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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第14章.俺がお前を許さない理由は……
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第118話.予想は的中した

 俺とケント伯爵の間には、1つ共通点がある。それは『自分の武に自信があり、直接戦うことを好む』ということだ。つまり両者とも『好戦的』だ。


 だから俺はケント伯爵の心理がある程度理解できる。やつは籠城なんてする気がない。あくまでも野戦で俺を倒したいはずだ。しかし俺を倒すには大きな問題がある。それは軍隊の弱体化だ。


 ケント伯爵の軍隊は、2回連続の敗北により士気が地に堕ちた。毎日の如く脱走兵も出ている。そんな軍隊で俺に勝つことはできない。その事実はケント伯爵が一番よく知っているはずだ。


 それでやつは『レッドを倒せるほどの強い軍隊』を欲しがっているだろう。そして『短時間で強い軍隊を手に入れる方法』は1つしかない。『傭兵』だ。


 つまり今回の焦土作戦は……傭兵が到着するまでの時間稼ぎだ。ケント伯爵は全財産を投げて大規模の傭兵団を雇ったに違いない。


「カレン」


 俺は後ろを振り向いてカレンを呼んだ。彼女なら傭兵団について詳しいだろう。


「このウルぺリア王国、または近い隣国の中で……規模の大きい傭兵団はどれなんだ?」


「規模の大きい傭兵団ですか……」


 カレンが少し考えてから口を開く。


「この王国の近くなら……『北の兄弟団』、『シャルシア傭兵団』、『指切り貴人団』があります。どれも1000人以上の規模を誇る傭兵団です」


「その中で騎兵中心の傭兵団はあるのか?」


「はい、『シャルシア傭兵団』は約3割が騎兵です」


「多いな」


 騎兵中心の傭兵団……攻撃的なケント伯爵の気質に合う。


「カレン、シャルシア傭兵団との戦闘経験は?」


「ありません」


「そうか、分かった。情報ありがとう」


 もちろんケント伯爵がシャルシア傭兵団を雇ったという確証があるわけではない。だが……俺の直感と戦場での本能が警鐘を鳴らしている。


 ケント伯爵の領地には平原が多い。騎兵が活躍しやすいし、迂回機動による奇襲を受ける可能性も高い。ここで戦うと大被害は免れないだろう。


「トム」


「はい! お呼びですか?」


 俺の呼び声に、副官のトムが元気よく答えた。


「これから我が軍は低速撤退を開始する。部隊長たちに方向転換を指示しろ」


「はい!」


 トムは馬を走らせ、部隊長たちに俺の指示を伝えた。それで俺の軍隊は方向を変え、今まで進んできた道を戻り始めた。言わば『戦略的撤退』だ。


 もちろん『戦略的撤退』と言っても、撤退は撤退だ。一般的なら兵士たちの士気が下がる恐れがある。まあ、俺の軍隊に限ってそんなことはないけど。敵の焦土作戦のおかげで食糧調達に難が生じたが、それも別に決定的な問題ではない。


 決定的な問題は……早く有利な戦場を見つけ出さなければならないことだ。


---


 撤退を始めて3日後……軍隊を率いて道を戻っている途中、エミルが馬に乗って俺に近づいてきた。


「総大将、報告です」


「言ってみろ」


「ケント伯爵が大規模の傭兵団を雇い、こちらに向かっているようです」


 エミルは周りに聞かれないように小声で話した。


「カレンさんの部下に問い合わせて結果、ケント伯爵に雇われたのは『シャルシア傭兵団』ということです」


「へっ」


 俺がつい笑ってしまうと、エミルが眉をひそめる。


「……もう予想済みだったんですか?」


「当たる確率は7割くらいだったけどな」


 もし予想が当たらなかったら、この撤退は時間の無駄になり……敵の方が有利になったはずだ。


「両軍の距離を考えると、1週以内に衝突します。どうしますか?」


「このまま撤退を継続する。速度を上げる必要はない」


「分かりました」


 エミルは無表情で頷いた。


 その日の夜から、激しい雨が降り始めた。俺は野営地の構築を命令して、雨による被害に備えた。おかげで撤退は更に遅くなったけど、兵士たちの健康が優先だ。


「それにしても……激しいな」


 俺は指揮官用の天幕の中から外を眺めた。激しい雨の中で、兵士たちは急ぎ足で動いて物資などを運んでいた。


 軍隊は人間の集団の中でも特殊だ。生産性がほとんど無く、破壊と殺戮しか生めない。もし俺がここで一言命令すれば、彼らは虐殺者に変わる。それが軍隊という集団だ。しかし俺は……彼らと共にこの王国の混乱を鎮めて、平和をもたらすつもりだ。『暴力を以って混乱を鎮める』……矛盾に見えるが、現実って結局そんなものかもしれない。


 そんな感傷に浸っていた時だった。誰かが俺の天幕に近づき、中に入ってきた。


「レッド」


「シェラ」


 それはシェラだった。シェラは雨に濡れながらここまで来たのだ。俺はまずシェラにタオルを渡した。


「どうした? 何かあったのか?」


「ううん、何もない」


 シェラはタオルで雨を凌いだ。何か……少し色っぽいな。


「……軍隊の野営地の居心地はどうだ? やっぱり不便だろう?」


 俺は微かに笑いながら言うと、シェラも少し笑う。


「確かに不便なこともあるけど……カレンさんのおかげで問題ないよ」


「そうか」


 シェラはカレンと一緒の天幕を使っている。女性同士だし、1人より心強いだろう。


「それにカレンさんからいろんな国々の話が聞けてね、楽しいよ」


「それはいいな」


「うん、いつかレッドと一緒に行ってみたい」


「この乱世が鎮まったら……行ってみよう」


「本当? じゃ、約束ね!」


 シェラが楽しそうに笑う。


 俺は無意識的に手を伸ばして、彼女の頭を撫でた。しかしシェラは一歩後ずさり、俺の手から逃げた。


「……どうした?」


「な、何でも」


 シェラの顔は赤くなっていた。俺が何か間違ったかな……?


「そ、それより撤退のことだけど」


 シェラが話題を変える。


「このまま撤退を続けても……いいのかな」


「まさか兵士たちが動揺しているのか?」


「ううん、そんなことはない」


 シェラが首を横に振る。


「みんなレッドのことを信じているよ。赤い総大将に従えば勝利は間違いないって」


「そうか」


「でも……私はあんたのことがちょっと心配でね」


 シェラは……俺のことをただ『無敵の赤い総大将』として見ているわけではないんだろう。


「心配するな」


 俺は笑いながらシェラの顔を見つめた。


「シェラ、お前にだけ教えてやる」


「何を?」


「実はな、この激しい雨が……」


 外の風景に視線を投げて、俺は話を続けた。


「この激しい雨こそが、俺たちに勝利をもたらす」


「何、それ」


 シェラが笑う。


「ま、あんたの言うことってたまに理解できないけど……間違ったことはないかな」


「そういうことだ。安心していい」


「うん」


 シェラが頷いた。


 それからしばらくシェラと一緒に過ごした。激しい雨の音のせいで、2人の声以外は何も聞こえなかった。

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