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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第11章.深まる乱世に負けない力を蓄える
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第97話.個人的な感情……

 俺はエミルの提案通り、情報部を設置した。

 『情報部を設置』と言っても、別に大したことはやっていない。この地方に詳しい兵士を数人選抜して、エミルの下に配属させただけだ。

 エミルは選抜された兵士たちに指示を出し、この周りの情報を集めさせた。それが情報部の最初の任務なわけだ。まあ、設置されたばかりだし……あまり大きな収穫は期待できないだろうけど。

 そして情報部を設置してから1週くらい後、事務室でエミルが俺に報告を上げた。


「総大将、情報部の活動について報告することがあります」

「何か掴んだのか?」


 エミルは無表情で頷く。


「大した情報ではありませんが、総大将がお聞きになりたいことだと思いまして」

「何の情報だ」

「ダレルの村の救援に対して、パウル男爵の兵士たちが何故あんなに遅かったのか……その理由です」

「それか」


 確かにそれは疑問に思っていたことだった。

 先日……俺は『ダレルの村』を襲撃した盗賊たちを倒した後、村の再建を手伝った。ところがダレルの村の領主である『パウル男爵』は、数日も経った後からやっと救援を送ってきた。自分の領地で事件が起きたのに、あんなに遅く対応するなんて……普通にはあり得ないことだろう。


「どうやらダレルの村が襲撃された頃……パウル男爵の妻が病気で死んでしまったようです」

「……ん?」


 まさかそんな理由で……?


「それはつまり……妻が死んで領主としての役目を放置していた、ということか?」

「その通りです」


 俺は眉をひそめた。


「まあ、もちろん妻が死んだことは気の毒ではあるが……」

「はっきり言って、領主として失格です」


 エミルが冷たい声でそう言った。


「一般人ならいざ知らず、領主のくせに個人的な感情に流され……自分の領地と民を守るという基本的な義務も果たさなかった。能力がどうとか以前に、領主になってはいけない人間です」

「まあな」


 俺は肩をすくめた。

 もし俺に似たようなことが起きたら……たとえば、アイリンに何か起きたら……俺は冷静に対処することができるだろうか。そんな非生産的な想像をしていた俺は、はっと気が付いてエミルを見つめた。


「まあ、とにかくもっと情報を集めろ。外交はその後だ」

「はい」


 エミルが事務室を出た。1人になった俺は沈黙の中で書類仕事をこなした。


---


 いつの間にか空が暗くなっていた。

 副官のトムを退勤させてから、俺も事務室を出た。今日はレイモンたちと一緒に過ごしつもりだ。ところで俺が大通りに向かおうとした時、小柄の誰かが近づいてきた。


「爺?」

「レッド」


 気配も音もなく俺に近づいたのは……鼠の爺だった。爺はいつも通りのみすぼらしい姿だった。


「もう戻ってきたのか」

「ああ、大体の用事は済ませた」


 爺は少し疲れているようだった。

 俺は爺と一緒に事務室へ戻り、兵士に指示して暖かい水を持って来させた。爺は椅子に座って水を飲んだ。

 やげて爺が水を飲み干すと、俺は話を始めた。


「爺、今回の旅の収穫は何だ?」

「情報だ」


 爺の答えに俺は頷いた。

 鼠の爺は優れた情報屋でもあって、設置されたばかりの情報部より優秀だ。たぶん相当有用な情報を集めてきたに違いない。


「で、何の情報だ?」

「王都とその周辺の情報を集めてきたのさ」

「そうか」


 王都の情報……それは俺としても結構気になる。王族たちは今頃何をしているんだろう。


「王族たちはもちろん、王都周辺の貴族たちは……兵力を集結させている」

「じゃ、やっぱり……」

「ああ、春が来たら本格的な内戦が始まる」


 冬に軍事行動を起こすのは、結構無理な話だ。だから俺もこの冬が終わってから内戦が始まるんじゃないかと推測していた。爺の情報によると、その推測が正しかったわけだ。


「レッド、お前の現在の兵力はどれくらいだ?」

「俺が自由に動かせるのは800くらいさ。警備隊の500もいるけど、やつらはこの都市を守らなければならない」

「少ないな」


 爺が嘲笑った。


「内戦に乗じて勢力を伸ばすためには、その2倍は必要だぞ」

「分かっているさ」


 防御ならともかく、征服するためにはある程度の数が必要だ。春が来たらまた新兵を募集してみるか。

 俺はしばらく爺と現状について話し合った。そして10分くらい経った時……誰かが事務室の扉をノックした。


「誰だ?」


 俺が声を上げて聞くと、扉の外から「ヘレンです」という女性の声が聞こえてきた。扉を開けたら優しい雰囲気の美人が立っていた。


「すみません、遅い時間に……」


 ヘレンが申し訳なさそうな顔で頭を下げた。俺は彼女を事務室に入らせた。


「あ、鼠の爺さん」

「久しぶりだな、ヘレン」


 爺とヘレンが挨拶を交わした。

 俺は兵士に指示して、もう一度暖かい水を持って来させた。そしてヘレンが水を飲んでから質問をした。


「ヘレンさん、今夜は何の用だ?」

「それが……」


 ヘレンは少し間を置いてから話を始める。


「アイリンちゃんに関することです」

「アイリン?」


 俺は眉をひそめた。まさかアイリンに何かあったんだろうか。


「アイリンがどうした? 何かあったのか?」

「いいえ、アイリンちゃんは元気です」

「じゃ、何のことだ? 早く言ってくれ」


 俺が促すと、ヘレンは俺を見上げる。


「実は、アイリンちゃんの声を……治せるかもしれません」


 その言葉の意味を理解した俺は……まるで頭に一撃を食らったような衝撃に包まれた。

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