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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第14章.俺がお前を許さない理由は……
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第120話.イノシシ狩りだ

 正午になり、予測通りケント伯爵の軍隊が姿を現した。その数は約4000を超えている。


「やっぱり騎兵を前に出すか……」


 敵軍の先頭には完全武装した重騎兵が並んでいた。あれが噂の『シャルシア傭兵団』だろう。体格、隊列、構え……なるほど、優秀な騎兵たちだ。あいつらと正面から戦うと、こちらも大被害を受けるだろう。


 ケント伯爵は騎兵中心の『シャルシア傭兵団』を前衛にして、一気に突撃を仕掛けるつもりだ。まあ、他の兵士たちは士気が低すぎるだろうし……選択の余地などないか。


 それに対して我が軍は、前方に牧柵を建てておいた。騎兵を阻止するためのものだが……はっきり言って貧相な牧柵だ。敵騎兵たちは今頃嘲笑っているだろう。だが……この貧相な牧柵は、敵を油断させて本当の罠を隠すための偽装策に過ぎない。


「さあ、来い」


 敵軍が徐々に距離を詰めてくる。ある程度近づいたら、敵騎兵隊が一斉に走り出すはずだ。この戦場は完全なる平原だし、騎兵の突撃や迂回機動が有効だ。陣形からして、我が軍の正面に突撃を仕掛けると同時に、別働隊で側背面を貫く算段だろう。確かに決まれば勝てる戦術だ。しかし残念だけど、その戦術が決まることはない。


「トムに合図を送れ」


 俺が命令すると、傍に立っていた兵士たちが青い旗を揚げる。それで湖の堤防の近くで身を隠していたトムが、数人の兵士と共に姿を見せる。


「堤防を破壊せよ!」


 トムが大声で叫んだ。すると兵士たちがつるはしを持って堤防の近くに立ち、精一杯叩きつける。前もって細工しておいたおかげで、堤防はあっけなく崩れて……大量の水が流れてくる。


「な、何だ……!?」


 敵軍が慌て始める。水位が上がっていた湖から一気に水が流れてきて、瞬く間に周りを水没させてしまう。


「よし、完璧だ」


 俺は笑った。水没と言っても、せいぜい膝が濡れるくらいだけど……これで十分だ!


「弓兵隊、前へ!」


 俺の命令に、弓兵隊が前に出て射撃を開始する。矢の雨が降り始め、敵軍は更なる混乱に陥る。


「どうなっているんだ!?」


「と、突撃しろ……!」


 矢の雨で被害を受けた敵騎兵たちが、突発的に動き始める。目の前の弓兵たちに反撃したいんだろう。だが……そうはならない。


「射撃を続けろ。やつらを近づけさせるな」


 そもそもこの周りの平原は、暴雨のせいで若干泥濘になっていた。その上に大量の水が流れて……今は完全な泥濘になっている。


 敵騎兵たちは身動きの取れない状態に陥り、そのまま我が軍の射撃を受け続ける。重騎兵の最大の力は『突撃して大きい重量を敵にぶつける』ことだが……戦場が泥濘になった今は、その重量がかえって仇になる。動けば動くほど軍馬の足は泥に埋まって、突撃どころか歩くことさえままならなくなるのだ。そして動きの止まった重騎兵は……ただの大きな的に過ぎない。いくら馬鎧を装着していても、雨のように降り注ぐ矢を全部防ぐことはできない。


「へっ」


 一方的な射撃による一方的な殺戮。大金を支払って雇った騎兵隊がまるで無意味だ。


「さあ……どうする、ケント伯爵?」


 ケント伯爵には2つの選択肢がある。1つは騎兵を後退させて、歩兵と弓兵だけで対抗すること……そしてもう1つはこのまま意地にでも突撃を続けることだ。しかし……どちらの選択も、その先に待っているのは敗北だけだ。


 そもそもケント伯爵の軍隊って、騎兵以外は士気が地に堕ちている。今更歩兵と弓兵だけで対抗しても俺には勝てない。その事実はケント伯爵もよく知っているはずだ。もちろんだからといってこのまま突撃を続けたら……。


「何しているんだ!? 怯むな! 突撃しろ!」


 敵騎兵隊は突撃を続けて、深刻な被害を受けながらも我が軍の目前まで迫ってきた。これでは本当にイノシシだな。


「カレンに合図を送れ」


「はっ!」


 今度は俺の傍の兵士たちが赤い旗を掲げる。するとカレンの部隊が……『錆びない剣の傭兵団』が出撃する。


「敵を蹴散らせ!」


 カレンの率いる500の傭兵団は、乱戦に慣れている歩兵たちだ。たとえ戦場が泥濘だとしても、彼らは素早く動ける。


「はあっ!」


 カレンは真っ先に突撃して剣を振るい、敵騎兵の軍馬を倒す。敵騎兵が地面に落ちて泥まみれになると、カレンの剣が容赦なく貫く。


「げ、下馬して対抗しろ!」


 一部の敵騎兵たちが馬から降りて戦おうとする。しかしそれは無理な話だ。もちろん訓練を受けた重騎兵なら……たとえ馬から降りても、重い鎧を着たまま走れるし、戦える。だが泥濘で戦って鎧が泥まみれになったら、いくら体格のいい騎兵でも身動きが取れなくなる。こういう場合は軽装備の方が有利なのだ。


「でいやっ!」


 カレンが次々と敵騎兵たちの命を奪い、『錆びない剣の傭兵団』も彼女に続いて敵を薙ぎ払う。これはもう一方的な狩りだ。


「に、逃げろ……逃げろ!」


「後退! 後退!」


 もう壊滅状態の敵騎兵隊が、突撃を諦めて逃げようとする。しかし泥濘のせいで敗走することもできなく、ただ殺され続ける。こちらの被害はほぼゼロだ。


 時間が経つに連れて、戦場を覆っていた水もどこかに流れてしまう。まだ地面は泥まみれだけど、歩兵なら何とか歩ける。


「頃合いだな……全軍、前進」


 敵騎兵隊、つまり『シャルシア傭兵団』はもう全滅寸前だ。残りの敵軍は何の脅威にもならない。我が軍は急ぐこともなく、隊列を整ってゆっくり前進した。それだけで敵軍は敗走を開始する。元々敵軍の士気は低かったし、信じていた騎兵隊が完全に粉砕されて希望を失ったのだ。


 敵兵士たちが武器すら手放して逃げ出す。慌てて泥に転んだり、自分の部隊を捨てて脱走したりと……もう恐慌状態だ。どんなに優秀な指揮官でも、こんな混乱は収拾できない。


 数時間後、俺の軍隊は追跡を中止して勝鬨を上げた。ケント伯爵の軍隊はその原型すら無くなり、完全に瓦解してしまった。これで残ったのは……やつの息の根を止めることだけだ。

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