第110話.俺を怒らせたことを後悔しろ
「レイモン!」
俺は倒れているレイモンを抱えて、傷を確認した。かなりの重傷……早く治療しないと危険だ。
「1人残さず殺せ!」
「殺せ! 殺せ!」
そして敵軍が総攻撃を開始した。こちらに態勢を立て直す時間を与えないつもりだ。
「ボス!」
『レッドの組織』の5人が俺に近づいた。彼らの顔には怒りと動揺が浮かんでいた。俺はレイモンの体をリックに任せた。
「リックはレイモンを連れて後方へ! 残りは持ち場に帰って作戦を遂行しろ!」
俺の一喝に、5人は冷静を取り戻して「はっ!」と答えた。
そう、異変が起きてみんなが動揺していても……俺だけは冷静でなければならない。指導者の俺が冷静さを失ったら何もかも終わりだ。俺は燃え上がる怒りを抑え、馬に乗って本隊に帰還した。
「総大将!」
部隊長たちが俺を見つめた。彼らの顔にも動揺が浮かんでいた。
「これから敵軍を粉砕する。各自部隊を率いて、俺に続け!」
俺は揺るぎない態度で命令を出した。それで部隊長たちの動揺が消え去り、一心不乱に動き始める。彼らにとって俺はもう『勝利の象徴』になっている。彼らの俺への信頼は、もう信仰に近いのだ。
戦鎚『レッドドラゴン』を手にし、軍馬を走らせた。1000の兵士たちが俺の後ろを追った。俺が直接養成した兵士たちだ。
敵軍は『本隊の左右に部隊を配置』という、定石的な陣形だ。我が軍の左側が川に塞がれている以上、やつらは我が軍の右側へ騎兵を突撃させるだろう。
俺は事前に軍隊を『左側面部隊』と『右側面部隊』に分けて……『左側面部隊』には『訓練度の高い兵士、または騎兵を配置』し、『右側面部隊』には『訓練度の低い兵士、または槍兵を配置』しておいた。右側面部隊が『わざと遅く進軍して、直接戦闘を避けながら時間を稼いでいる間に』、左側面部隊が『神速に突進し、正面の敵を撃破する』作戦だ。古代から伝わる『斜線陣』を俺なりに応用したものだ。
さっきケント伯爵がレイモンを奇襲したことで、俺はやつの手口を把握できた。『手段を選ばずに暴力を振るって相手の調子を狂わせ、自分のペースに引き込む』……それがケント伯爵の手口だ。もし俺が激昂して無暗に突撃したら、もう敗北しているだろう。だが……俺はやつのペースに振り回されるつもりはない。あくまでも俺の戦い方で、俺のペースで決めてやる!
「へっ」
敵軍が近づいた時、ふと笑いが出た。最も信頼していた部下であるレイモンが、ケント伯爵の卑怯な手によって倒されたことに怒りを感じていたが……俺は冷静さを失わずに、その怒りを力に変えている 。俺の前を立ち塞ぐ敵兵士たちには不幸なことに……今日の俺は、誰にも止められない!
「ぐおおおお!」
鋼の戦鎚『レッドドラゴン』を振るうと、敵兵士たちの血が飛び散る。盾? 鎧? 兜? そんなもので俺の攻撃を防げるわけがない。敵兵士たちは悲鳴を上げながら、藁のように倒れていく。
「うおおおお!」
「総大将に続け!」
「突撃しろ!」
俺の兵士たちも猛獣になって戦う。真っ先に突撃して戦う指導者の姿を見て、彼らの士気と闘志は限界を超えているのだ。それこそ多数の敵を何度も撃破できた原動力だ。
「はあああっ!」
敵弓兵が俺を狙撃しようとしたが、俺は腰から予備の剣を抜いて投げ飛ばし、やつの頭に命中させた。それで他の弓兵たちが驚愕すると、俺はやつらに突撃して戦鎚を振るった。数人の頭が一瞬で胴体から分離される。
「『赤い化け物』! 私は……!」
敵騎士が俺を呼びながら突撃してきた。俺と1対1の勝負をしたいんだろう。だが俺はやつが名乗る前に『レッドドラゴン』でやつの頭を粉砕した。この程度の敵に一々構ってやる必要はない。
「てめえらは……」
俺は周りの敵を見回した。
「遺言も残せずに死ぬのだ」
敵軍の顔に恐怖が浮かぶ。全員言葉を失ってその場で凍りつく。俺は鋼の竜を操ってそいつらの命を奪い続ける。
「う、うわあああああ!?」
敵の1人が悲鳴を上げる。それをきっかけに、周りの敵軍が一斉に敗走し始める。
「ば、化け物……!」
「逃げろ……逃げろ……!」
俺は逃げ回るやつらを次々と殺した。もう戦いですらなく、一方的な殺戮だ。
「ぬおおおお!」
敵騎兵の頭を打ち砕いて、そいつの馬を強奪した。俺が乗っていた馬はもう疲れ気味だったのだ。だがこれで思う存分戦える。
「俺に挑め!」
新しい馬に乗って敵軍を倒し続ける。歩兵も名の知れた騎士も関係ない。全員一撃で仕留める。
やがて目の前の敵部隊が完全に敗走する。敵の右翼部隊が壊滅状態に陥ったのだ。俺は部隊を率いて、そのまま敵本隊に突撃した。
今頃、味方の右側面部隊は敵の猛攻を受けているはずだ。味方が敗走する前に敵の本隊を撃破すれば勝利だ。そういう理性的な判断と、本能的な闘志に導かれて……俺は敵本隊を叩き始めた。
「赤い化け物を止めろ!」
敵軍の士気は決して低くない。右翼部隊が敗走したにも関わらず戦おうとしている。たぶんケント伯爵から厳しい訓練を受けたんだろう。でも味方の士気には比べにならない。
「俺の前からどけぇ!」
俺は敵本隊を一直線に突破した。俺が通った道は敵の血によって真っ赤に染まった。俺自身も血まみれになって、もう肌色に関係なく赤く染まっていた。
敵本隊を指揮しているのはケント伯爵だろうか。いや、やつはたぶん騎兵隊を率いて味方を攻撃しているはずだ。
「ちっ!」
俺の乗っていた軍馬に敵の矢が刺さった。俺は軍馬から飛び降りて、走りながら殺戮を続けた。そして突撃してくる敵騎兵の胸を強打して、そいつの馬に飛び乗った。
「敵軍を全滅させろ!」
「勝利は目の前だ!」
俺が道を切り開くと、俺の兵士たちは更に奮戦した。敵本隊はざっと見ても2000を超えているが、こちらの勢いには敵わない。今俺の兵士たちは1人1人が不屈の戦士たちだ。俺が戦い続けるかぎり、彼らも戦い続ける。指揮官と兵士たちが一体化され、日頃訓練してきた戦闘力を最大限に発揮する。戦術において、軍隊の理想的な形だ。歴史に残る名将たちの戦いを今ここで具現したのだ。
味方軍のお雄叫びと敵軍の悲鳴があちこちで聞こえてくる。味方が勝利を確信し、敵が敗北を直感する。1人の敵が逃げ出し、10人の敵が逃げ出し……やがて敵本隊全員が逃げ出す。
「勝った! 勝った!」
「俺たちの勝利だ!」
俺の兵士たちが勝利の歓声を上げた。それで敵本隊はもちろん、ケント伯爵の率いる主力部隊も敗走し始める。味方の右側面部隊はよく耐えてくれた。
それから数時間に渡って、我が軍は敵軍を追跡して戦果を極大化した。戦場は敵軍の死体だらけだった。『殺戮者』ケント伯爵との1回戦は、俺の大勝利に終わった。




