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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第14章.俺がお前を許さない理由は……
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第122話.こいつは……気に入った

 攻城戦で有効な戦略の1つは『包囲したまま、敵の食糧が尽きるまで待つ』ことだ。人間は食べないと戦えないし、城の倉庫に備蓄している食糧にも限界がある。外部からの補給が途絶えると、城の守備兵たちは飢え死にするしかない。


 現在、俺はケント伯爵の本城を完全に包囲している。このままずっと待っていれば、それだけで勝てるのだ。無理して攻撃する必要もない。


 だが……この方法は時間が掛かり過ぎる。城によって違うけど、備蓄している食糧が尽きるまで数年以上かかる場合もあるのだ。


 流石にそれは困る。俺は一刻も早く王都に向かって進まなければならない。悠長に敵の食糧が尽きるまで待っているわけにはいかない。


 結局直接攻撃して城を落とすしかない。でもその選択にも問題がある。ケント伯爵をまた取り逃がすかもしれないという点だ。


 城を完全に包囲するため、我が軍は薄く広く陣取っている。百戦錬磨の武を持っているケント伯爵なら、一点突破して包囲網から逃げることも可能だろう。しかもケント伯爵の黒い軍馬が速すぎて、一度逃したら追跡も難しい。


 ここでケント伯爵を取り逃がしたら、後顧の憂いとなるはずだ。確実に仕留める必要がある。何かいい方法はないのかな……と、俺は考え込んだ。


---


 幸いなことに、現地の民たちは俺の軍隊に協力的だ。食糧調達にも治安維持にも問題がない。ケント伯爵が『焦土作戦』を使い、自分の領地の村を自分の手で焼いたおかげで……民心はこちらに傾いたのだ。


 もちろん俺が使った『水没作戦』も、本来なら現地の民に被害を及ぼしかねない。しかし俺が水没させた地域の村は、既にケント伯爵によって焼かれてしまい、誰も住んでいなかった。つまりケント伯爵の焦土作戦は、結果的に俺の利益になったわけだ。


 そして城を包囲してから5日目……エミルの情報部が、現地の民から興味深い話を拾ってきた。


「馬の牧場?」


「はい」


 指揮官用の天幕で、エミルが説明を始める。


「ここから北の山を越えて、半日くらい進めば馬の牧場があるそうです。南方民族の男が運営しているところで……この地方では少し有名みたいです」


「もしかして……」


「はい。ケント伯爵の黒い軍馬も、あそこから購入した馬だそうです」


 俺の胸が高まった。


「つまり、あそこに行けば……あの黒い軍馬と同格の名馬が手に入るかもしれないか」


「可能性はあると思います」


 エミルが冷静な口調で言った。


「兵士たちを派遣しますか?」


「いや、俺が直接行ってみる」


 本当にあれほどの名馬がいるかどうか……この目で確かめたい。


---


 翌日の朝、俺は『レッドの組織』の5人と一緒に馬を走らせ、北の山に入った。


 山道は狭かったが……馬が通れないほどではなかった。注意しながら山を登ると、少し肌寒い空気が気持ちよかった。


 数時間かかって山を越えたら、そこには牧草地が広がっていた。このままずっと進めば牧場に着くはずだ。少し休憩して、俺たちはまた馬を走らせた。


 周りが暗くなり始めた頃、牧柵に囲まれた広い空間が見えてきた。あれが例の牧場なんだろう。俺たちはゆっくり進んで牧場の入り口に近づいた。


「あなたたちは誰ですか?」


 牧場に近づくと、どこからか2人の若い男が現れて俺に質問する。


「俺は南の都市守備軍司令官、レッドだ」


 自己紹介してから、俺は『ここで馬を買いたい』と用件を説明した。若い男たちは俺の顔を注視する。


「……少々お待ちください。親父を呼んできます」


 若い男たちはそう言い残して牧場に入った。しばらく待っていたら、若い男たちが大柄の老人と一緒に出てきた。


 大柄の老人は鋭い目つきで俺を見つめる。俺は馬から降りて、老人に手を伸ばした。


「南の都市守備軍司令官、レッドだ」


「あんたが噂の『赤い化け物』か。私はこの牧場の主、『コルバス』だ」


 俺はコルバスと握手を交わした。


「馬を買いたいって?」


「ああ、軍馬が必要だ」


「軍馬ならここじゃなくても買えるはずだ。司令官本人がわざわざこんなところまで来たのは、別の理由があるんだろう?」


 コルバスの質問に俺は頷いた。


「話を聞いたのさ。ケント伯爵の黒い軍馬も、ここで育てた馬だと。できれば……あいつと同格の名馬を買いたい」


「『ゲーラス』と同格の……?」


「お金は十分に支払う。だから……」


「お金の問題ではない」


 コルバスが俺を睨みつける。


「ゲーラスは私が育てた軍馬の中でも最高傑作だ。私がゲーラスをケント伯爵に譲ったのは、彼があいつに相応しい武を持っているからだった。でも今はそのことを後悔している」


 コルバスの顔が暗くなる。


「ケント伯爵は百戦錬磨の猛将だが、同時に最悪の領主だ。彼の気まぐれで殺された人間は数えきれない」


 その話なら俺も聞いたことがある。


「ある日……ケント伯爵の暴政に憤慨した人々が集まって、彼を暗殺しようとした。でもケント伯爵は……危機の瞬間、ゲーラスのおかげで生き延びた」


 コルバスが苦笑する。


「私の最高傑作が、最悪の領主の命を助けて……多くの人間を地獄に落としたんだ。軍馬を扱っている以上、ある程度仕方ないとはいえ……そんなことはもうごめんなんだよ」


 コルバスと俺の視線がぶつかる。


「あんたの噂は聞いた。『赤い化け物は意外といい領主』だとな。でも……私の目にはあんたも暴力の好きな人間に見える。いつ暴君に変わるか知れたもんじゃない」


「暴力が好きなのは否定しないさ。でも……」


 俺はコルバスに一歩近づいた。


「もし俺の行動や統治が気に入らなかったら、いつでも来てくれ。馬をあんたに返す」


「そんな約束を信じろと?」


「ああ」


 俺とコルバスはしばらく互いを見つめた。


「……確かに変わった領主だな」


 ため息と同時にそう言ってから、コルバスは後ろの若い男たちを振り向く。


「おい、『ケール』を連れてこい」


「お、親父」


 若い男たちが慌てる。


「ケールは……」


「早く連れてこい」


 コルバスが睨みつけると、若い男たちが素早く牧場に入る。そして少し後、黒い馬を連れて来る。


「こいつは……」


 俺は目を見開いた。素人の俺が見ても……規格外の名馬だ。ケント伯爵の『ゲーラス』よりも体格が大きく、全身が素晴らしい筋肉だ。


「こいつの名前は『ケール』だ」


 コルバスがケールの頭を撫でる。


「私が南方大陸から連れてきた純血軍馬の最後の末裔だ。ゲーラスに対抗できるのは、こいつしかいない」


「素晴らしい」


 コルバスはケールの手綱を俺に渡す。


「乗ってみろ」


「いいのか?」


「並大抵の騎士なら、ケールの方から拒否するはずだが……あんたなら大丈夫だろう」


 ケールの赤い瞳が俺を見つめる。まるで俺の力量を測っているみたいだ。俺はケールに近づいて、その背中に乗った。


 手綱を操ると、ケールが歩き出す。それで俺はもう一度驚いた。俺の体格と体重が……ケールには何の負担にもならないようだ。一般的な軍馬の何倍の力を持っている。


「走れ!」


 俺の命令に従って、ケールが矢の如く走り出して……瞬く間に牧場の周りを一巡する。とんでもない速さだ。しかも結構な距離を走ったのに、少しも疲れていない。


「……凄い」


 俺は素直に感嘆して、ケールから降りた。そして手綱をコルバスに返そうとしたが、コルバスは首を横に振る。


「今日からケールはあんたの馬だ」


「……ありがとう」


 俺はジョージに指示して、大量の金貨が入った革袋をコルバスの息子に渡させた。


 コルバスは鋭い眼差しで俺とケールと交互に見つめてから、口を開く。


「最後に……『赤い総大将』に一言言いたい」


「何だ」


「私に馬を返す必要なんてない。そんな生半可な覚悟でケールに乗るな。どっちかが死ぬまで、一緒に戦場を走れ」


「分かった。約束する」


 俺はケールの手綱を強く握って、コルバスに約束した。

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