表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第14章.俺がお前を許さない理由は……
130/602

第117話.攻めるなら今だ

 秋になって……俺は久しぶりに大規模の訓練を行った。


 軍隊を2つの部隊に分けて、1つは俺が、もう1つはカレンが指揮を執った。そして両部隊は実戦に近い動きで連携行動や挟撃などを練習した。


「順調だな」


 俺は満足感を覚えた。規律、士気、基礎体力、訓練度……どの面においても強軍と言える。この王国の中でもここまで仕上げられた軍隊はほんの少しだろう。


 何よりも刮目すべきところは、兵士たちの士気だ。もう何度も多数の敵を打ち破ったことで、彼らの戦意と闘志は限界を超えている。特に総指揮官である俺への信頼は……もう信仰の領域だ。


 『赤い総大将がいる限り、絶対負けない』……兵士たちは心の底からそう信じている。そして俺は彼らの信頼に応えて、俺個人の限界を超える力を発揮する。これが……最強の武すら退ける『覇王の道』だ。


「お疲れ様でした」


 訓練の後、カレンが馬に乗って俺に近づいた。


「ご苦労、素晴らしい采配だった。」


 俺が褒めると、カレンの無愛想な顔に少しだけ嬉しい表情が浮かぶ。


 カレンの率いる『錆びない剣の傭兵団』は本当に素晴らしかった。大半が剣兵であるその部隊は、個々の武術はもちろん集団戦や機動力にも優れていた。騎兵部隊に比べれば破壊力は劣るけど、どんな地形でもどんな局面でも活躍できるだろう。


「団長」


 カレンが俺の顔を凝視する。


「失礼ですが、団長の軍隊指揮経験はまだ1年にも満たないとお聞きしました」


「ああ、もうすぐ1年になるな」


「……信じられませんね」


 カレンが首を横に振る。


「今まで様々な戦場で戦い、数多くの指揮官たちを見てきましたが……団長のような方は初めてです」


「確かに肌の赤い指揮官なんて俺しかいないだろうな」


 俺が冗談めいた口調で言うと、カレンが微かに笑う。


「団長は指揮力や統率力にも優れていらっしゃいますが……それだけではない。団長の指揮する軍隊は……熱意が違います」


「熱意か」


 言われてみれば、それが我が軍の強さの秘密かもしれない。


 俺の熱意が兵士たちに伝わり、彼らの熱意を増幅させる。そして兵士たちの増幅させられた熱意が俺を刺激して、俺の熱意も更に高まる。互いに影響を受け合い、互いの力が相乗する……これも人間の底力なんだろうか。


 俺が考えにふけっていた時だった。馬の足音と共にエミルが姿を現した。


「総大将」


「何だ、エミル」


 エミルはカレンを横目でちらっと見てから、俺に報告を上げる。


「パウル男爵領のルベンから知らせが来ました」


「知らせ?」


「はい、ケント伯爵の兵士たちが多数降伏してきたようです」


 その言葉に俺の胸が騒いだ。


「降伏した兵士たちによると……前回の戦闘以来、ケント伯爵は何人もの部下を処刑し、敗北の原因を擦り付けたらしいです」


「なるほど」


「おかげで多くの人間がケント伯爵に反感を持ち、毎日の如く脱走者が出ているとのことです」


 エミルが薄ら笑いを浮かべる。


「恐怖による支配って、一見強固に見えますが……不利な状況になると脆い。ケント伯爵の統治は大きく揺れているに違いありません」


「攻めるなら今だな」


 これは絶好の機会だ。俺の理性と本能がそう告げている。


「エミル、カレン」


 俺が呼ぶと、2人は同時に「はっ」と答える。


「3日以内に遠征の準備を終わらせろ。今年中にケント伯爵を潰す」


「はっ」


 再度答えて、エミルとカレンが馬を走らせた。


---


 そして3日後……綺麗な秋の空の下で、俺は出陣した。ケント伯爵を倒してやつの領地を一気に奪ってやる。『赤竜の旗』と共に、俺は『覇王の道』の進んだ。


 まずパウル男爵領まで進軍して『レッドの組織』の5人や『ルベン・パウル』と合流した。彼らの兵力はもう1500になっていた。パウル男爵の敗残兵、そしてケント伯爵からの脱走兵が加わったのだ。


 俺の総兵力は2500、ケント伯爵の方は3000くらいだ。兵力の差はほぼ無くなったし、士気の面はこっちが圧倒的に有利だ。たとえケント伯爵が籠城に入っても……今なら勝てる。


 更に2週後、俺は軍隊を率いてケント伯爵領に侵入した。順調な遠征だ。このままだと予定通り今年中に勝利できる。と思っていた俺に……驚くべき知らせが届いた。


「総大将!」


 進軍の途中、先走らせた偵察隊が慌てた顔で俺に近づいた。


「た、大変です!」


「落ち着いて話せ。何があったんだ?」


「この周辺の村が……全部焼かれています!」


 周りのみんなが驚いて、俺の方を見つめた。俺は思わず苦笑した。


「焦土作戦か……」


 軍隊が進軍するためには何よりも補給が大事だ。人間である以上、誰しも食べないと動けないのだ。だから進軍の時は、周りの村から食糧や物資を買い溜めしておくのが基本だ。お金が足りない場合は略奪という手もあるけど、占領後を考えると略奪は控えるべきだ。


 しかしケント伯爵は自分の領地の村を自分の手で略奪して、我が軍の食糧調達を妨げてきた。こういう『焦土作戦』は時と場合によっては有効だが……。


「へっ」


 俺はケント伯爵の意図を読んだ。これは時間稼ぎだ。


「慌てる必要はない。後方に連絡して、普段より多くの物資を運ばせろ」


 俺が揺るぎない態度で命令すると、周りのみんなが安心する。


 もちろん焦土作戦によって進軍は遅くなるだろうし、経済的にも被害を受けた。だが慌てる必要はない。そう遠くないうちに、敵の方から動くはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ