第123話.城を攻め落とす
ケント伯爵の本城を包囲してから1週後……ついに攻城兵器の建造が完了した。
俺は本隊の前に置かれている攻城兵器に近づいた。すると傍からカレンが口を開いた。
「これが最新式の『トレビュシェット』です」
「大きいな」
俺はトレビュシェットを見上げながら感嘆した。
それは木造の建造物で、成人男性の身長の3倍を超える大きさだった。まるで巨大な滑車みたいな形をしていて、前方にはおもりが、後方には大きなてこがついている。そして大きなてこに革の紐がぶら下がっていて、紐の端に革袋がついている。
「あの革袋に石を乗せて、てこの原理で飛ばすわけです」
「なるほど」
「敵弓兵の有効射程の外から攻撃できますし、命中率も高いです。多数のトレビュシェットで城門や城壁の弱いところを集中攻撃すれば、攻城戦は大幅有利になります」
「素晴らしい」
俺は頷いた。
こういう攻城兵器を建造・運用するためには、ある程度の機械の知識が必要だ。幸いカレンの率いる『錆びない剣の傭兵団』の中にはそういう知識を持っている人も数人いて、難なく攻城兵器の力を借りることができる。
「今回の場合、まず南の門を破壊した方がいいと思います」
「そうだな」
ケント伯爵の本城は、四方に門があるが……その中でも正門にあたる『南の門』が1番大きい。あれを破壊して一気に城内に侵入した方がいいだろう。
「城門の破壊して、堀を渡るための丸太橋を設置します。その後、我々『錆びない剣の傭兵団』が突撃を仕掛けます。それでこの城は落ちるでしょう」
カレンが自信のある口調で言った。
野戦で勝敗を決めるのは、大体騎兵だ。騎兵の突撃は野戦の花と言える。しかし攻城戦では、騎兵はあまり役に立たない。城壁を登られる歩兵や、遠距離攻撃が可能な弓兵の方が大事だ。
「陽動を兼ねて、他の門も同時に攻めた方が良さそうだな」
「同意します」
俺の意見にカレンが頷く。
本命は南の門だけど、もう1ヶ所くらい攻撃を仕掛けて、敵守備兵たちを分散させたい。いくら経験豊かな『錆びない剣の傭兵団』だとしても、敵の集中攻撃を受けたらそう簡単には突破できないだろう。
「西の方にもトレビュシェットを配置して、城壁上の敵を制圧しながら攻城梯子による侵入を試みよう」
「分かりました」
トレビュシェットが威力を発揮するためには、敵弓兵の有効射程の外から攻撃する必要がある。東と北の方は空間が狭くて、それが難しい。南と西の方を同時攻撃するのが合理的だ。
俺はカレンと一緒にケント伯爵の本城をもう一度観察して、攻城戦の詳細を決めた。
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結局俺は攻城戦の総指揮を取り、直接戦闘や現場での指揮はカレンに任せることにした。
正直に言えば、俺が直接戦闘を担当したいところだが……今回ばかりは駄目だ。ケント伯爵の息の根を止めるために、俺は城の外で待機していなければならない。
攻城戦が我が軍の優勢に傾くと……ケント伯爵は包囲網の弱いところを狙って、一点突破を狙うはずだ。自慢の名馬『ゲーラス』の力で追跡を振り切って、再起を図ろうとするだろう。そしてそれを阻止できるのは……俺と『ケール』しかいない。
だから俺は戦闘に参加できない。いつでもケント伯爵を追跡できるように、『ケール』に乗って敵の動きを注視する必要がある。
夕焼けの下で、俺は敵の城を遠くから眺めた。いよいよ決戦の時……明日、あの城の主が変わる。
「ボス」
いきなり聞こえてきた声に振り向くと、『レッドの組織』の5人が俺の前に集まる。
「どうした、お前たち?」
「ボスにお願い申し上げます」
5人を代表して、ジョージが口を開く。
「明日の攻城戦、どうか先鋒は自分たちにお任せください!」
ジョージの声には強い意思が込められている。
「……攻城戦の先鋒って、極めて危険な役割だ」
「危険を恐れる自分たちではありません!」
俺は少し驚いた。5人から感じられる気迫は、今までとは段違いだ。
「ここで身を引いたら、レイモンさんに合わせる顔がありません。堂々と戦って勝利し……胸を張ってレイモンさんの見舞いに行きたいです!」
確かにレイモンも、俺たちの堂々たる凱旋を待っているだろう。
「……分かった。完璧な勝利を取って、レイモンの見舞いに行こう」
俺がそう言うと、5人は口を揃えて「はっ!」と答えた。
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翌日の朝、俺は黒い軍馬『ケール』に乗って、我が軍の前に進み……ケント伯爵の本城を見つめた。
「攻城兵器部隊、攻撃開始」
俺が命令すると、4台のトレビュシェットが一斉に巨石を放つ。巨石は勢いよく空を飛び、雷となって敵の城にぶつかる。轟音が轟いた直後、敵軍の悲鳴が聞こえてくる。
トレビュシェットの第1目標は、城壁上の敵弓兵たちだ。味方が突撃を仕掛ける前に、少しでも敵弓兵の数を減らしておくべきだ。
トレビュシェットは大体1分に4、5回攻撃できる。敵弓兵たちは絶えずに飛んでくる巨石に被害を受け、城壁の後ろの隠れてしまう。
「城門を狙え」
敵弓兵たちが隠れると、トレビュシェットの攻撃の矛先が敵城の城門に向かう。大きな城門に多数の巨石が衝突し、被害を与える。
「頑丈だな」
結構な被害を受けたにも関わらず、城門はまだ開かれない。
「総大将、敵の兵器が……!」
隣からトムが声を上げた。敵城の城壁上に大きな兵器が姿を現したのだ。
「バリスタか」
巨大なクロスボウの形をしている兵器……それは巨大な矢を発射するための『バリスタ』だ。古代から攻城戦には欠かせない兵器だ。
敵軍のバリスタ4台が、我が軍のトレビュシェットを狙って巨大な矢を放つ。こっちの兵器を破壊するつもりだ。しかしこちらのトレビュシェットの方が破壊力の面で有利だ。
「バリスタを狙え」
兵器による反撃は想定内だ。両軍の兵器は互いを攻撃し、両方とも被害を受ける。そしてこちらのトレビュシェットが1台破壊された時……敵のバリスタも沈黙する。
「もう少しだ。城門を破壊しろ……!」
巨石が飛び、もう一度城門を攻撃する。頑丈な城門は傷だらけになり……やがて衝撃に耐えられずに開かれてしまう。
「頃合いだ。カレンとジョージに合図を送れ」
「はっ!」
トムが赤い旗を揚げる。突撃の合図だ。それで待機していた数百の兵士たちが、勝鬨を上げながら突撃を開始する。




