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第132話.2人の魔女か

 12月末……ついに目的地が見え始めた。


 俺は早朝からケールに乗って軍隊の先頭を歩いていた。1500の兵士たちが俺の後ろを追った。冷たい風が吹いてくる中、俺たちは無言でひたすら進んだ。


 ふと雲の隙間から日差しが降り注いで、俺は頭を上げて地平線を見つめた。


「やっと着いたか」


 広い城下町と、その真ん中に位置する頑丈な城の姿が視野に入ってきた。ケント伯爵領の本城だ。


「おお……!」


「城だ……」


 兵士たちが騒めき始める。長い行軍もやっと終わるのだ。


 もう一息元気出して進み、城下町に踏み入ろうとした時……城の方から数十名の兵士がこちらに近づいてきた。彼らを率いているのは……トムだ。


「総大将!」


 トムは明るい顔で俺に近寄って、一緒に歩き始める。


「お久しぶりです!」


「トム、元気にしていたか?」


「はい!」


 トムと彼の率いる部隊は、俺たちを城内まで案内してくれた。宿舎ももう用意されているようだ。俺は各部隊長に指示して、行軍に疲れた兵士たちを休ませた。


「総大将の部屋も用意しております。ゆっくりお休みに……」


「いや、俺はいい。それよりエミルは?」


「参謀殿は会議室にいます」


「そうか」


 俺はケールの手綱をトムに任せて、城に入った。


 城の内部は綺麗に掃除されていた。俺が踏み入ると、左右に並んでいた兵士たちとメイドたちが一斉に片膝をついて頭を下げる。俺は彼らの真ん中を通って奥の階段まで行き、3階に上がった。


 3階は静かだ。所々に少数の兵士たちが立っているだけだ。廊下を歩いて奥の広い部屋に入ったら、痩せた男が机に座って仕事をしているのが見える。


「総大将」


 痩せた男……つまりエミルが席から立ち上がる。


「お迎えに行かなかったこと、申し訳ございません」


「いいんだ」


 俺は笑った。


「で、領地の状態はどうだ?」


「特に異常はありません」


 俺は領主の席に座って、エミルから報告を聞いた。ケント伯爵領は順調に安定しつつあるようだ。


「領地の方は問題ありませんが、周りの貴族たちの動きが不穏です」


「情報部が何か掴んだのか?」


「はい」


 エミルが無表情で頷く。


「戦争に備えて物資を備蓄するのは普通のことですが、その量が昨年より倍近く多い。これは遠征のための準備である可能性が高いです」


「遠征か」


「しかも貴族たちの動きには統一性があります。同じ時期に一斉に動き出したのは偶然ではありません。つまり……」


「つまり誰かが裏で糸を引いていると?」


「はい」


 エミルが俺の席に近づいて、机の上の地図を指さす。


「我々の北東に位置する『クレイン地方』……そこの盟主格の『カーディア女伯爵』が黒幕だと推測されます」


「根拠は?」


「貴族たちを率いて連合を組むためには、強い指導力と資金力が必要です。カーディア女伯爵は『金の魔女』と呼ばれるほど多数の金山の所有者であり、前回の大戦でも活躍した女傑です」


「『金の魔女』か」


 資金力はありそうだな。


「確か彼女にも親書を送っただろう? 反応はどうだった?」


「全部無視されました」


「なるほど」


 俺は笑った。


「じゃ、カーディア女伯爵は我々を潰す気なんだな」


「そのことですが……遠征の目標は我々ではないかもしれません」


「何?」


 エミルが地図で『アップトン伯爵領』を指さす。


「我々に友好を示したアップトン女伯爵は……巨大な銀山の持ち主であり、『銀の魔女』と呼ばれてきました。そして異名通り『金の魔女』とは宿敵みたいな関係です」


「宿敵?」


「はい、乱世が始まる以前から領土紛争があったようです」


 昔から怨恨があるのか。


「つまりカーディア女伯爵の目標は……我々ではなくアップトン女伯爵だと?」


「その可能性が高いでしょう」


 エミルが頷く。


「そう考えると、アップトン女伯爵が我々に友好を示したのも納得がいきます。カーディア女伯爵との決戦の時、『赤い化け物』の力を借りたいんでしょう」


 俺の手を借りて自分の宿敵を打ち倒すつもりか。


「貴族たちの紛争に利用されるのは気にいらないな」


「それはそうですが、どの道カーディア女伯爵との戦いは避けられません。彼女は貴族の盟主として、『貴族を打ち破った平民の成り上がり』を許さないはずです」


「そうだな」


 地理的に見ても、王都に進むためには『クレイン地方』を制圧しなければならない。


「我々との同盟の件について、アップトン女伯爵からの返事は?」


「肯定的な返事でした。ただし……」


 エミルが俺の顔を凝視する。


「同盟の詳細を決めるために、総大将と直接会談したいとのことです」


「そうか」


 俺は頷いた。


「分かった。彼女に連絡して、会談の場所と日時を調整しろ」


「はい」


 エミルは席に座って、外交文書の作成に取りかかろうとした。しかしその時、会議室の扉が開いて誰かが入ってきた。


「団長」


 それはカレンだった。筋肉の女戦士は俺の席に近づいて声を上げる。


「宿舎の割り当てが完了しました。これから休憩に入ります」


「ご苦労。カレン、お前も今日はもう休んでくれ」


「かしこまりました」


 カレンは直立不動で答えてから、エミルに向かって挨拶する


「お久しぶりです、参謀殿」


「……久しぶりです、カレンさん」


 エミルが眉をひそめて挨拶に返事すると、カレンはニヤリと笑って会議室から出る。


「カレンとはうまくいっていないようだな」


 俺は笑いながらそう言った。


「うまくいくも何も、あの人とは関わりたくありません」


「へっ」


 強敵が戻ってきて、エミルは不機嫌みたいだ。

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