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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第11章.深まる乱世に負けない力を蓄える
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第95話.帰還するか

 ダレルの村で泊まってから4日後……やっと寒波が弱まり始めた。

 まだ空は曇っているし、時々雪も降ってくる。でもこれくらいなら兵士たちも何とか進軍できる。俺は早速人を送って、俺が統治している『南の都市』から医者たちと護衛部隊を来させた。

 そして更に数日後、医者たちと護衛部隊の30人がダレルの村についた。俺は医者たちに指示し、村の負傷者たちを治療させた。

 村長や村人たちは俺に何度も頭を下げた。この村にも医者がいないわけではないが、今は絶対的な人手不足なのだ。自分たちの領主からも見捨てられた『ダレルの村』の人々にとっては、隣の悪名高い『赤い化け物』が救世主のように見えるのも無理ではない。

 俺はふと思った。俺は赤い肌のせいで人々から軽蔑されてきた。しかし今は、赤い肌のせいで人々が俺のことを特別な存在だと認識しているような気がする。俺には呪いでしかなかった赤い肌が……いつの間にか俺だけの長所になっているのではないだろうか。


---


 兵士たちと村の周辺を軽く偵察してから、俺は村長の家に向かった。村長の家を臨時病院にして、数人の医者たちが負傷者たちを治療しているわけだ。

 医者たちの中にはヘレンの姿もいた。彼女は優秀な医者でもあるから、連絡して来てもらった。そしてヘレンの傍には……アイリンの姿もいた。

 俺は部屋の外からアイリンを見守った。アイリンはヘレンの指示に従って負傷者たちの治療を手伝っていた。小さな手で包帯を巻き直したり、傷口に薬を塗ったり……アイリンはとても誠実な顔で忙しく働いていた。

 俺はヘレンに協力を求めたが、アイリンまで連れて来いとは言ってなかった。アイリンは完全に自分の意志でここまで来て、自分の意志で治療を手伝っているのだ。それがあの子の選んだ道だ。俺がどうこう言えることではない。俺は治療の邪魔をせず、村長の家を出た。


---


 酷寒の冬も終わりに近づき、少しずつ暖かくなっていった。

 ダレルの村の再建も順調に進んでいた。比較的に怪我の軽い負傷者はもう働き始めている。元々賑やかな村だったし、本来の姿を取り戻すのも遠くないだろう。

 俺はもう少しダレルの村に泊まることにした。何しろヘレンと他の医者たちが、まだ治療の必要な人が数人いると言ってきたのだ。もう少し再建を手伝ってから去ってもいいだろう。

 しかし……そんな俺を追い出そうとする連中が現れた。ある日の午後、80人くらいの兵士たちがダレルの村に近づいてきたのだ。


「あいつらは……」


 青い旗を掲げている、よく訓練された正規軍だった。俺はやつらの姿を見て眉をひそめた。


「……遅すぎるんだよ」


 やつらはこの村の領主であるパウル男爵の兵士たちだった。村の再建が始まってもう数日以上経っているのに、やっとここに来たのだ。流石に遅すぎる。

 部下たちに待機を命令して、俺は一人でパウル男爵の兵士たちに近づいた。すると士官に見える男が前に出た。


「貴方がレッドさんですね?」


 士官が俺を凝視しながら聞いてきた。俺は「そうだ」と答えた。


「我々はパウル男爵様直属の部隊です」

「そうだろうな」

「貴方の協力には深く感謝しています。ここからは我々が村を保護しますので、どうかお引き取り願います」


 このダレルの村の領主はあくまでもパウル男爵だ。緊急時だったとはいえ、俺は領主の許可なしでこの村に進軍した。侵略と疑われても仕方のないことではある。だが……やっぱり気に入らない。


「まあ、すぐ去ってやるさ。ただ……1つ聞きたいことがある」

「何でしょうか」

「お前ら……何故こんなに遅いんだ?」


 俺の質問に士官の顔が強張る。


「寒波のせいで救援を出せなかったのは理解できる。しかし寒波が去ったらすぐ駆けつけてくるべきではないのか?」

「……我々はあくまでもパウル男爵様の命令に従って動いただけです」

「ちっ」


 まあ、こいつらを問い詰めても仕方ないか。

 俺は部下たちと医者たちに指示して、南の都市へ帰還する準備に入った。村の人々は何度も俺たちに感謝の言葉を言って来た。中には涙を流す人もいた。

 そして数時間後……俺は兵士たちを率いて村から離れた。ダレルの村の人々は全員集まって俺たちを見送ってくれた。


「さあ、進軍せよ」


 俺の命令に従って、医者たちやエミルを乗せた馬車と兵士たちが動き始める。


「待ってください!」


 その時だった。村人の中から1人の若い女性が飛び出て、こちらに向かって走ってきた。俺は素早く進軍を停止させた。


「レイモンさん!」


 若い女性は涙を流しながら……馬に乗っているレイモンに近づいた。レイモンは驚いて目を丸くした。


「春が来たら、必ず寄ってください! 私、待っていますから!」

「は、はい!」


 レイモンが赤面になって頷いた。状況を把握した人々は……みんな拍手し出した。


「でかしたな、レイモン」

「ボス……」


 レイモンは恥ずかしがった。戦場では悪魔のように強いのに、こういう時は本当に純粋な青年だ。


「進軍を再開しろ」


 やがて俺たちはダレルの村から離れて、帰路についた。

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