1人の子供がこちらを見て立ち止まる。噂の『赤い総大将』を直接見るのは初めてなんだろう。俺は微かな笑顔を作ったが、子供は目を見開いたまま動かない。笑顔がむしろ彼を怖がらせたのかもしれない。
「へっ」
子供の方に軽く手を振ってから、俺は道を急いだ。暗くなる前に視察を終えたい。
「……カレン」
俺はふと後ろのカレンを呼んだ。カレンは「はい」と答えて俺に一歩近づく。
「そう言えばカレンは、恋愛小説が好きだと聞いた」
「な……そ、それをどこから……」
カレンが慌てる。
「……秘書殿からですね? まったく、もう……」
カレンの顔が少し赤くなる。
「いいじゃないか。別に恥ずかしがることでもない」
「そうですね……」
カレンは頷いてから、真面目な表情に戻る。
「自分は15歳から傭兵をしてきて、恋愛に興味はありますが……経験がありません」
「そうか」
それで恋愛小説が好きなのか……。
「できれば参謀殿と、その、初めてみたいとは思っておりますが……上手く行きませんね」
よりにもよってエミル狙いなんて。恋愛経験ゼロの彼女には荷が重すぎる。シェラとタリアがそんなカレンのために何か作戦を作ったみたいだけど……正直不安でしかない。
「カレン」
「はい」
「直接攻撃はどうだろう?」
「直接攻撃……ですか?」
カレンの顔に疑問が浮かぶ。
「ああ、どうやら……エミルはカレンの好意を少し誤解しているようだ。だからカレンの気持ちをちゃんと言葉で伝えるのはどうかな、と思うんだけど」
「……なるほど、直接伝えるわけですね」
「直接がちょっと難しいなら手紙を書くのもいいだろう」
「手紙……確かにいい考えだと思います」
カレンが頷く。しかし……果たしてこれが正しい助言だったのかな。正直俺にも分からない。
私的な話はそこで終わり、俺とカレンは仕事に集中した。警備隊の勤務姿勢、軍隊の規律、城の防備など……軍事的な面において、カレンの識見は大いに助かる。
やがて空が暗くなり、城への帰路についた時だった。城の方から小柄な少年がこちらに駆けつけてきた。副官のトムだ。
「そ、総大将! 大変です!」
トムは慌てる顔で声を上げる。
「どうした、トム」
「東南方の漁村が、海賊の手によって襲撃を受けたそうです!」
海賊……?
「……カレン、騎兵隊に招集をかけろ」
「はっ!」
カレンが走り出す。
「トム、俺の装備を持ってこい」
「はい!」
トムが走り出す。
俺も急いで城に向かいながら、状況について考えてみた。
「海賊か……」
確かに今は乱世だ。あちこちで盗賊が現れてもおかしくない。しかしいきなり海賊から攻撃を受けることになるとは。
しばらくして城についたら、エミルが城門の近くで立っていた。俺はまず彼から情報を聞いた。
「数十名規模の海賊のようです」
「やつらの巣窟は? 特定できるか?」
「残念ながら、まだ不明です。この王国の人間であることは確かですが……」
他の地方から来たのかな。
「情報部員を総動員して、やつらの情報を集めろ」
「はい」
「俺はカレンとトムを連れて、直接現場に向かう」
「分かりました」
今から馬を走れば、明日の午後には例の漁村に到着できる。海賊を追跡するためには急がなければならない。
トムと3人の兵士たちが俺の装備を持ってきた。俺は即座で鎧と兜を装備した。
「レッド!」
ふと声が聞こえてきた。振り向いたら……鎧を着ているシェラの姿が見える。
「シェラ」
「私も一緒に行くわよ!」
シェラは真剣な眼差しを送ってくる。
「……分かった。ただし、俺に指示に従え」
「うん!」
そうしているうちに、騎兵隊が集まってきた。俺は精鋭の30名だけを連れていくことにした。少数の方が移動が速い。
「さあ、行くぞ」
俺が命令すると、シェラとカレン、そしてトムと30名の騎兵が一斉に「はっ!」答えて……進軍が始まる。
純血軍馬のケールは急な出陣に喜んでいた。その気持ちは理解できるが、俺は喜んでばかりではいられなかった。何しろ俺の領地を襲撃したやつらを……1人残さず地獄に送ってやらないと気が済まない。




