第133話.今年もこれで終わりか
軍隊の再編成と領地の経営に熱中していたら、いつの間にか1月1日になっていた。新年だ。人々は乱世の中で無事に新年を迎えたことに喜んだ。
1月1日は俺の誕生日でもある。結局城で『新年パーティー兼領主の誕生日パーティー』が開かれることになった。
「レッド、早くパーティー場に行こう!」
「ああ……」
白いドレスを着ているシェラに促されて、俺は彼女と一緒に領主のベッド室から出た。そして1階の大宴会場に向かった。
大宴会場は軍隊の訓練場を連想させるほど広い部屋だ。床には高級の絨毯が敷かれていて、壁にはいろんな芸術品が飾られている。そしてもう100を超える人々がお酒を飲んだり食べ物を食べたりして、パーティーを楽しんでいた。
「領主様!」
「領主様がお越しになられた!」
人々が挨拶しようとしたが、俺は手を上げて阻止した。
「挨拶はいい。そのままパーティーを楽しんでくれ」
人々は「はっ!」と答えて、楽団も演奏を再開する。パーティーは続行だ。
「領主様、この度はお誕生日を迎えられて、誠におめでとうございます」
「ありがとう」
今度は領地の有力者たちが次々と現れ、俺にお祝いの言葉を伝える。
「隣のお方が領主様のフィアンセでございますか? 本当にお美しい姿、感嘆いたしました!」
「あ、ありがとうございます!」
シェラが赤面になって返事する。
それから同じ場面が繰り返された。有力者たちが俺とシェラに挨拶すると、俺は「ありがとう」、シェラは「ありがとうございます」と答えて、しばらく話し合う。ずっとその繰り返しだ。正直ちょっと面倒くさいが、これも領主としての仕事だ。
20分くらい後……やっと挨拶から解放され、俺とシェラはケーキを食べ始めた。生クリームがとても美味しくて……自然とある少女の笑顔が思い浮かぶ。
「れ、レッド!」
いきなりシェラが声を上げる。
「何だ?」
「あそこ!」
シェラがパーティー場の向こうを指さす。そこには……長身の女性が立っている。
「カレン……?」
俺は驚いた。カレンが青いドレスを着てパーティーに参加していたのだ。
「カレンがドレスを……」
カレンの青いドレスには白いフリルが付いていて、割と可愛い感じだ。しかし……彼女の筋肉が素晴らしすぎて、違和感しかしない。
「団長」
カレンがこっちの視線に気付いて、近づいてきた。
「お誕生日、おめでとうございます」
「あ、ああ……」
俺は冷静を保とうと頑張った。シェラがそんな俺に代わって口を開く。
「カレンさん、そのドレスは……」
「あ、これですか?」
カレンが自分のスカートの端をつまむ。まるで少女みたいな仕草だ。
「せっかくだから私もドレスを着てみたくて」
「そうですか……可愛いと思います!」
シェラが笑顔を見せる。
シェラの言葉はお世辞ではない。最初こそ驚いたけど、カレンのことを本当に可愛いと思うようになったのだ。
「そ、そうですか? ありがとうございます」
カレンの頬が少し赤くなる。
俺とシェラはしばらくカレンと話した。しかしカレンはどこかそわそわしている様子だ。
「その、団長」
ふとカレンが俺を見つめる。
「何だ」
「参謀殿はパーティーに参加しないんですか?」
「エミル……?」
俺は眉をひそめた。
「エミルなら……仕事をしているはずだ。あいつはパーティーが大嫌いだからな」
「そうですか」
カレンが残念そうな顔になる。
「カレン、どうしてエミルを……?」
「大した理由はありません。ただ……せっかくだから彼にドレス姿を見せたくて」
「は……?」
俺とシェラは硬直した。
「か、カレンさん……」
シェラが驚愕した表情で言葉を発する。
「もしかして、カレンさんは……」
「そうですね……」
カレンは少し照れくさい顔で頷く。
「私は参謀殿に興味があります」
その答えが俺とシェラの心臓を強打する。
「え、エミルのことを……?」
「はい、彼は可愛いですから」
「エミルが可愛い……?」
俺はもう限界だ。『赤い化け物』と呼ばれ、数百数千の敵と戦ってきた俺だが……今はここから逃げ出したい。
「少しお喋りが過ぎましたね」
カレンが照れ笑いする。
「団長、秘書殿、私はお先に失礼いたします」
「あ、ああ……」
カレンはパーティーから出た。エミルがいないからなんだろうか。
「レッド、今のカレンさんの言葉は……」
「ああ、聞き間違いではないようだ」
俺とシェラは互いを見つめて、これが現実だということを確認した。
「わ、私は応援するよ!」
「ああ……」
俺は頷いた。
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1時間くらい後、俺はシェラと一緒にパーティー場から抜け出した。シェラが少し疲れたから、彼女をベッド室で休ませるためだ。
シェラにキスしてから、俺はベッド室を出て会議室に向かった。予想通りエミルがそこで仕事をしていた。
「総大将」
エミルが無表情で俺を見つめる。
「どうしましたか? パーティーはまだ終わっていないはずですが」
「まあ、途中で抜け出した」
「総大将らしいですね」
エミルが微かに笑う。
「しかしパーティーに参加するのも、領主としての仕事です」
「分かっているさ」
俺は頷いてから、エミルを凝視した。
「な、エミル」
「はい?」
「……頑張れよ」
エミルが疑問の表情を浮かべたが、俺はそれ以上何も言わなかった。




