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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第2章.焦らずに、少しずつ俺のものにする
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第10話.この『夜の仕事』は面白そうだ

「おい、アイリン。起きろ」


「あう……」


 俺は宿の部屋で寝ているアイリンを起こした。


「移動する時間だぞ」


「……あう!」


 アイリンは『ごめんなさい!』という顔で素早くベッドから降りた。そして一緒に宿を出ると、夜空の下で爺が待っていた。


「まったく……」


「アイリンはまだ子供だから仕方ないじゃないか」


「お前、その子に甘すぎないか?」


 顔をしかめている爺と俺がそんな会話をすると、アイリンが「あう!」と言いながら何度も頭を下げた。


「ちっ……もういい、さっさと行くぞ」


 俺たちは月明かりを浴びながら夜の都市を歩いた。昼の人込みや騒音は嘘のように消え去り、たまに船乗りたちや酔っ払いにすれ違うだけだった。


「あそこが『夜の仕事』をする場所だ」


 爺が杖で前方を指した。そこには巨大な倉庫みたいな建物があった。俺たちが近づくと、建物の入口を守っていた大男が爺に向かって笑顔を見せる。


「おお、こりゃずいぶんとお久しぶりですね! 鼠の爺さん!」


「久しぶりだな」


「まさか参戦なさるんですか?」


「いや、私はもう歳が歳だからそんなことはしない。その代わりに……」


 爺が親指で後ろに立っている俺を指さした。


「私の弟子を連れてきた」


「爺さんの弟子?」


 大男が俺を凝視した。フードを被っているから顔は見えないだろうけど。


「確かに強そうですね。しかし……そっちの子供は?」


「友人の子供だ。事情があってちょっと預かっている」


「まあ……分かりました。爺さんの連れなら問題ないでしょう。どうぞ入ってください」


 大男が扉を開けてくれて、俺たちは建物の中に入った。


「もっと殴れ!」


「何してんだ!」


「殺せ! 殺せ!」


 建物の中には大勢の人が集まって、鉄網の向こうに向かって叫んでいた。そして鉄網の向こうには……二人の男が必死に殴り合っていた。


「爺、ここは……」


「見りゃ分かるだろう。『格闘場』だ」


 爺が杖で殴り合っている二人の男を指した。


「あの二人の中でどっちが勝つか、お金を賭けるんだ」


「なるほど、博打か」


 人々が熱狂的に叫んでいる理由が分かった。


「博打は人間社会の必須といっても過言ではないさ」


 二人の男は血だらけになっても戦い続けた。人々は二人が血を流せば流すほど興奮した。アイリンはそんな光景に怯えて、俺の後ろに隠れた。


「人間は日頃のストレスを解消するための手段が必要だ。それに博打は勝った時の喜悦と負けた時の悔しさが強烈だ。一度その刺激を味わったら、中毒者になるのはいとも簡単……いつの時代だって同じさ」


「中毒者たちを利用してお金を稼ぐやつらがいるのも、いつの時代だって同じだろう?」


「その通り」


 俺たちは2階に登る階段に近づいた。階段の前に立っていた二人の大男は、爺の顔を確認してすぐ道を空けてくれた。


 2階は酒屋のような感じで、数人の男が席に座ってお酒を飲んでいた。1階の熱狂とは裏腹の静けさ……つまりこいつらが、下の中毒者たちを利用してお金を稼いでいる犯罪組織だ。


「鼠の爺さん」


 やつらは爺の登場に驚いたようだった。しかし爺はやつらを無視して、2階の奥の部屋まで行って扉をノックした。すると中から「入って下さい」という男の声が聞こえてきた。爺は迷いなく扉を開いて中に入り、俺とアイリンはその後を追った。


 扉の中は華麗に飾られている広い部屋だった。まるで貴族の居所みたいだ。部屋の中には数人の男たちがいたが、一番目立つのは真ん中のテーブルに座っている男だった。その男は爺の顔を見るとテーブルから立って挨拶する。


「おお……これは鼠の爺さん。お久しぶりです」


「久しぶりだね、ロベルト」


 爺が挨拶を返した。『ロベルト』と呼ばれた男は「さあ、どうぞお座りになってください」と言った。俺たちは足を運んでテーブルに座った。


 俺はロベルトを凝視した。まるで貴族のように優雅な男だ。美中年という言葉がぴったりだろう。しかし……俺は直感的に分かった。こいつは犯罪組織の『ボス』だと。この貫禄、間違いない。


「今日はどのようなご用件ですか? まさかの復帰?」


「いや、今日は私の弟子を連れてきた」


「弟子ですか?」


 ロベルトの鋭い眼差しが俺に向けられた。


「私はこの場所を運営しているロベルトと申します。失礼ですが、お顔を拝見できるでしょうか」


「ああ」


 俺はフードを外して素顔を見せた。


「ほぉ」


 俺の赤い肌を見ても、ロベルトは別にそこまで驚かない。


「なるほど、もう外見だけで強そうなお方ですね」


 むしろ彼は笑顔を見せた。流石犯罪組織のボス……といったところか。


「お名前は?」


「レッドだ」


「初めまして、レッドさん。今後ともよろしくお願いいたします」


 ロベルトは礼儀正しく挨拶してから、アイリンの方に視線を移した。


「そっちのお嬢さんは? まさか爺さんのお孫さん?」


「友人の子供だ。事情があってちょっと預かっている」


「そうですか」


 アイリンは少し怯えた顔だった。ロベルトから威圧感を感じ取ったんだろう。


「それで、今日はレッドさんがご出陣なさるんですね?」


「ああ……でもこいつ、今日が初めてだから軽く一戦だけ頼む」


「分かりました」


 ロベルトが部屋の隅に立っている部下を手招いて、小声で何かを指示した。すると部下は「はい!」と答えて部屋を出た。


「試合を手配しました。少し時間がかかりますから、一緒にお酒でも……?」


 爺と俺がその誘いを断ると、ロベルトは部下に水と果物などを持ってこさせた。爺は水だけ飲み、俺は緊張しているアイリンにリンゴを渡した。アイリンは両手でリンゴを掴んで食べ始めた。


 そして数分後……ロベルトの部下が部屋に入ってきて大声で報告する。


「まもなくレッド様の試合が始まります!」


「よろしい。では皆さん、行きましょうか」


 俺たちとロベルトは一緒に部屋を出て、2階の隅まで行った。そこには階段があった。


「この階段を降りたら、試合場に辿り着きます。試合のルールはご存知でしょうか」


「知らないけど、道具なしで相手を殴り倒せばいいだろう」


「ふふふ……左様です」


 ロベルトが笑った。その笑顔だけ見れば親切な紳士だ。


「私も観覧させて頂きます。どうかいい試合になりますように」


 俺は軽く頷いて階段を降りた。爺は無表情で、アイリンは心配げな顔で俺を見つめた。


 階段を降り切ると長い通路が見えた。通路は鉄網で囲まれた空間……つまり『試合場』に繋がっていた。


「……面白そうだな」


 期待と興奮で胸がときめいてきた。この『夜の仕事』が好きになりそうだ。

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夜の仕事…夜想曲ぢゃなくて、そっちかい!
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