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第105話.この旗を掲げて

 そろそろ暑くなる5月末、俺は要塞の執務室でエミルの報告を聞いた。


「総大将、親書の交換が完了しました」

「そうか。で、反応は?」

「見下す反応がほとんどでした」

「まあ、予想通りだな」


 『守備軍司令官』の役職を得た後、俺はエミルに指示して近所の貴族たちに親書を送った。正式に外交を行う前に、まず俺の名前と役職を貴族たちに知らせる必要があるわけだ。だが……予想通り貴族たちは俺のことを見下しているようだ。

 連中からすれば俺は平民の成り上がりだし、兵士もたった1000に過ぎない。ホルト伯爵の軍隊を打ち破って名声が高まったとはいえ、まだ俺のことを認めるつもりはないんだろう。役職がなかったら返事すらしなかったはずだ。


「少数ではありますが、親交を結びたいという反応もありました」

「へえ……変わった部類もいるのか」

「変わった部類というより、情報収集力の高い部類ですね」


 エミルは腕を組んで話を続ける。


「貴族たちは総大将の力についてまだ理解していない。ホルト伯爵の大軍に勝ったのも、『運が良かった』とか『誇張された噂』だと思っているんでしょう」

「そうだろうな」

「しかし情報収集力の高い少数の貴族は薄々気付いているはずです。『赤い化け物』の噂が……嘘ではなく本当だということを」

「なるほど」


 頭のいいやつは、俺に利用価値があると判断したのか。


「今後のことを考えて、同盟できそうな貴族のリストを作っておきます」

「分かった」


 その時、誰かが執務室の扉をノックした。俺が『入れ』と言うと、シェラが入ってきた。


「レッド!」


 シェラは後ろに何かを隠していた。


「軍旗が完成したよ!」

「ああ、それか」


 俺の軍隊は今まで王国の警備隊と同じ旗を掲げてきた。しかし俺が正式に『守備軍司令官』に就任したおかげで、俺だけの旗を使えるようになった。

 で、旗の模様についてはシェラの父親であるロベルトに任せたんだが……やっと完成されたようだ。


「これだよ! どう!?」


 シェラが後ろに隠していた旗を俺に見せた。それは……。


「いやいやいや……」


 俺は笑ってしまった。黒い旗の下の部分に白い城が描かれていて、巨大な『赤竜レッドドラゴン』がその城を踏みにじっている。


「父さんがね、レッドの武器から閃いたって!」

「俺的と言えば俺的だが……」

「気に入らないの?」

「いや、気に入った。今日から俺の軍隊の旗はそれだ」

「うん!」


 まあ、確かに俺の道をそのまま表現したような旗だ。これから俺は数えきれないほどの敵を打ち破って、無数の城を攻め落とさなければならない。

 この『赤竜の旗』を掲げて俺の覇王の道を進み続ける。そうすればやがて誰もがこの旗を恐れる日が来るだろう。


---


 6月になり、俺は正式に『ルベン・パウル』を保護していると周りに宣言した。

 そしてルベンは、自分の兄である『パウル男爵』の過ちと無能さについて公式的に糾弾し……『我こそが領主に相応しい』と主張した。それは事実上の宣戦布告だ。

 ルベンの檄文げきぶんに対して、パウル男爵は早速反応してきた。ルベンのことを反逆者と認定し、軍隊を集結させて進軍を開始したのだ。ルベンとルベンの背後……つまり俺を抹殺するつもりだ。


「ずいぶんと早い対応だな」


 俺も完全武装して1000の兵士たちと共に進軍を始めた。『赤竜の旗』を掲げてから初めての出陣だ。

 俺の兵士たちは全員士気が高く、規律が取れている。日頃の訓練の成果だ。数はたった1000だが、もう王国軍にも劣らない強軍だ。


「収集した情報やルベンの話から判断すれば、パウル男爵の戦力は約2000くらいです」


 エミルの声が聞こえてきた。エミルは馬に乗って俺のすぐ傍を歩いていた。


「2対1の戦力比……軍事理論からすれば正面衝突は避けるべきですね」

「まあな」

「……でも総大将は正面から戦う気なんでしょう?」

「へっ」


 俺は笑った。


「怖いのか、エミル? 何なら要塞に戻ってもいいぞ」

「いいえ」


 エミルが冷たい眼差しで俺を見上げる。


「化け物と呼ばれている総大将の力……この目で確かめておきたいんです。今後の戦略のためにも」

「そうかい」


 俺は軽く頷いた。


「じゃ、見せてやるよ。理論もいいけど……結局人間を動かすのは心ということを」


 エミルは口を閉じた。

 それから数日進軍し、やがて敵の軍隊が視野に入ってきた。『ダレルの村』から少し離れた平原……そこで俺とパウル男爵は対峙した。

 パウル男爵は戦う気満々だ。半分以下の敵に対して負ける気はしないだろう。まあ、俺も負ける気なんて全くしない。

 両軍は戦闘態勢に入った。そして戦闘開始の命令を待った。俺は燃え上がるような闘志を感じた。それは俺の闘志であり……俺が背負っている兵士たちの闘志でもある。『赤竜の旗』を掲げている彼らは……1人1人が勇猛な戦士だ。


「やつらを捻り潰せ!」


 俺が命令を出すと、1000の兵士たちが敵軍に向かって突撃し始める。それと同時に敵軍も突撃してくる。ついさっきまで静かだった平原が……一瞬で戦場と化した。

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