表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第2章.焦らずに、少しずつ俺のものにする
13/602

第12話.俺に限ってそんなことはない

 試合場を出て2階に上がると、小さい誰かが俺に抱き着いてくる。


「あう……! あう……」


 アイリンだ。アイリンは涙を流しながら俺を見上げていた。たぶん俺が殴られるのを見てかなり衝撃を受けたんだろう。


 俺はアイリンの頭を撫でてやった。


「心配するな。俺は大丈夫だ」


 まだ鈍重な痛みが残っているけど、これくらい別に大したことはない。俺の骨格は頑丈だ。


「あんなやつに手こずるなんて、お前もまだまだだな」


 鼠の爺の冷たい声で聞こえてきた。俺は爺を睨んだ。


「別に手こずってねぇよ」


「そうかい? 戦いがもう少し長かったら、お前の方が先に倒れたぞ」


 このクソ爺……相変わらず正確だな。


「まあ、とにかく……ロベルトがお前に直接報酬を渡したいようだ。部屋に入ってみろ」


「分かった」


 俺は足を運んで爺の傍を通り過ぎた。しかしその瞬間……爺が小さい声で囁いた。


「レッド、あの男には注意しろ」


 まあ、危険な男なのは最初から分かっているさ。俺は軽く頷いてロベルトの部屋に入った。


「レッドさん」


 テーブルに座っていたロベルトが立ち上がって、俺に近づいた。


「素晴らしい試合でした」


「ありがとう」


「報酬をどうぞ」


 俺は革袋を受け取った。結構な量の硬貨が入っている。


「結構多いな」


「レッドさんの最初の試合でしたし、ちょっと多めにしておきました」


「それもありがとう」


「どういたしまして。ところで……爺さんからお聞きしましたが、レッドさんはまだ17歳だと」


「ああ」


「17歳でこの強さ……本当に素晴らしいお方だ」


 ロベルトが笑顔を見せた。


「では、またのご参戦をお待ちします」


「ああ」


 ロベルトの鋭い眼差しを後ろにして、俺は部屋を出た。


---


 南の都市を出た時はもう夜12時を過ぎていた。俺たちの小屋まではまた何時間も歩かなければならない。爺と俺は別にいいけど、アイリンには無理だ。


「アイリン」


「あう?」


「俺の背中に乗れ。背負ってやる」


「あうあう!」


 アイリンが驚いて首を横に振ったが、俺が「早く乗れ」と促すと、少しためらってから俺の背中に乗った。そして間もなく眠りについてしまった。


 軽い。こいつは何故こんなに軽いんだろう。アイリンの痩せた体を背負って、俺はそう思った。


「優しいな、お前」


 鼠の爺が嘲笑うような口調で言った。


「まさか今更人間が好きになったとか、復讐なんて止めたくなったとか、そんなんじゃないだろうな?」


「何言ってんだ」


 俺は鼻で笑った。


「俺に限ってそんなことはない。いつかは何もかもぶっ壊して、この王国を滅ぼす。これは絶対だ」


「そうかい」


 爺が頷く。


「とにかくお前にはこれからもあの格闘場で働いてもらう」


「お金のため?」


「お金のためでもあり、お前の鍛錬のためでもある」


 爺の声が冷たくなった。


「あの格闘場で……少なくとも1年以上生き残れ。それが目標だ」


「『勝ち続けろ』じゃなくて『生き残れ』か」


「もちろんだ。負けたからって諦めるやつは……要らない」


「もう一度言う。俺に限ってそんなことはない」


「へっ、口だけは一人前だな」


 それから俺と爺は沈黙の中で夜道を歩いた。二人の足音と虫の鳴き声、そしてアイリンの寝息が聞こえてくるだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ