第11話.俺の拳で黙らせてやるさ
俺が『試合場』に一歩入ると、観客たちが野次を飛ばしてきた。
「何だ、あいつ!? 肌が赤いぞ!」
「おい、ここは化け物が出陣してもいいのかよ!」
「気持ち悪いな! 早くくたばれ!」
俺は鼻で笑った。これくらいの罵倒ならもう聞きなれている。
「皆さん、この試合にご注目ください!」
試合場の真ん中に立っている男が叫んだ。こいつが試合の進行係なんだろう。
「今まで3戦3勝した『マックス』様に、今日新しく登場した『レッド』様が挑戦します!」
俺の反対側にはもう一人の男が立っていた。こいつが『マックス』だろう。俺より背は低いが筋肉のついた体をしていて、結構強面の男だ。
「皆さんも噂くらいは聞いたことあるでしょう! そう、このレッド様こそが噂の『赤い肌の少年』です! あの少年がここまで成長したんです!」
こいつ、余計なこと言いやがって……。
「さあ! この試合、生き延びるのは果たしてどちらでしょうか! 皆さん! 思い切って賭けてください!」
進行係が言い終えると、人々がまるで狂ったかのように騒ぎ始めた。
「マックスに50だ!」
「赤い野郎に100! いや、200だ!」
「マックスに80!」
まるで俺自身が商品になった気持ちだ。なるほど、だから『体を売る仕事』なのか。
ロベルトの部下たちが急ぎ足で動き回って、観客たちから集金した。それが終わるとまた進行係が叫び始める。
「皆さんの熱気に感謝いたします! それじゃ、マックス様とレッド様の試合を開始します!」
進行係は素早く試合場から抜け出した。もう俺とマックスというやつの戦いを止められるものは何もない。
「マックス、あんなやつは早く殺してしまえ!」
「赤いやろう! お前の方がでかいから先に打って出ろ!」
「殺せ! 殺せ!」
観客たちが狂ったような歓声を上げた。しかしその狂気じみた空気とは裏腹に、俺とマックスは静かに互いを睨んだ。
なるほど、このマックスというやつはただの喧嘩好きではない。ちゃんと相手の戦力を見極めて動こうとしている。俺も同じことを考えているから理解できる。
力なら俺の方が上、素早さならマックスの方が上だ。そしてこの鉄網に囲まれた空間……どんな戦いになるかはもう予想済みだ。
「お前ら、いつまで見つめ合うつもりだ!? 恋にでも落ちたのか!? 早く戦え!」
観客の煽りと共にマックスが動き出し、俺の頭を狙って拳を振るった。俺は腕を上げてそれを防ぎ、反撃しようとしたけど……もうマックスは俺の距離から離れている。
「いいぞ、マックス! そのまま殴り倒せ!」
瞬時に接近して攻撃、そして俺が反撃する前に素早く離脱……いわゆる『一撃離脱』だ。マックスは一撃離脱を何度も繰り返し、俺は何度も攻撃を食らった。口の中から血の味がする。この痛み……全て予想通りだ。
「赤いやろう! 何やってんだ! お前も殴れ!」
焦るな……俺は自分にそう言い聞かせた。ここで焦ってマックスを追いかけたところで、やつの素早さに弄ばれるだけだ。勝つためには……焦らずに待たなければならない。『絶好の機会』を。
「この馬鹿野郎が! 何故反撃しないんだ!?」
他のやつらがどう吠えたって関係ない。俺は俺のやり方で戦う。俺のやり方で勝つ。
「マックス! マックス!」
観客たちはもうマックスの勝利を確信していた。いや、観客たちだけではない。マックス本人も勝利を確信して笑っている。しかし……お前の『勝ったと思って油断した時』こそが……俺の『反撃の時』だ!
「あ!?」
観客たちが驚愕の悲鳴を上げた。マックスが再び一撃を放った瞬間……俺の拳がマックスの顔面を強打した。美しいほどの直撃だ。
人間は誰でも、頭に衝撃を受けると動きが止まる。もちろんマックスのやつも例外ではない。俺はやつが気を取り戻す前に接近し、もう一度顔面に拳を放った。血が飛び上がり、拳から相手の鼻と顎が砕ける感触がした。
マックスは無様な姿で地面に倒れた。もう殴る必要もない。早く医者に見せないとマックスの人生はここで終わりだ。
「そんな……」
「マックスが……」
観客たちは言葉を失った。この静けさ……実に気持ちいい。どれだけ罵倒されようが、どれだけ侮辱されようが……最後は俺が勝つ。俺の拳で黙らせる。
「……よくやったぞ! レッド!」
観客の一人が叫んだ。それをきっかけに、あちこちで歓声が上がる。
「お前のおかげで大儲けした!」
「素晴らしい戦いだった!」
「かっこよかったよ!」
ふ……まさかこの俺を褒めるのか。まあ、俺にお金をかけたやつらは嬉しいだろう。俺は観客たちの歓声を後ろにして、試合場から退場した。




